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#···などなど!!
びーえる中毒民
34
#ある意味ホラー
梅雨が近づき、雨の日が増えてきた。
放課後の部室は、窓を打つ雨音とキーボードの音だけが静かに響いている。
カタ、カタ、カタ……
セトはいつもの席で画面を見つめていた。
ヴァルはその隣で、途中まで作っているゲームのプログラムを組んでいる。
「……よし。」
小さく呟き、背伸びをする。
時計を見ると、もう午後六時を回っていた。
「そろそろ帰るか。」
パソコンを閉じながら立ち上がる。
しかし、隣から返事はない。
カタ、カタ……
セトの指は止まらなかった。
「セト?」
「……もう少しだけ。」
画面を見たまま答える。
「あと少しで終わるので。」
「昨日もそれ言ってたぞ。」
「……。」
返事はない。
ヴァルは苦笑しながらリュックを背負う。
「じゃあ俺も待つ。」
「……先に帰ってください。」
「なんで。」
「僕一人でできます。」
「知ってる。」
「でも今日は待つ。」
「……。」
また沈黙。
部室には雨音だけが響く。
十五分ほど経った頃だった。
セトの指が止まる。
画面を見つめたまま、わずかに眉を寄せた。
「……。」
ヴァルはその表情を見逃さなかった。
「エラー?」
セトは少しだけ肩を震わせる。
「……違います。」
「ほんと?」
「……はい。」
そう答えながらも、また同じ場所を何度も入力し直している。
消しては書き、また消す。
画面には赤い文字が並んだままだ。
ヴァルは静かに立ち上がり、セトの後ろへ回る。
「見せて。」
「……大丈夫です。」
その一言で、ヴァルの手が止まる。
「……またそれか。」
セトは小さく俯く。
「自分でできます。」
「時間かかっても。」
「迷惑をかけたくないので。」
その言葉を聞いた瞬間だった。
「セト。」
いつもより少し低い声。
セトがゆっくり振り向く。
ヴァルは怒鳴っているわけではなかった。
ただ、真っ直ぐにセトを見ていた。
「一つ聞く。」
「……はい。」
「俺、お前に迷惑だって言ったことある?」
「……。」
「作業教えるの、嫌だって言った?」
「……ないです。」
「じゃあなんで、一人で抱え込む。」
セトは答えられなかった。
言葉が出ない。
静かな部室に雨音だけが響く。
「……。」
「昔から。」
セトがぽつりと呟く。
「人に頼るの、苦手なんです。」
それが精一杯だった。
「迷惑になる気がして。」
「だから。」
「自分でやった方が……。」
言い終わる前に、ヴァルは椅子を引き寄せ、セトの隣へ座った。
「見せろ。」
「……。」
「二人で考えよう。」
「でも……。」
「セト。」
ヴァルは少しだけ笑う。
「頼られるのってさ。」
「案外、嬉しいもんだぞ。」
セトは目を丸くした。
「……嬉しい?」
「うん。」
「俺はな。」
「『教えてください』って言われたら、『よし任せろ』ってなる。」
少し照れくさそうに笑う。
「だから。」
「迷惑かどうか決めるのは、お前じゃない。」
「俺。」
その言葉を聞いた瞬間。
セトは画面を見る。
赤いエラー表示。
自分一人では、あと何時間かかるか分からない。
小さく息を吸う。
「……先輩。」
「ん?」
「その……。」
喉まで出かかった言葉が、なかなか口から出てこない。
何度も飲み込んでは、また浮かぶ。
そして。
「……教えてください。」
部室が静かになる。
ヴァルは一瞬だけ驚いた顔をしたあと、ふっと笑った。
「もちろん。」
その返事は、迷いがなかった。
二人は一つの画面を見つめる。
「ここ。」
「変数が一文字違う。」
「あ。」
「だから動かなかった。」
たった一文字。
それだけのミスだった。
修正すると、プログラムは何事もなかったかのように動き始める。
「……動いた。」
セトが小さく呟く。
「すごい。」
「いや、すごいのはお前。」
ヴァルは笑う。
「ここまで一人で作ったんだから。」
「最後だけ手伝っただけ。」
セトは画面を見つめたまま、小さく笑った。
「……ありがとうございます。」
「どういたしまして。」
外では、いつの間にか雨が止んでいた。
部室の窓から差し込む夕焼けが、二人の机を優しく照らす。
その日、セトは初めて、自分から誰かに「教えてください」と言えた。
それはほんの一言だった。
けれど、その一言は、ヴァルとの距離をまた少しだけ縮めるには十分だった。
コメント
1件
第6話読みました…!🥺 セトくんが「教えてください」って初めて自分から言えたの、すごく大事な一歩だなって思いました。ヴァル先輩の「迷惑かどうか決めるのはお前じゃない、俺」って言葉、優しいし真っ直ぐで…読んでてじんわりきました。雨が止んで夕焼けが差し込むシーンも、二人の距離がちょっと縮まったみたいで好きです。ほっこりする回だった…🤍