テラーノベル
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いつも通りの、雑誌撮影後のインタビューに一問一答で答えていく。
近々公開を控えた主演映画の宣伝を兼ねた企画として、七ページほどの枠をもらっている。
駆け出しの頃は、一ページもらえるだけで奇跡だったなぁ、なんてことをぼんやりと考えていたとき、インタビュアーさんの何気ない質問に一瞬だけピタリと体の動きが止まった。
「目黒さんの、「頑張れる源」はなんですか?」
その問いかけに対して、自然と頭の中に浮かぶものがあった。
俺にとって、何よりもかけがえのない大切な存在。
その人のことを想うだけで、自然と力が湧いてくる。
そんな人が、俺にはいる。
いつだって、側にいてくれる人が。
改めて口に出そうとすればなんだか照れ臭くて、公にしていない部分もあるので、なんと答えたら良いか困って、思わず「ふふっ」とはにかむような息が漏れた。
「家族、ですね」
シンプルすぎる答えになってしまった気もして、すぐにその後を続けた。
「友達やファンの皆さんの存在ももちろん、僕が毎日頑張ろうと思える源ですが、ずっとそばで支えてくれている家族のおかげで、僕は今もここに立てているんだと、そう思っています」
Ten springs ago──
暖かい気候に包まれながら、桜並木の下を歩く。
入学式もつい一週間前に終わり、あとは夏休みまで特に楽しみも無さそうな一学期をどう乗り切ろうか、なんて退屈なことを考えながら通学カバンを両肩に掛け、学校までの道のりをタラタラと歩いていた。
「めめーっ!!おはよー!!」
「めめー!!!!おはようさん!!!」
後ろの方から、お馴染みの声が聞こえてくる。
欠伸をしながら振り返った先には、なだからな下り坂にも関わらず立ち漕ぎで爆走してくる友人たちの姿があった。
「おはよ、ふぁぁ…」
「今日もダルそうじゃん!楽しもうよ!新しい学校生活!」
「俺らピチピチの高校一年生やで!?なんでそないおじいちゃんみたいにしてん!」
このうるさいのは、同じクラスのラウールと、康二だ。
入学初日、自己紹介や明日からの授業の流れなど、一通りの説明が担任から済んで解散になった直後、突然話しかけられたことがきっかけで、ここ一週間、なんとなく彼らとつるむようになった。
下校途中に寄り道をしたり、休みの日に遊びに行ったりなんてことは特にまだしていないが、なんとなく感じるものがあった。
こいつらとは波長が合う、と。
そんな漠然とした居心地の良さがあるので、朝に会ってから放課後までの間はずっと騒音に耳が痛いが、それ以外は苦ではなかった。
「楽しもうって、校舎変わっただけでしょ」
「クラスメイトとか先生とか!授業の内容とか!めっちゃ変わってるじゃん!」
「興味ない」
「せや!なぁなぁ!部活何入るか、二人もう決めた?!」
「僕まだ悩んでる!」
「俺は入んない」
「「えっ!!なんでよ!!」」
「っ…うるさ…、ハモんなよ…」
「部活こそ、僕たち学生の一番の楽しみじゃん!」
「せやで!帰宅部して夕方何するん!?つまらんやんか!」
「さぁね、気分で決める」
「ラウ、これあれやな」
「うん、だね、間違いない」
「? なに?」
「めめ!君さては!」
「クール系男子になってモテようとしてるなーっ!」
「は?」
「誤魔化しても無駄や!俺らには分かってんで!」
「そうだそうだ!こないだ読んだ少女漫画にも、そういう「一匹狼でイケメンな王子様♡」みたいな男の子出てきてたんだから!女の子はみんなそういう特別な子に弱いんだよ!」
「…何その甘ったるい声…鳥肌立つんだけど…」
「ひっど!今に見てろー!あと一週間後には絶対めめの靴箱の中に手紙入ってるはずだから!その時は一緒に読ませろー!」
「いや、プライバシー守ってやれよ」
「イイ男ぶりやがって…!抜け駆けなんかさせへんからなーっ!」
「言ってろ」
年相応にはしゃぐ二人の元気さが暑苦しいのに、どこか羨ましくもあった。
そんな風にいろんなことに興味を持てたら、なんでも楽しもうって思えたらいいのにな、なんて思春期っぽい感傷に浸ってみたけれど、それもなんだかしっくり来なくてすぐにやめた。
──確かに、探してるのかもしれないな。
「自分」という人間を、この三年間でどう形作っていこうか、という部分に関しては、確かにラウールと康二の言う通りかもしれなかった。
「クール系男子」というのは全くピンと来ないが、あやふやでぼやけている自我をどうにか掘り起こしたい、なんて、漫画の主人公みたいな欲求は、それ相応に心の中にあるような気がした。
深夜まで意味もなくボーッと眺めていたスマホのブルーライトが、目を傷ませている。
そう感じるのは、太陽の光が眩しくてジンジンと染みるせいだろう。
瞼を擦り、滲む生理的な涙を人差し指に掬って、親指で馴染ませた。
:
:
今日も今日とて、一限から六限までを居眠りで過ごし通した。
今しがた鳴った放課後を告げるチャイムの音で目を覚まし、むくっと頭を上げる。
クラスメイトがそれぞれに散っていく様子を、額にくっきりと付いた学ランのボタンの痕を手のひらでさすりながら眺めた。
部活見学に行く奴や、委員会に出席する奴、はたまた今日の授業で分からなかったところでも職員室まで聞きに行くのか、教科書とノートを片手に廊下を出るような真面目な奴など、色々だった。
「あ!やっと起きた!え!ボタンの痕付いてんじゃん!」
「今日シバヤマの授業あったら、めめ死んどったで!」
「きゃはは!言えてる!」
「流石にそれはしないよ」
ケラケラと笑いながら、そいつらと談笑に耽った。
シバヤマ、というのはこの学校で一二を争うほど厳しい地理の教師だ。
おまけに、俺らの学年の主任で、俺たちの担任と来ている。
多分、入学早々気を弛ませないようにという意図があって振られているのだろう。
が、そんなことより、地理を教えているくせに厳しい、という部分が、個人的には納得がいっていなかった。
偏見と言われればそうでしかないが、大抵、そういう役回りは体育教師がするものだろうという固定観念があって、なんとも違和感があるのだ。
とはいえ、そいつが異動でもしない限りは三年間を一緒に過ごさなくてはならないので、うまい付き合い方、躱し方を見つけていこうと思う。
なんとも面白みに欠けるが、こういうことくらいしか最近は考えることがなかった。
「僕たち部活見学行ってから帰るけど、めめも一緒に行く?」
二人からの視線を流しながら、「俺はパス」と答えた。
「もったいないなぁ、新しい出会いがあるかもしれへんのに」
「出会いって、部活に何を求めてんだよ」
またカラカラと笑って尋ねる。
揶揄うつもりはなかったが、意外にも二人は真面目な、輝いた目をこちらに向けて「そりゃもちろん!」「思い出作りや!」と鼻息を荒くした。
何を青春じみたことを言ってるんだと、その暑苦しい返答に、思わず顔を歪めた。
「思い出ェ?」
「せや!三年しかないんやから、思いっきり楽しまな損やろ!」
「ふーん」
「先輩とかさ、他のクラスの同級生とかさ、新しいお友達できるかもしれないし!」
「全然やったことないこと挑戦して、新しい才能に目覚めるかもしれへんしな!」
「はいはい、分かった分かった。早く行ってこいよ」
「もーっ!冷めてるーっ!」
「あと一ヶ月はどこの部活も見学と体験入部期間らしいから、気が向いたら一緒に行こうや」
「ん、分かったよ」
「じゃあまた明日ね」
「ほなね!」
「ん、じゃあね」
朝から夕方まで、よくもまぁそんなに元気が有り余っているな、と胃もたれするような感覚を残しつつ彼らの背中を見送ってから、机脇のフックにかけていたカバンを取って、朝と同じように両肩に提げた。
二人の言うことを間に受けたわけでもなかったが、このまま家に帰るのもなんだか癪だった。
別に、新しい出会いなんてものを期待しているわけじゃない。
ただなんとなく、校舎の中を一通り探検してみようかな、なんてことを思いついて、せっかくならそれらしく、わざわざ一階まで降りてから始めようと階段をテレテレと下っていった。
俺たち一年のフロアは、一番上の三階にある。
今いる場所から回ってもよかったのだろうとは思うが、本当にただなんとなく一番下から、という最初の思惑に従ってみることにした。
一階には美術室と、理科室があった。
誰もいないだろうと思い、何の気なしに美術室のドアを開けると、中にあった大勢の目が勢いよくこちらを振り返った。
咄嗟のことに思わず体を固くしていると、一人の男の子が側まで近づいてきて「見学?」と気怠そうに尋ねた。
「ぁ、ぃや、」
「…ぁそ」
「すんません、中に人いるって思わなくて」
「いいよ別に。ウチ、集中しちゃうと誰も声どころか音も出さないから」
「そ、すか」
「もういい?続き描きたいから」
「ぅす。さーせんした」
腕や手のひら、首や頬にまで絵の具を付けていて汚れてはいるが、彼の風貌はとても整っていた。
確かに運動部という印象の人ではない。
そう思うほどに色白く、端正な顔立ちは、どこか現実離れした人形のようにも見えた。
二階には家庭科室とパソコン室があったが、どれも自分には馴染みがなくて、多分だが、卒業するまで入らない教室だろうな、と思った。
三階に上がろうとする前に、俯いた一人の男の子がこちらへ上がってくるのが見えた。
重たそうなビニール袋を両手にいくつも提げているのが気になって、思わず彼の元まで降りていき、「半分持ちましょっか?」と声を掛けた。
彼は顔を上げると嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ありがとう、家庭科室まで持って行きたいんだ」
「そすか」
「君は一年生?」
「うす」
「そっか、俺は二年。料理部で使う食材を買いに行ってたんだけど、思ってたよりも買いすぎちゃって」
楽しそうに笑う顔はとても綺麗に見えるのに、どこかまだ、幼さも残っているような印象を受けた。
彼の希望通り、家庭科室の作業台の上まで荷物を置いてその場を後にしようとすると、後ろから声を掛けられた。
「本当にありがとう。よければ寄っていく?少し待たせちゃうけど、運んでくれたお礼に今日作るお菓子渡せたらって思って。どうかな?」
「ぁ、いや、嬉しいんすけど、料理部入る気ないから迷惑だろうし。それに、俺行きたいとこあるんで」
最後の一言は、咄嗟に思い付いた「でまかせ」だった。
ただ、完全な嘘でもなかった。
まだ三階の教室に辿り着けていないので、制覇したいという気持ちが残っていたのだ。
「そう。なら仕方ないか、引き留めちゃってごめんね」
「全然っす。じゃ、これで」
「うん、ありがとう」
家庭科室を出て、すぐそばの階段を昇っていった。
なんだか、いい気分だった。
人助けをしたからとか、そういうことじゃない。
今日の朝、ラウールと康二に言ったように、その時の「気分で決める」という宣言を、なんとなくでも実行できているという部分に、一種の愉快を感じるのだ。
誰に左右されることもない。
自分の気の向くまま、思うままに生きる。
なんだか、自由になれたような気がして、晴れやかで爽快な心地になっていた。
適当な鼻歌を旋律に乗せて、階段に付いた古ぼけたシミをなぞりながら軽い足取りで一段一段昇っていく。
ついに三階に辿り着き、見慣れつつある一年のフロアを順に見ていく。
が、毎日殆どの時間をここで過ごしているので、新鮮味は感じられなかった。
とはいえ、コの字型に設計されている通路の、その両端にある音楽室と視聴覚室にはまだ入ったことがなかったなと思い至り、その部屋たちの扉を外から眺めた。
美術室で軽く失敗したので、少しビビっている。
というのが正直な感想だ。
締め切られたその教室の奥で、また何かしらの部活が行われているかもしれないと思うと、先程のような軽い気持ちでは、ドアを開けられそうになかった。
見学したいわけじゃないし、興味があると思われるのも、変な奴が来たと思われるのも嫌だった。
中を覗くのはやめておこう。
そう決め込むと、途端につまらなくなった。
探検が終わってしまったというだけのことではあるが、なんともあっけなかったなと思うと、もう本格的に始まりつつある学校生活自体も味気ないまま終わっていくんだろうな、という予感でいっぱいになって、ドッと憂鬱さが押し寄せた。
「はぁ…、マジ何してんだろ…」
先程まであんなに気分が高まっていたというのに、今はもうすっかり心も踊らなくなってしまった。
ため息と、我に返った時に言うともっと冷めるワードを吐いた。
残念な気持ちのままではあるが、他にすることも無い。もう帰ろうと音楽室のドアの前で踵を返した時、今まで気付かなかった、真後ろにある教室が目に入った。
これを教室と呼ぶのかどうかよく分からないが、平たく言うと、そこは図書室だった。
静かで、ひっそりとしていて、三階の端っこにあるその部屋は、なんというか寂しげに見えた。
こんな場所にあったら、きっと誰も見つけてなんてくれなさそうに思えたのだ。
それと同時に、むしろ見つけて欲しくないという意志をこちらに訴えかけているようにも感じた。
その空間そのものにそんな冷たい印象を受けたが、遠慮なく入ってやろうと思った。
なにせ、図書室だけが、正面のドアを開けているのだ。
こいつの意志はさておき、一応は「入ってもいい」と許可をくれているわけだし、中からは特に話し声も聞こえないから、部活をしていそうな雰囲気もなくて、その点も安心だった。
やっと探検らしいことができると気を取り直して、踵を潰した上履きをペコペコと鳴らしながら、「図書室」と刻まれたプレートの下を潜った。
カビ臭い匂いが充満している。
人ふたりくらいが通れるスペースを残して、均等に置かれた大きな本棚の中には、隙間なく本が敷き詰められている。
本を読む習慣は昔からずっと無かったが、絵本なら一冊か二冊くらいは子供の頃に読んだものを覚えているかもしれないと、その背表紙たちを順に撫ぜていった。
「ぁ…、これ、懐かし…」
奇跡的に見つけたそれは、確か幼稚園で読み聞かせてもらった話で、唯一覚えているものだった。
多分、内容が面白かっただけのことだったとは思うが、なんとなく、ワクワクしながらこの話を聞いていたことだけは覚えていた。
「そうそう、こいつ出てきた」
「、ふはっ、え、こんなんだったっけ?」
「っははッ、こんな終わり方かよ、っはぁー」
懐かしい気持ちで、もう一度その本を開いてみる。
子供向けのストーリーは、単純なラストに思えつつも、あの頃よりは成長した状態で物語に溶け込んでみると、なんだか深い意味やらメッセージやらが込められているようにも思えた。
本を読むっていうのを、高校生活での習慣にするのもいいかもしれない。
なんて思ったが、三日で飽きそうな気もしていた。
夢と冒険が詰まった一冊を読み終えると棚に戻して、他にどんな本があるのかもう少し見て回ろうと思った。
その場で立ち上がった時、少し離れた場所から物音がした。
咄嗟のことに体はビクッと縮み、すぐにその方を見る。
その先でかち合う、俺の目とその目。
何かが鳴っている。
秒針よりも速いテンポで。
軽快なのに、ずっしりと重たい何かが。
それが自分の鼓動だと分かるまでに、少し時間がかかった。
開け放たれた窓に風が吹き込む。
カーテンの舞いに乗せて、桜の匂いと、それとは別に運ばれてくる、甘い香り。
その瞬間感じた。
この人とは、波長が合う、と。
ラウールと康二に感じているものとはまた違う、きっと、もっと濃くて深い波長を。
「なにか、借りますか?」
綿毛のように柔らかくて温かい声になんと返そうかと戸惑って、咄嗟に今さっき戻した絵本をまた手に取った。
「こ、これ…」
その人は、ふわっと微笑むとその表情のまま目を伏せ、パソコンが置かれたカウンターの中へ体を滑らせていった。
一つ一つの動作から目が離せなかった。
マウスに手を置くその手首のしなりも、カチ、カチ…と優しくそれをクリックする人差し指の沈みさえも、何一つ見逃したくないと言うように、じっと見つめてしまっていた。
なんと言うか、魅せられているような気がした。
きっと、目の前の彼はそんな意識をこちらに向けさせようなんてことは微塵も思っていないのだろうが、一瞬にして、惹かれてしまっていた。
手元へ落とされた視線によって、こちらにはその人が自然と伏し目がちに写る。
瞬きするたびに、長いまつ毛が揺れる。
瞼の線は目尻に向かうにつれ少しだけ上がり気味で、二重のラインはくっきりと刻まれていて、そのせいなのか、俺の目には、その人がひどく色っぽく見えた。
「好きだよ」
「へっ…?」
「この絵本、俺も好き。子供の頃何回も読んだなぁ」
「ぁ、ぁあ…」
そんなわけは無いのに、「なんだ、俺のことじゃないのか…」なんて思ってしまうのは、男の遺伝子に刻まれた、浅はかな本能みたいなものなんだろうか。
先程とは違う、快活そうな笑顔でこちらを見つめながら、「主人公のお友達になる恐竜が、すごく優しくて大好きだったな」と話す彼の前で、トク…トク…と、確かにこの心臓は脈を打っていた。
──まだ、ここにいたい。
──まだ、この人と話してたい。
「ね、ねぇ」
「うん?」
「名前、教えて」
苦し紛れに搾り出した質問に、その人はまたふわっと笑った。
「阿部、亮平です。よろしくね、一年生」
To be continue…
コメント
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🖤💚の、小説待ってました。ひとつひとつの表現が大好きです。
始まった〜。 三文小説さんの🖤💚ストーリー大好きてます。
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