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#···などなど!!
びーえる中毒民
34
#ある意味ホラー
夏が近づき、校舎へ吹き込む風も少しずつ暖かくなってきた。
パソコン部の部室では、今日もキーボードの音だけが静かに響いている。
カタ、カタ、カタ……
セトは画面を見つめたまま指を動かす。
その隣では、ヴァルが頬杖をつきながらぼんやりと窓の外を眺めていた。
「もう夏かぁ。」
ぽつりと呟く。
セトは画面から目を離さないまま答えた。
「……そうですね。」
「時間って早いな。」
「……はい。」
それだけの会話。
でも、それだけで十分だった。
静かな部室には、それ以上の言葉は必要なかった。
しばらくして、ヴァルはふと笑う。
「そういえばさ。」
「……はい。」
「俺、もうすぐ引退なんだよな。」
その言葉で、セトの指が止まった。
画面に表示されていたカーソルだけが、小さく点滅を繰り返している。
「……。」
知っていた。
三年生は夏前で部活動を引退する。
そんなこと、分かっていた。
なのに。
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が少しだけ重くなった。
「……そうですね。」
それしか言えなかった。
ヴァルは苦笑する。
「そんな顔すんなって。」
「卒業するわけじゃないし。」
「高校もあるし。」
「会おうと思えば会える。」
「……はい。」
返事はした。
けれど、どこか納得できなかった。
放課後、この部室へ来ても。
隣の席は空いている。
そう思うだけで、少しだけ寂しかった。
それから数日後。
ヴァルにとって最後の部活動の日がやってきた。
部室には夕日が差し込み、オレンジ色の光が机を照らしている。
二人は最後まで、それぞれのパソコンへ向かっていた。
いつもと変わらない放課後。
変わらないキーボードの音。
けれど、その時間ももう終わる。
ヴァルは静かにパソコンを閉じた。
「終わった。」
セトも少し遅れて電源を切る。
「……お疲れ様です。」
「お疲れ。」
ヴァルはリュックを開け、中から小さなUSBメモリを取り出した。
青いストラップが付いた、ごく普通のUSBメモリだった。
「セト。」
「……はい。」
机の上へ、そっと置く。
「これ。」
セトは不思議そうに見つめる。
「……?」
「去年から作ってたゲーム。」
「途中までしかできてない。」
ヴァルは少し照れくさそうに笑った。
「最後まで作れなかった。」
セトはUSBとヴァルを交互に見る。
「……。」
「だから。」
「続き、お前が作ってくれ。」
部屋が静かになる。
窓の外から吹き込む風が、カーテンを小さく揺らした。
セトはUSBを見つめたまま動かない。
しばらくして、小さな声で聞く。
「……僕で、いいんですか。」
ヴァルは即座に頷いた。
「お前だから頼む。」
「俺より丁寧だし。」
「バグも少ないし。」
「絶対完成させられる。」
少し笑いながら続ける。
「それに。」
「俺が一番見てほしい相手、お前だし。」
セトは目を伏せた。
胸の奥がじんわりと熱くなる。
誰かに何かを任されたことなんて、ほとんどなかった。
まして、それがヴァルからなんて。
震えないように、そっとUSBを握る。
「……分かりました。」
小さく頷く。
「完成させます。」
「うん。」
ヴァルは安心したように笑った。
「楽しみにしてる。」
二人は部室を出る。
校舎には夕焼けが広がり、長く伸びた影が廊下を染めていた。
階段を降り、昇降口まで歩く。
今日も隣同士。
今日も静かな帰り道。
けれど、それが”当たり前”なのは今日までだった。
校門の前で、ヴァルが立ち止まる。
「じゃあ。」
「またな。」
セトは少しだけ俯く。
言葉が出てこない。
“ありがとうございました”
“頑張ってください”
“寂しいです”
どの言葉も違う気がした。
結局、小さく頭を下げる。
「……はい。」
ヴァルは笑う。
「そんな暗い顔すんな。」
「また会える。」
その一言を残して、自転車に乗る。
軽く手を振り、そのまま夕焼けの向こうへ走っていった。
セトは、その姿が見えなくなるまで動かなかった。
右手には、さっき渡されたUSBメモリ。
小さなそれを、そっと握りしめる。
――完成させよう。
先輩が最後まで作れなかったものを。
自分が繋ごう。
夕日に照らされたその小さなUSBは、ただの記録媒体ではなかった。
二人が一緒に過ごした放課後と、積み重ねてきた時間が詰まった、大切な約束だった。
コメント
1件
きゃああ…これはもう名シーンですね……! ヴァル先輩がUSBメモリを託すところ、**「お前だから頼む」**がぶっ刺さりました。 静かな部室と夕焼けの情景が切なくて、セトくんが「僕でいいんですか」って聞くところで胸がぎゅっとなりました。 技術の継承というより、**信頼のバトン**って感じがして、とても温かい気持ちになりました。完成、楽しみですね!