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管野アリオ
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「そうだったんですね。でも、良かったんですか? お兄さんが来た時に困るんじゃ……」
「平気だよ。お兄ちゃん最近は全然来ないし、来るって分かった時にでも用意しておけばいいからさ」
「そう、ですか」
「それじゃあ、私もシャワー、浴びて来るね?」
「あ、はい、その……ごゆっくり」
入れ違いに亜佑美が浴室へ向かうと、再び訪れた緊張に朝陽はひとまずスマートフォンを手に取った。
「……どうしよう、こういう時、どうするべきなんだ?」
スマートフォンを手にしたは良いけれど、そこからどうするべきか悩む朝陽。
未経験ではあるけれど、一般常識としてある程度の知識は備えているし、コンビニでは下着などと一緒に避妊具も購入したし、最低限の準備は整えていた。
ただ、亜佑美は経験がある以上やはり緊張してしまうのも無理は無い。
(上手く出来なかったらどうしよう……、他の人と比べられたりするよな……きっと……)
技術面はどうにもならなくても、せめて雰囲気だけは壊さないよう、心を落ち着けることに集中する朝陽はスマートフォンを置いた。
その時、誰かからメッセージが届いたようなのだが朝陽は気づいておらず、そのままになってしまう。
一方亜佑美はというと、シャワーを浴びながら騒がしい胸の鼓動を落ち着けるのに必死だった。
(……初めてって訳じゃないのに、緊張する……)
今回、経験が無い異性と交際するのが初めてな亜佑美にとって、こういった場合自分はどうするべきなのか悩んでいた。
(……朝陽くん、そういったことに知識、あるのかな?)
先程朝陽がシャワーを浴びている時にチラリとコンビニ袋を覗いた亜佑美は、彼が避妊具を購入していることは確認済だった。
(朝陽くんらしいって言えば、らしいよね)
避妊は大前提ではあるが、亜佑美が過去に付き合った男の中には準備して来ない男がいたこともあり、そこに関しては特に気になっていたようでひと安心する。
(……やっぱり、私がリードするべきなのかな……)
全てを朝陽に委ねるか、それとも自分がある程度リードすべきなのか、結局答えが出ないまま亜佑美はシャワーを浴び終えて朝陽の待つリビングへ戻ることになった。
「ごめんね、結構時間かかっちゃって……」
「い、いえ! 全然大丈夫です!」
リビングに戻った亜佑美はソファーの端で背筋を伸ばして座る朝陽の姿を見て思わず小さく笑った。
「テレビつけてても良かったのに」
「え? あ、いや……特に観たい番組もなかったですし」
「そう? あ、それより飲み物も出してなかったよね。ごめんね」
「いえ!」
「何飲む? お酒もあるけど……」
「み、ミネラルウォーターとかありますか?」
「あるけど、水でいいの?」
「はい」
「分かった」
亜佑美は冷蔵庫からミネラルウォーターを二本取り出して朝陽の隣へ腰を下ろす。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
ペットボトルを受け取る朝陽の手は少しだけ緊張しているように見えた。
亜佑美が先に蓋を開けて一口飲むと、朝陽も続いて水を口にする。
喉が渇いていたのか勢いよく半分程飲み干していた。
やがて二人はペットボトルをテーブルへ置くと、静かな部屋にどこか落ち着かない沈黙が流れた。
朝陽は何か話そうと何度も言葉を探しているようだったが上手く口に出来ないようで、そんな彼を見て亜佑美がそっと口を開いた。
「……緊張してるよね?」
「……っ、はい。すみません……」
「謝らなくていいよ。怒ってるわけじゃないんだから」
「でも、その……こういう時って、男の方からちゃんとしなきゃいけない気がして……なのに何も出来なくて……」
しゅんと肩を落とす朝陽に亜佑美は優しく微笑んだ。
「朝陽くんは朝陽くんなんだから、そんなこと気にしなくていいよ」
「…………」
「私は誰かと比べたりしない。だって、私が見てるのは朝陽くんだけだもん」
「亜佑美さん……」
真っ直ぐ向けられる想いに、朝陽の胸が熱くなる。
そして亜佑美は少しだけ頬を赤く染めながら、小さな声で言った。
「ねえ、朝陽くん」
「はい……」
「キス、しよ?」
「……っ」
その言葉に驚いたように目を見開く朝陽だったけれど、その表情はすぐに緩んだ。
「……好きだよ、朝陽くん」
亜佑美その言葉が後押ししたのかもしれない。
朝陽は勇気を振り絞るように手を伸ばすと、そっと亜佑美の頬に触れた。
柔らかな温もりに触れながら、互いの距離が少しずつ縮まっていく。
緊張はするし、不安もある。
けれど、今はそんなことを感じないくらい、相手だけを想い、見つめていく。
「朝陽くん……」
「亜佑美さん」
見つめ合ったまま、二人はゆっくりと顔を近づけていき、どちらからともなくそっと唇を重ねた。
触れるだけの短いキスだったけれど、それだけで十分幸せな気持ちに包まれ、触れ合った唇の温かさに二人は照れくさそうに微笑み合った。
コメント
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うわあ、この第29話、ドキドキが止まらなかったです……! お互い初めての相手じゃないのに、それでも緊張してしまう感じがすごくリアルで。朝陽くんの「上手く出来なかったらどうしよう」とか、亜佑美さんの「リードするべきなのかな」って悩み、どっちの立場も分かるから胸がぎゅっとなりました。でも「私が見てるのは朝陽くんだけ」って台詞、最高に優しくてグッときました。キスのシーン、静かで温かい空気が文章から伝わってきて、思わずにやけちゃいました。次が気になります〜!