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賭け事
それは、人を狂わせる。身近なギャンブルと言われると真っ先に思い浮かべるのはパチンコや競馬とすっと思い浮かぶだろう。それらにのめり込んでしまう理由は幾つかあるだろうが、個人の見解としては『その先』のモノに目を奪われるからだ。
少額を賭ける、当たれば何倍ものお釣りが帰ってくる。その 甘い蜜が人を狂わせるのだ。そしてさらに怖いのがこういった賭け事が昔から簡単な手法で出来てしまう。その一例がトランプを使った賭け事、ブラックジャックなんかがわかりやすいだろうか。
ゲームとして分かりやすく面白い。そしてそれ故に簡単に賭け事として使えてしまう。どういうことかを説明すると、『この勝負に勝った方が〇〇を貰う』という提案がスっと通るのだ。
ブラックジャックのルールはみな分かると思うがものすごく簡単に説明するなら、21を目指すトランプのゲームでこの数字が21に近い方が勝ち。という至極単純なルール。故に先程話した『勝った方がものを貰う』という特殊ルールもつけやすくかつ手軽に出来てしまう賭け事なのだ。
賭け事自体ご法度とされてはいるが、そういった特殊ルールが生み出す緊張感はほかの何事にも変え難い『魔力』を秘めてる。もちろんそんな賭け事が無くてもピリつく勝負というのは世の中5万とある訳だ。
その中で私が個人的に推してるのが最近熱を帯びてきたとあるカードゲーム『Brain』
基本的なルールを口頭で説明するならいわゆる数字遊びのようなもので数が大きい方の勝ちで、決められたラウンドの中でどちらがどれだけ勝率を挙げられたか、というシンプルなルール。
そこにカードの効果やそのルールの詳細が加わる形になるのだが、別にそれも難しい話ではない。ここではそのルールをサッと記しておこう。
『Brain』ルール説明
・参加人数は2人『王』と『市民』のふたつの陣営に分かれて戦う。
・カード枚数は合計13枚、うち6枚は互いの手札になり残る1枚はシークレットで両者確認ができない。また、『王』陣営は手札に必ず【王】というカードが入り、『市民』には【市民】という手札が必ず渡される。
・ラウンド数は6ターンで、陣営と先行後攻を決め手札のカード1枚選択し両者揃った時にそのカードを公開する。この時、数値の大きな方が勝負に勝つ。
・試合数は3回で、1回目が終わった後2回目は陣営が逆になる。『王』は『市民』になり『市民』は『王』となる。ここで決着がつかない場合は2回目の勝者が『王』か『市民』かあるいは先行後攻を選択できる。
・カード一つ一つには【効果】が存在し、それらは公開された時【必ず】発動する。この時、効果の処理方法は【先行→後攻】の順となる。※原則
・また、点差が開いても逆転の可能性として『予測』と宣言することが出来る。これは、ラウンド1〜4の間に1度しか両者唱えられない。『予測』は相手が勝負に出るカードを当ててその上で勝負に勝つと獲得ポイントが【2】に変わるというもの。原則勝負に勝つとポイント1を獲得するのだが、この『予想』を使い勝てた時のみポイントが増えるという仕組みだ。
・基本点差があろうと手札6枚使い切るまではゲームは続行するものとする。
〜カード説明〜
・『1』市民
数値は最弱のカード。【王】と対面した時勝負に勝ちゲームに勝てる。
・『2』占い師
場に出た時相手の手札1枚を選択し、常時公開させる。
・『3』農夫
次の勝負時、自身のカードの強さプラス『1』を付与する
・『4』学者
場に出た時相手と自身の手札1枚を入れ替える。
・『5』狩人
【獣】【戦士】が対面の場合、こちらが勝利する
・『6』愚者
この勝負の時のみ数値が低い方が勝利する
・『7』狂人
【騎士】【暗殺者】が対面の場合、こちらが勝利する
・『8』大臣
相手のカード効果を無効にする
・『9』獣
勝負時、相手の使用済みカードの効果を使える。
・『10』戦士
勝利時、手札のカードを1枚捨て代わりにこのカードが手札に戻る
・『11』騎士
勝負時互いにかけられたバフは無効化される。
・『12』王
このカードが勝負に勝つとゲームに勝利する
・『13』暗殺者
両者カードセット確定後、自身か相手のカード数値を『0』にする
以上がカードゲーム『Brain』のルールとカード説明になる。補足としてこのゲームは相手に肉体的な害ある攻撃は禁止だが、ブラフなどの『口撃』は認めている。これがこのゲームの面白さを引き出していると言っても過言ではない。相手を口で操り、自身がより有利に戦況を進める様は『人が人である』汚さの象徴が見えるからだ。
もちろんこのゲームには賭けるものはない。が、強いてあげるなら『己のプライド』が賭けるものになるのだろう。金銭的なものを賭けては、それは賭博になるが、賭けるものが『プライド』なんていう金銭的価値はないが、失いたくないものでもある、そんなものを賭けるからこそこのゲームはより面白さを際立たせることが出来るのだ。
そしてこの『Brain』は今や世界中で人気となり大会が作られるほどの規模になっている。かくいう私もその大会に何度か参戦したことがある。それほどこのゲーム単体で面白く、このゲームでどちらが勝つかを『賭け事』として扱うほどに……。
では、ルールとカード説明を聞いた上で面白そうと思ったのならそのプレイをみんなに見てもらおう。俯瞰しても面白く、当事者になればさらに面白い『Brain』の世界へ……。
「じゃあ、今日もやるか!」
「よし、とことん付き合ってやるよ」
「どっちの陣営でやりたい?」
「なら、私は『市民』でいいよ」
「へぇ?強気じゃん。」
「『市民』は苦手だから慣れときたくてね」
「なら、俺は『王』で行こう。先行後攻はそっちが決めていいよ」
「なら私先行で」
「おっけー!んじゃ審判頼むよ『アルナ』」
「はいはい…。では、試合開始!」
山札がシャッフルされ手札がそれぞれ配られる。私に配られたカードは『市民 農夫 愚者 大臣 狩人 狂人 』この6種だ。カードの持つ数値は決して高くは無い。数値として1番強いのは『8』の攻撃力を持つ大臣、そこに農夫のカード効果を使えば9にはなるが、それでも厳しい手札なのは変わらない。純粋なカードパワーでは負ける可能性が高いが、やりようによっては全然勝てる。
というのも、私の持つ手札の大半はカウンターカードが多い。【王】に強い『市民』はもちろんのこと、『狩人』と『狂人』の2枚もカウンターとして使える。さらに言えば『大臣』はどのカードに対してもある意味特攻を持っているため奥の手として使える。この厄介さを伝えるならば相手の【王】に対して私は『市民』と『大臣』の二枚で守ることが出来るのだ。
対する相手の手札だが、まず確定なのは【王】これは必ず持つことになるため残り5枠を予想する事となる。今余ってる択として『占い師 学者 獣 戦士 騎士 暗殺者』となるがどう願っても私の持つ『大臣』以上の数値を持つカードは4 枚以上になる。ここで厄介なのは残ってる6種のうち『占い師 学者』の2つが残ってしまっていること。『占い師』は相手の手札を1枚確認できる。つまり、情報アドバンテージを獲得できてしまうのだ。このゲームにとって勝敗以上の価値を生むのが『情報』なのだ。
同じ理由で『学者』の手札交換という択を取れるところも困る。言ってしまえば一方的に相手の手札が1枚わかってしまうということ。どういうことかを説明すると渡したカードの持ち主は元々自分のため、そのカードが何なのかを把握出来てる、それ即ち『占い師』の効果と何ら変わらないのだ。
その中で双方にも言えることはある。交換したカードは互いに『分かって』いるという点。だがしかし、『学者』を使った本人は自身の手札で不要なものを相手に押付けどうこの先動かすかの主導権を握っている。『カードを交換した』という同じ条件に対して得られる情報の差が『学者』を使用したか否かで顕著になってしまう。
このように情報の差が出てくるあの2種類が選択肢の中にいるのが私の思考の邪魔となる。いくら頭の中であれこれ考えても答えはやってみないと分からない。しかし、少しでも情報を得る必要があるのも事実。なら、私のやることは1つしかない。『口撃』をアイツに仕掛ける。
「まぁ、悪くは無い手札ね。」
「へぇ?実は俺も結構いい感じの手札よ?」
「てことは何?一方的に殴って勝ちもらった的なパターンかな?」
「さぁ?それはどうだろうね?」
少しほくそ笑んだわね…。
「なら、とりあえずは様子見のこの子を出しておこうかな?」
「いいんじゃないか?ま、そのカードが何なのかは知らんけど」
言葉の通り彼には少し余裕が見えてる。てことは少なくとも【王】を除いた数値の高いカードは複数ある。が、少し揺さぶってみるか
「最初から【王】とか出すのを勧めるよ」
「…ほぉ?それ、君が『市民』を出さなかったら俺の勝ちだけど?」
「そうね。私がセットしたカードが『市民』以外だと思うなら『王』を置けば?」
こうすることで少なくともアイツに『一手目から市民を出す』という可能性を提示させた。これによって無駄に考えることが増えたはず。お世辞にも手が強い訳では無いこれで勝つにはこういう小細工が必要。
「………なるほど。最初から飛ばしてくるあたり手札は俺の思ってるより良くはないみたいだな。」
「かもね?それを確かめるために数値の高いカード出したら?例えば『騎士』とかね?」
口元に手を添えて考える素振りをした後少しの間が空いて口を開く。
「よーし、じゃあその話乗った。お前が選んだカードは『市民』以外の弱カードと読んでこいつを俺は出そう。 」
どうやら相手は腹を決めたらしい。これで【王】なんか出された日には目も当てられないが、手札が強いと確信してるアイツは恐らく泳がすだろう。なら、まずはこの手札でいらないカード『農夫』を私は切る。
「おっけい。じゃあ私もう決めてる子がいるからあとはあなたがセットして」
「大丈夫、俺もあの会話を交わしながら決めてるから。」
「じゃあお互いに選んだカードを公開しましょう。」
「いいぜ?」
「では、お互いにカード公開!」
【王】 『2』占い師 【市民】 『3』農夫
相手は【占い師】を切って、私は【農夫】を切った。勝負上私の勝ちだが、占い師の効果で手札が1つ公開されることとなる。
「ほぉ!いい塩梅のところを切ったか」
「数で言えば有利トレードなんだけど、占い師持ってたか。」
「それじゃあ手札1つ見せてもらおうか。
選ぶのはもちろん俺から見て左から二番目のカードだ」
「おっけい。それじゃああなたから見ての左だから…、右のこの子を見せるわ。」
そういい手札公開したのは『市民』のカード
「うぇぇ!?」
「残念ハズレ♪
互いに最初から持ってるカードをわざわざ見える状態にしたとて、ね?」
「いいや?逆に言えば市民が見えたことによって【王】が出しやすいね。なんせ、君が先行だから先に『市民』を置いた時別のカードで対処させればいいだけなんだからな。」
「まぁ、それもそうね。けど、あなたも早めに王を切らないと行けなくなったのも事実。後に回してると最終局面で市民とやり合うかもしれないんだから。」
「かもね?」
【王】0-1【市民】
続く2戦目だけど、『市民』が見えてるようじゃ確かに動きずらいな。とりあえず相手は『占い師』を失った。残り4枚のうち、1つに『学者』さえいなければなんとかなる。恐らく相手は市民が見えたことで【王】を出しやすい環境になったと思ってるかもしれないが私には『大臣』と『愚者』の2枚が残ってる。大臣なら効果無効でゲーム終了を防げるし、愚者なら、数値勝負にも勝てそのうえで効果も発揮しない。布陣としては悪くない。
もっと言えば相手視点はかなり怖いはずだ。なぜなら彼の持つカードのカウンターカードは全て私が持っている。『獣』や『戦士』を出せば『狩人』の餌食になり、『騎士』や『暗殺者』を出せば『狂人』で返される可能性が潜んでいる。そう簡単には強いカードは切れないはず。
さらに言えばもし『戦士』のカードを引いてるならそれを使った場合手札を1枚捨てないといけない。つまり、手持ちのカード1枚と使った戦士を交換するということ。これもそう易々と使えず、扱いにくい効果ではある。しかし、単純なカードパワーは高いため今の私のように数値が低いのばかりで固められてるのでは餌食になり得る。2巡目のこの状況で『戦士』を出してくるかは怪しいが少なくとも3 4巡目辺りで出す可能性は高い。
一旦私は安定択で『狂人』をセットしておこう。2巡目にして【王】を出す率はそれほど高くないだろうし、かと言って最初の方で1つ勝ち星を付けておきたいのが心情だ。
なら、出すカードは『学者と王』を除く4種のうちどれかだが、『騎士』と『戦士』に関してはまず出す率は低い。『騎士』の効果である『バフを無効化』は『農夫』を切った私とはいえ、彼の手札からして数値の高いカードを私が持ってると判断されることはまずない。なので単純打点という意味で取っておくだろうし、『戦士』は先程話した理論によって除外される。
残る『獣』と『暗殺者』だが、仮に『暗殺者』を持っていたとして相手視点では私が『愚者』を所有してる可能性が捨てきれない。となると、『暗殺者』を使った時その効果の『自身か相手のカード数値はゼロになる』が邪魔をし安易に出せない。であるならば出る可能性が高いのは『獣』
なら何故ここで『狩人』を出さないのか?『獣』の効果はいわゆる使用済みカードのコピー能力になる。強力な効果ではあるが、仮に相手の手札が『獣 暗殺者 戦士 騎士 』というようなラインナップだと損切りをするのは『獣』か『騎士』2択となり、騎士は先程話した通り単純な打点という面で保持してたくなる。なので必然的に『獣』が出やすいはず。まぁ、『騎士』が出ても私は『狂人』を出してるので勝ち星は獲得できる。なので私は『狂人』こいつをセットする。
「おっけい。私は決まった、セット完了よ」
「なら次は俺の番になるな」
彼もまた口元に手を当てカードスタンドに立てかけた自分の手札とにらめっこを始める。そりゃ彼も簡単に決められないはずだ。まだ攻めに転じるには早いかもしれないが、かと言ってゆっくりもしてられない。なんせ相手視点では【王】を潰すカードは最低2枚はあるように見えてるんだ。
理由として私が【王】に対抗できる【市民】カードを公開されたのに焦る様子を見せなかったことから【市民】以外の対策カードが手の中にあるのは見えている。しかもそれは、『大臣』と『愚者』という厄介なカード2種。もちろん片方しか持ってないケースも考えられるがこのゲームの性質上互いの手札は 6枚。だが、使用カード枚数は 13枚と1枚溢れるように作られている。その『溢れた1枚』が『愚者』か『大臣』と彼は読めてしまうだろう。よってこの手番で【王】を出すというリスキーはしない。
なら、次の選択肢は私が長考した案にたどり着き、彼は『獣』か『騎士』のどちらかを出さざるを得ない!
「よし…。俺も決めたよ」
「では、両者セットカード公開」
【王】『4』学者【市民】『7』狂人+農夫の効果『1』
「!?」
「あーやっぱり?『狂人』か『狩人』出すと思ったんよね。出来れば『狩人』が良かったけど」
「学者も持ってたのか…」
「本当は後で使おうと思ってたんだけど、まさかの『占い師』で外したからさ」
「おもろいじゃん。」
「えーと?これによって【市民】側にポイントが入り、【王】は『学者』の効果で手札交換が出来ます!どれ交換します?」
「なら、俺は【市民】を頂こうかな」
「!!?」
「では、【王】は何を?」
「このカードを渡してあげてくれ」
審判を務めるアルナによって公開されてる【市民】と彼の選んだカードが交換される。渡ってきたカードは『戦士』のカードだ。
「よし、これでおもろいことは出来るな」
「まさか【市民】を奪うとは…」
「これによって俺は【市民】の逆転勝ちに怯えなくて済むんだよね。」
「ふーんなるほどね。」
「では、続く3巡目!【市民】側からお願いします。」
【王】0-2【市民】
『学者』を持ってたことも驚きだけどそれ以上に【市民】を奪っていった方が驚きよ。でトレードで渡されたのは『戦士』のカード。やっぱり私の予想通り数値の高いカードを取りそろえてるのは間違いない。
相手の手札状況は使用済みも含むと『占い師 学者 市民 王 ? ?』となる。あの二枠に入るカードは『騎士 暗殺者 獣』の3種だが、私の中である仮説が生まれてしまっていて、それが思考にモヤをかける。
それは、あのシークレットカードは『暗殺者』ではないかという説。理由として、彼は私の公開カード【市民】を選択した。一般的な考えを持つなら【市民】は取らず、別の物を選択すると思うが、彼はそうはせず【市民】を選んだ。口では【王】の対抗カードをひとつ消したと話していたが、恐らくそれはブラフ。
本当の狙いは私の手持ちに『愚者』がいる読みでそのカードに勝てるカードが欲しいから【市民】を選んだということ。『暗殺者』が手持ちにいれば【市民】を選ぶ理由はまぁ浮かんでは来ないだろう。
そして、私に渡した『戦士』のカードは私の打点が低いのを見抜きこれを渡すことで対抗策を得させて、別のカードの消費を促す為だろう。残念ながらその策は私は読んだ……けどこれが私の考えすぎ、杞憂で終わる可能性はゼロではない。仮にこれが彼の書いたシナリオだとして、この『戦士』のカードは早い段階で切りたい。後ろに取っておくと確実にカモられる未来が見えるからだ。
もし、私の立てた仮説が正解だった時相手の手札は『占い師 学者 市民 王 獣 騎士』となり『戦士』に勝てるのは『騎士』と『王』の2択になるのだが、仮に私がこのターン『狩人』を出して次のターンに『戦士』を出すとしたら『獣』の効果によって『狩人』の効果を使われ実質的に勝てる札が3枚になってしまう。
つまりこの『戦士』というカードは今回の試合における『ババ』となるわけだ。故にこのターンでコイツを切る切らないがターニングポイントになり得る。
もしここで私が『戦士』を切って相手が【王】を出せば負けるし、【王】でなくても『騎士』で伏せがれでもすれば延長戦に持ち込めるが、そうなった時【予測】を使われ負けるとポイント差はひっくり返る。あとは噛み合い次第だ。手札の『愚者 狩人 大臣 戦士』でどう防ぐか…。ここが本当に大事になってくる。
「……おっけい、覚悟決めた。セット完了よ」
「かなり苦い顔をしてたな?」
「思考の檻に囚われてたのよ。」
「じゃあ俺は予め決めてたこれで。」
「では、セット完了したので、公開」
【王】『11』騎士【市民】『5』狩人
「この勝負は【王】の勝ちですのでこちらにポイントが入ります!」
しまった……。ここで『騎士』を切ったのか。安定択で差を埋める気か。てことは次で確実に『予測』は使ってくる。点数差をつけるなら私もここで『予測』を使わないといけない。くっ…。頭の使いすぎで知恵熱みたいなのが出そうだよ本当……。
「いいねぇ、ワンチャン生まれたぞ」
「深く考えすぎた結果よこれは……。」
「そのまま思考の檻に閉じ込められてくれや」
「絶対いや!」
「やっぱり?」
「当たり前よ!」
「……じゃあ、4巡目お願いします。
ここで『予測』使わないと次から使えないターンですよー」
【王】1-2【市民】
相手の手札は『市民 王 ?』で私の予想だと最後の1枚が『獣』なんだけど、『暗殺者』に置き換えても苦しいのは変わんない。やっぱりここで『戦士』を切らないと…。
このターンはもうどうにもならないから、捨てたとして次のターンが本当に重要な局面。このターン私は『戦士』を切る。対抗馬は何か分かんないけど、もし【王】じゃない方なら5巡目相手は『市民 王』となり私は『愚者 大臣』となる。
もし、相手が【市民】で私が『大臣』ならそのままストレートで勝てる。逆に相手が【王】でこちらが『大臣』では、試合勝利の効果は消えるが、最後の勝負も負けは確定してる。
前提としてお互いこの4巡目に『予測』を行い当てたという前提の上の予想にはなってる。やっぱり4巡目真剣に考える必要があるか…
まず最悪なのは【王】を出されること。【王】が出て対抗馬が『戦士』ではゲームセットになってしまう。なのでそれを防ぐためには『大臣』か『愚者』が丸いのだが…。仮に『大臣』を出した場合相手は『市民 ?』の2枚となり、その片方が『獣』でも『暗殺者』だろうと結果は余り変わらない……か?
『獣』なら効果をコピーしても対抗馬が『愚者』なら効果関係なしに数値勝負になるため私が勝つ。『暗殺者』だとどちらのカードをゼロにするかで危ういが、ここを死守すれば勝てる未来はある。
冷静に分析してみるんだ私…。考えられる可能性を……。
いくつも仮説というのは立てられる。今私の立ててる仮説もあくまで『予測』をどちらかが当てた時で考えてるが、両者が外すことだってあるわけだ。『予測』外しの勝負勝ちという未来があるなら、接戦になる。
現在数字は【1-2】という状況で、仮に相手が『予測』を外し、勝負に勝ったなら【2-2】の形にもつれ込む。この時の手札次第では、【4-2】【2-4】【3-3】の3種のパターンが見えてくるはず。理想は【2-4】で私が勝つことだが、最悪【3-3】でドローに持ちこむのも悪くは無い。そしてこの【3-3】【2-4】に持ってく為には4巡目に【王】の効果を無効にするなりする必要がある。
【王】に対応できるカードは『愚者』と『大臣』の2種だ。『愚者』のカードを切って勝ちを手に入れるか、はたまた『大臣』で安定択を取り、ピリつく戦況に持っていくか…。
実際『愚者』をここで切った時相手が【市民】でも出してたら終わりだ。【王】が残り最後の1枚が『獣』『暗殺者』のどちらだとしても戦況は苦しい…。『大臣』に対してあの3枚どれでも出されたら数字で勝てないし、かと言って『戦士』を出せば唯一の可能性『暗殺者』の数値変更で勝てるように思えるが、あれは『互いにセット完了時相手か自身の数値をゼロにする』という効果のため、『愚者』を切った私では迷うこと無く私のカード数値をゼロにしてしまうだろう。結果として残るのは【4-2】の構図だ。
『愚者』負けで【2-2】『戦士』『大臣』負けで【3-2】【4-2】というシナリオになってしまう。この最悪のシナリオは何とか回避したい。『予測』を当て、そのうえで【王】を封じれば勝利は確定…。頭であれこれ考えて爆発しそうになるくらいなら、サッと決めて終わらせるか。
「お待たせ。決めたよ私は。」
「熟考してたな?」
「最悪のパターンまで考えちゃってね」
「『予測』は使うのか?」
「えぇ使うわよ。」
「では、両者セット完了した時にお聞かせください!」
「てことは、俺が決める番になるんだよな?」
「はい!同じように熟考してもらっても大丈夫ですよ。」
「アイツが考えてる時に俺も考えてたから問題ないぜ。」
「ではセット完了ということで、両者『予測』をお聞かせください!」
「私の予測は【市民】よ」
「まぁ、勝てるカードはそれくらいだもんな。」
「対する【王】陣営は?」
「俺は『戦士』とみた。」
「へぇ?その心は?」
「取っておいても俺の手札には勝てねぇと予想してね?
少なくとも今俺は【王】を握ってるし、残り1枚が『獣』でも『暗殺者』でも戦士は太刀打ちできないから、ここで切ってくると予測って訳よ。」
「…それでは緊張の瞬間!両者カード公開!」
【王】『12』王『予測 戦士』
【市民】『8』大臣『予測 市民』
「これは……。【王】の勝ちですが、『大臣』の効果によって【王】のゲーム勝利の効果は無効化されます!」
「互いに予測は外したか。」
「て事は【2-2】で厄介な展開になったわけね。」
「白熱してるねぇ…。それじゃあ5巡目お願いします!」
【2-2】にもつれ込んで相手は【王】を失った。このタイミングで切ってくるのは予想してたが、分かっていても『予測』で当てるなんて勇気は出なかったな。まぁ、当てたところで勝てなければ意味は無いから無駄と言えば無駄か…。
が、一応『大臣』によって防ぐことは出来た。結果論だが『愚者』を切っておけば有利トレードだったかもな。ま、相手が『獣』を持ってたら危ないと言えば危ないが…。こうも長引くと変なプライドが出てきてしまうな。負けたくないというプライドが、さ。
もちろん最初から負ける未来は想像してないが、白熱したバトルになってきたなら余計そのいらない負けず嫌いのプライドが芽生えてしまうものだ。が、頭を使いすぎて思考回路が上手く回ってないのも事実。
この5巡目で全てが決まる【2-2】から【2-4 】または【4-2】の可能性があるんだから。とりあえず現状をまとめると相手は『市民 ?』で私が『愚者 戦士』の状態。勝ち星をあげるにはこちらが『愚者』を切って相手が『獣』or『暗殺者』(数値ゼロを私に付与)のパターンか、『戦士』に対して【市民】で対抗してくるかの2択。
逆に敗北パターンは今の逆を突かれるということ。『愚者』に対して【市民】or『暗殺者』(数値ゼロを自身に付与)もしくは、『戦士』に対して『暗殺者』(数値ゼロを相手に付与)か『獣』の効果で『狩人』の効果をコピーして弱点を突く。
私目線では『獣』か『暗殺者』のふたつで迷いが生じてるが、相手も相手で私の持ち札が『戦士』と『?』となっており、迷いが出ているはず。もしこれで私の手持ちが『愚者』だと予想し考えると【市民】は取っておきたくなるが、そうでなかった場合。例えば『愚者』だと予想してるものが『獣』とかになった時、【市民】では勝てないが、次の勝負は『戦士』と『暗殺者』で勝てる試合になる。となると【3-3】で引き分けに持って行ける。相手からすればこれが理想系だろう。
勝つビジョンは先程私が挙げたシナリオの逆をいけば彼は勝てて、私は私の挙げたシナリオ通りなぞれば勝てる。しかし、そうならなかった場合は今の【3-3】という引き分けのルートに持って行ける。結果としてこの1試合目はドローで終わるため、お互い丸い結果にはなるのかもしれない。
だが、ここまで来たら完璧に勝ちたいはずだ。現に私も引き分けという幕引きは嫌なんでね。だから私は自分の立てたシナリオを信じてここは『愚者』を選択する!
「これに全てかけるわ」
「【市民】は決まったようです!それじゃあ【王】のターンに移りますが…」
「こうなった時点で俺はもう決めてる。」
「では、お互いセット完了ということで…」
「その前に、俺はカード効果を使う」
ここでカード効果を使うということは……
「そう、俺がセットしたのは『暗殺者』だ
ここでもし、お前が対抗馬として『愚者』を選択していた場合俺は自分の数値を下げないと勝てない。だが、『愚者』じゃなかった場合はお前の数値を下げないといけない。 」
「で?どうするつもり?」
「俺は………ここで相手が『愚者』と予想し自身の数値を『ゼロ』にする!」
「本当によろしいですね?」
「おう。ここを取れば引き分けになるからな。」
そうか。今私は『愚者』をセットしてるからここをあいつが取ると【3-2】となり、残るカードは【市民】と『戦士』となり、もちろん『戦士』の勝ちなので【3-3】となるのか!
「では、カードを公開」
【王】『0』暗殺者【市民】『6』愚者
「『愚者』に対して『暗殺者』しかも数値ゼロですので…【王】の勝利!そして残ったカードは【市民】と『戦士』とカードが割れてます。
ということは結果は!」
【王】3-3【市民】Draw
「引き分けとなります!」
「くっ…やられたわ。」
「本当は勝ちを目指してはいたんだが、ちょっと勝負に出れなくて安定択を打っちゃったな。」
「いや、でもそれが一番よ。ここ一番の勝負じゃないと判断を下すのも簡単にはできないじゃん?」
「まぁ、カードパワーが強すぎたのが引き分けになった原因かなぁ」
「こんな偏ることなかなかないもんね」
「しかも、カウンターカードも全部持ってるとか無理よ無理。頭焼き切れるわ」
「残ったあのカードが『獣』てわけなんだけど、私目線だと『獣』の存在がチラついて本当に集中出来なかったわ。」
「特に俺が『戦士』渡した時だろ?」
「そりゃもう思考巡らせて巡らせて大変よ?」
これが『Brain』というカードゲーム。
思考巡らせ、自身の脳を焼き切るかのごとく白熱するから人によっては『Brain・heat』なんて言う人もいるほど。
さぁ、次は君がこのゲームのプレイヤーになる番だ。必要なのは多角的な考えをもてる頭とプライドを賭けることの出来る度胸だけ…
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