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お股ポテト
29
はるにし
72
月が隠れる夜半。
僕はこっそりとベッドを抜け出した。
シュメリが寝ているのを確認して、静かに部屋を出た。
広間からバルコニーに出る。
月はいなくても、星の灯りが眩しい。
「にゅっ」
僕はバルコニーの手すりに飛び乗った。
空を見上げて、目を瞑った。
(シュメリが、泣いた)
僕に怪我なんかするなって。
僕じゃなきゃダメだって。
そう言って、泣いた。
人前で涙なんか、絶対に見せないタイプの人だ。
そのシュメリが、僕の前で、僕のことで、泣いたんだ。
(あの時の顔が、全然消えてくれない)
「にゃふぅ」
僕は大きく一度、深呼吸した。
ここまで色んな事が怒涛のように起きた。
ずっと流されるばっかりだったけど。
考える時間が欲しかった。
(僕って『聖騎士と暗殺者』の小説に転生したんじゃないのかな)
シュメリとバルトは、いる。
だけど、一向に恋が始まらない。
それどころか、二人は僕の取り合いをしている。
(それに、僕の夢……)
生前に見ていた夢が、この世界とリンクする。
夢と呼ぶにはあまりに生々しい。
これはもはや、記憶だ。
(僕は、バルトと暮らしていて、シュメリと知り合いだった)
つまり、転生する前から、この世界でリンネとして生きていた。
それがどういう状況か、まだわからないけど。
(生きている時から幽体離脱して、この世界に来ていた、とか?)
馬鹿げた考えだけど、既に馬鹿げた事態が起きている。
あり得ないとは言えない。
とはいえ、仮説には違いない。
真相なんて、探しようもない。
(覚えてないのは、何でなのかな)
生前から来ていたなら、その記憶があってもいいのに。
僕には、新しく生まれ変わってからの記憶しかない。
(覚えていたら……シュメリは泣かなかったのかな)
あの時のシュメリを思い出すと、胸が苦しい。
もう、シュメリを泣かせたくない。
シュメリは、僕を伴侶にしたいっていうけど。
冗談とかには聞こえない。
本気だとしたら、僕はどうするべきなんだろう。
(シュメリとバルトをつっくけるのは、良くないの?)
小説通りなら、そうなるはずなのに。
僕がワクワクしながら読んだ小説では、二人はかなり親密になっていたのに。
この世界ではそんなシュメバルどこにもいない。
(僕は、シュメリを、どう思っていたんだろう)
シュメリのことは普通に好きだけど。
推し以上の好きがあるのかは、まだわからない。
「にゅぅ」
僕は息を吐いた。
金平糖を散りばめたみたいな星空は、前の世界と似て見える。
同じように綺麗で、悲しくなった。
(シュメバル、大好き。でも、シュメリもバルトも、大切だ)
だから二人とも、大事にしたい。
(今はできれば、シュメリの傍にいてあげたい)
もうシュメリが泣かなくてもいいように。
まだ人の姿になれないから、お話はできないけど。
せめて、隣にいたい。
(ごめん、バルト。今は一緒に帰れないや)
それも、胸が詰まる。
「リンネ」
名前を呼ばれて、振り返った。
後ろにバルトが立っていた。
「あにゃ、あにゃ!」
昼間はごめんねって言いたいのに、伝わらない。
「酷い怪我させて、悪かったな。あれは俺の不注意だ」
バルトが隣に並んだ。
僕はフルフルと首を振った。
「シュメリが怒って当然だ。アイツ、本気でリンネのこと、大事に思っているんだな」
バルトが悲しそうに俯いた。
「獣人の魔種持ちって、珍しい生き物に惹かれただけじゃ、ないのかもな」
「にゅ?」
僕は首を傾げた。
「獣人で魔種を持ってる奴は、人間より少ないんだ。希少だから、見付かると保護って名目で国に軟禁される。そんなの、嫌だろ?」
「にゃ、にゃ!」
僕は血の気が下がる思いで頷いた。
「シュメリはリンネを自分の屋敷に囲っているし、国に上申してないのかもな」
届け出をしてないってことだろうか。
出したらどうなるのか、怖くて聞けない。
「俺もしばらく、ここにいようかな」
バルトが手すりに頬杖をついた。
「リンネが色々思い出して、人の姿に戻れば、俺も知りたことが知れるからな」
「にゅ?」
知りたいことって何だろう。
僕はまた首を傾げた。
「俺が知りたいのは、リンネの本音だ」
バルトの手が僕の頭を撫でた。
「俺はずっとリンネと暮らしていたけど、シュメリの話を聞いてない。内緒にしてたんだろうと思うぜ。だから、わかんないんだよ。リンネの本音がな」
ツキンと胸が痛んだ。
ずっとよくしてくれていた人に、僕は何も言わなかったんだ。
「俺からしたら、突然攫われたような状況だった。それでなくてもリンネは、子供の頃に親とはぐれて死にかけているからな。もうあんな辛い思い、させたくねぇよ」
そうだったんだ。
この世界の僕は、そんなに弱かったんだ。
バルトがいなきゃ、きっと死んでいたに違いない。
僕は、バルトの腕にスリスリした。
(ありがとう、バルト。僕を拾ってくれて、ありがとう)
「あはは、くすぐってぇ」
バルトが僕を抱き上げた。
「シュメリがどんな奴かも、ちゃんと見極めねぇとな。簡単には嫁に出せねぇよ」
バルトがお父さんみたいなことを言った。
でも、お父さんなのかもしれない。
子供の頃に拾って育ててくれた。
僕はバルトに、もっと感謝しなきゃ。
(だからバルトの腕は、こんなに安心するんだね)
バルトの胸にスリスリと頬擦りする。
「夜は冷えるぜ。そろそろベッドに戻れ」
「うにゃ」
素直に返事して、バルトの手を離れた。
僕はシュメリが待つ部屋に戻った。
コメント
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第8話、読みました…!「金平糖みたいな星空」ってタイトル、すごく綺麗で切なくて、涙が出そうになりました💧 リンネが夜中に一人で考え込むシーン、すごく共感しました。シュメリが泣いたこと、バルトとの関係、記憶のこと…全部が重なって、小さな子猫の体で一生懸命考えてるのが愛おしいです。特に「シュメリが泣かないように、隣にいたい」って気持ち、胸がぎゅってなりました。バルトとの星空の会話も、お父さんみたいで温かかったです。 二人ともリンネを大事に思ってて、その気持ちが伝わってきて、リンネがどういう選択をするのか、すごく気になります…!次の話も楽しみにしてます🌙🤍