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なまねぎ
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きゃああ…これはもう名シーンですね……! ヴァル先輩がUSBメモリを託すところ、**「お前だから頼む」**がぶっ刺さりました。 静かな部室と夕焼けの情景が切なくて、セトくんが「僕でいいんですか」って聞くところで胸がぎゅっとなりました。 技術の継承というより、**信頼のバトン**って感じがして、とても温かい気持ちになりました。完成、楽しみですね!
夏が近づき、校舎へ吹き込む風も少しずつ暖かくなってきた。
パソコン部の部室では、今日もキーボードの音だけが静かに響いている。
カタ、カタ、カタ……
セトは画面を見つめたまま指を動かす。
その隣では、ヴァルが頬杖をつきながらぼんやりと窓の外を眺めていた。
「もう夏かぁ。」
ぽつりと呟く。
セトは画面から目を離さないまま答えた。
「……そうですね。」
「時間って早いな。」
「……はい。」
それだけの会話。
でも、それだけで十分だった。
静かな部室には、それ以上の言葉は必要なかった。
しばらくして、ヴァルはふと笑う。
「そういえばさ。」
「……はい。」
「俺、もうすぐ引退なんだよな。」
その言葉で、セトの指が止まった。
画面に表示されていたカーソルだけが、小さく点滅を繰り返している。
「……。」
知っていた。
三年生は夏前で部活動を引退する。
そんなこと、分かっていた。
なのに。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけ重くなった。
「……そうですね。」
それしか言えなかった。
ヴァルは苦笑する。
「そんな顔すんなって。」
「卒業するわけじゃないし。」
「高校もあるし。」
「会おうと思えば会える。」
「……はい。」
返事はした。
けれど、どこか納得できなかった。
放課後、この部室へ来ても。
隣の席は空いている。
そう思うだけで、少しだけ寂しかった。
それから数日後。
ヴァルにとって最後の部活動の日がやってきた。
部室には夕日が差し込み、オレンジ色の光が机を照らしている。
二人は最後まで、それぞれのパソコンへ向かっていた。
いつもと変わらない放課後。
変わらないキーボードの音。
けれど、その時間ももう終わる。
ヴァルは静かにパソコンを閉じた。
「終わった。」
セトも少し遅れて電源を切る。
「……お疲れ様です。」
「お疲れ。」
ヴァルはリュックを開け、中から小さなUSBメモリを取り出した。
青いストラップが付いた、ごく普通のUSBメモリだった。
「セト。」
「……はい。」
机の上へ、そっと置く。
「これ。」
セトは不思議そうに見つめる。
「……?」
「去年から作ってたゲーム。」
「途中までしかできてない。」
ヴァルは少し照れくさそうに笑った。
「最後まで作れなかった。」
セトはUSBとヴァルを交互に見る。
「……。」
「だから。」
「続き、お前が作ってくれ。」
部屋が静かになる。
窓の外から吹き込む風が、カーテンを小さく揺らした。
セトはUSBを見つめたまま動かない。
しばらくして、小さな声で聞く。
「……僕で、いいんですか。」
ヴァルは即座に頷いた。
「お前だから頼む。」
「俺より丁寧だし。」
「バグも少ないし。」
「絶対完成させられる。」
少し笑いながら続ける。
「それに。」
「俺が一番見てほしい相手、お前だし。」
セトは目を伏せた。
胸の奥がじんわりと熱くなる。
誰かに何かを任されたことなんて、ほとんどなかった。
まして、それがヴァルからなんて。
震えないように、そっとUSBを握る。
「……分かりました。」
小さく頷く。
「完成させます。」
「うん。」
ヴァルは安心したように笑った。
「楽しみにしてる。」
二人は部室を出る。
校舎には夕焼けが広がり、長く伸びた影が廊下を染めていた。
階段を降り、昇降口まで歩く。
今日も隣同士。
今日も静かな帰り道。
けれど、それが”当たり前”なのは今日までだった。
校門の前で、ヴァルが立ち止まる。
「じゃあ。」
「またな。」
セトは少しだけ俯く。
言葉が出てこない。
“ありがとうございました”
“頑張ってください”
“寂しいです”
どの言葉も違う気がした。
結局、小さく頭を下げる。
「……はい。」
ヴァルは笑う。
「そんな暗い顔すんな。」
「また会える。」
その一言を残して、自転車に乗る。
軽く手を振り、そのまま夕焼けの向こうへ走っていった。
セトは、その姿が見えなくなるまで動かなかった。
右手には、さっき渡されたUSBメモリ。
小さなそれを、そっと握りしめる。
――完成させよう。
先輩が最後まで作れなかったものを。
自分が繋ごう。
夕日に照らされたその小さなUSBは、ただの記録媒体ではなかった。
二人が一緒に過ごした放課後と、積み重ねてきた時間が詰まった、大切な約束だった。