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ゆゆゆゆ
#Paycheck
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静まり返ったカジノ。
音は、もう何もない。
テーブルの上に並ぶカード。
完成されたはずの勝利の形。
――それが、意味を持たない。
マフィオソは、動かない。
椅子に座ったまま、ただそれを見ている。
「……あり得ない」
小さく、呟く。
すべては支配下にあった。
カードも、空間も、視線も。
それでも――
負けた。
「違う」
ゆっくりと首を振る。
「負けた、のではない」
指先が、カードに触れる。
震えている。
「理解できていないだけだ」
そう言い聞かせるように、並べ替える。
何度も。
何度も。
結果は変わらない。
「……なぜだ」
問いが、空間に落ちる。
返答はない。
マフィオソは、ふと笑う。
乾いた、ひび割れたような笑い。
「滑稽だな……」
懐から懐中時計を取り出す。
金のチェーンが、音を立てる。
カチ、カチ、カチ……
規則正しい音。
「時間は、正確だ」
「確率も、計算できる」
「すべては、予測できるはずだった」
そのはずだった。
なのに――
「お前だけが、例外だ」
その言葉だけが、やけに鮮明だった。
静寂。
マフィオソは、ゆっくりと立ち上がる。
椅子が、後ろに倒れる。
それにも気づかない。
テーブルに手をつく。
強く。
「……なんだ、それは」
問いじゃない。
――執着だ。
チャンスの顔が、浮かぶ。
笑い方。
視線。
声。
すべてが、頭から離れない。
「理解できない」
息が荒くなる。
「制御できない」
指が食い込む。
「だが――」
ここで、止まる。
ゆっくりと、顔を上げる。
目の奥が、変わる。
「……手放す気は、ない」
それは結論だった。
賞品ではない。
金でも、権力でもない。
あの男。
チャンス。
「お前は……」
低く、囁く。
「私の“外”にいる」
だからこそ――
「内に引きずり込む」
狂気に近い、静かな決意。
マフィオソは、懐中時計を閉じる。
カチ、と音が響く。
「逃がさん」
誰もいない空間で、
ただ一人、そう呟いた。
だがその声は、
確かに“次”へ向いていた。