テラーノベル
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怪我をした次の日の朝ご飯。
美味しいお魚をたくさんもらった。
至福の気持ちで食べることに夢中になっていたけど。
「庭の植木、本当に綺麗になった」
シュメリが、ぽそりと話し始めた。
「なんだよ、急に。勝手なことして悪かったよ」
「庭師が体調を崩して里に帰っているんだ。良かったら、続けてほしい」
さりげない顔で、シュメリがティーカップを傾ける。
バルトが、呆けた顔をした。
「この屋敷にいる間、収入がないのも困るだろう。給金は支払うよ」
「それは……仕事の依頼、か?」
バルトが恐る恐る問い掛ける。
半信半疑の顔だ。
「依頼だよ。特にノルマは課さない。自由にやってくれていい」
シュメリの言葉に、バルトはやっぱり呆けていた。
でも、シュメリの隣にいる僕には見えたんだ。
シュメリの耳の先が、赤く染まっていたこと。
(え……? えぇ……もしかして、シュメバル始まった?)
シュメリが急に距離を詰めた。
昨晩のバルトも、シュメリを認めるような発言をしていた。
(二人の心が、近付いてきてる。うおーん!)
僕は心の中で叫んだ。
やっぱりここは小説の世界なんだ。
シュメバルが始まるんだ。
「ただし、リンネに怪我をさせるような真似はやめてくれ」
シュメリが鋭くバルトを睨んだ。
「わかってる。もう手伝わせたりしねぇよ」
バルトがバツの悪そうな顔をした。
それは、僕的に残念だ。
バルトのお手伝い、僕は楽しかったのに。
(怪我した僕が悪いんだけど。手伝えないのは悲しい)
シュンとしながら、お魚を頬張った。
(でもでも、庭のエピソード、繋がった)
同じ展開ではないけれど、二人の距離を縮めるエピになった。
今後にも期待できるかもしれない。
僕はワクワクしながら、次の展開に想いを馳せた。
僕が期待した次の展開は、思ったより早くに訪れた。
庭師の仕事を任されたバルトは、道具の手入れを始めた。
庭の一角にハサミなどの道具を並べている。
お股ポテト
29
はるにし
72
「そこまで酷くねぇが、やっぱり手入れは必要だな」
バルトがハサミの刃を一つ一つ確認していく。
「昨日も、微妙に切れ味が悪いと思ったんだ」
さすが、木こりだ。
似たような職業だからか、見る所がプロだ。
「にゅ、にゅ」
大きいなぁと思いながら、剪定ハサミをチョイチョイする。
バルトに抱きかかえられた。
「こら、ダメだろ。また怪我したら、どうするんだ」
「にゃぅ」
もうあんなヘマ、しないもん。
見てるだけだもん。
今のは、ハサミが大きくて珍しかっただけ。
「お前は、シュメリのところに行ってろ。仕事中は俺に近付くの禁止だ」
「にゃー、あにゃ!」
ヤダヤダ、バルトのお仕事見たい。
前は近くで見せてくれたのに。
ツキン、と頭が痛んだ。
(前……また記憶だ。森で仕事するバルトに、僕はくっ付いて回ってた)
木を切り倒して、森の木を間引いたり剪定したり。
そうやって森を守るバルトを格好良いと思っていた。
(でも、暗殺の仕事を見たことは、なかった)
バルトは時々、夜中にいなくなった。
後ろ暗い仕事をしているのは、何となく気付いていたけれど。
それを聞いたりはしなかった。
朝には戻っていつもの顔をしているバルトに、僕もいつもの顔をした。
(こんなに鮮明に覚えてる。僕はいつから、この世界にいたの?)
僕はバルトにしがみ付いた。
掴まっていないと、大事な魂まで抜けていってしまいそうだった。
「リンネ? どうした?」
「ふにゅぅ」
しがみ付く僕の背中を、バルトが優しく撫でてくれた。
「仕事の邪魔をしてはダメだよ」
シュメリが、僕の体を抱き上げた。
「ちょうど良かった。屋敷の中に連れて行ってくれ」
「いいのかい?」
シュメリが意外そうな顔をした。
「これから刃物の研ぎをするから、手を出すと危ない」
「なるほど」
シュメリが僕を見下ろした。
「リンネは大人しく、僕とおやつを食べようか」
「あにゃー、うにゃー」
バルトのお仕事、見ーたーい。
僕はくねっと体を仰け反らせた。
「おやおや、今日は珍しく頑固だね」
シュメリの腕の中でくねくねする。
僕を抱えて、シュメリが近くの芝生に腰を下ろした。
「ならば仕方がない。私の膝から降りてはダメだよ」
「にゃ!」
僕は前足を上げて、宣誓のポーズをした。
シュメリの膝からおりません。
ここで見守ります。
シュメリが、クスリと笑った。
「良いお返事だ。よっぽどバルトの近くにいたいんだね。妬けるよ」
最後の台詞だけ、声音がかなり怖かった。
ぞくっとしたけど、これは僕の作戦成功だ。
僕と一緒にシュメリがバルトの仕事を見学する。
シュメリがバルトを見直して好きになるかもしれない。
「仕事の様子、見たいだけだ。昔から、俺の木こりの仕事にも付いてきていたからな」
「そうなのかい?」
「木を切ったり、薪を拾ったり。そういうの見てるのが、ガキの頃から好きなんだよ」
「それは知らなかった。良い話を聞けたよ」
シュメリが嬉しそうに僕の顎を撫でた。
ゴロゴロと喉を鳴らす。
いいぞ、いいぞ、いい感じ。
シュメリとバルトで、お話が盛り上がってきた。
「ついでに教えると、リンネは飛ぶのが苦手だ。立派な羽があるのに、使うのを忘れるんだとよ」
「そうなのかい? あぁ、そうか……だからあの時、崖から落ちて……」
シュメリが独り言を呟きながら、納得したように頷いた。
「他に、思い出話はある?」
シュメリがバルトに問い掛けた。
「思い出か。獣人は人間より成長が早いからな。拾った時は、人で言うなら五歳児くらいだったが。半年で、十歳くらいには成長したな」
「そんなに早いのかい?」
「その後は、ゆっくり……でもないか。俺がリンネと過ごしたのは五年くらいだが、人の姿ならすっかり大人だろ」
バルトの言葉に、シュメリが首を捻った。
「大人とも言い難い。私にはまだ、あどけない少年に見えたよ」
「だとしたら、お前の求婚は犯罪だぞ」
バルトがあからさまに引いている。
「恋ができる程度には成長した少年、だよ」
シュメリがカラカラと笑う。
バルトが呆れた顔をした。
「まぁ、獣人は体が成長しきれば成人だけどな。そういう意味じゃリンネは大人だろ。ガキっぽさは個性だな」
話をしながら、バルトがハサミに砥石をあてる。
「リンネを育てたバルトが言うなら、そうなんだろうね」
シュメリが、僕の額をこちょこちょと撫でた。
シュメリの手が気持ち良くて、眠くなってくる。
「巧いものだね、慣れている」
「道具の手入れも、木こりは自分でするからな」
「暗殺稼業なんて、やめればいいのに」
バルトの目が、砥石を追いかける。
「……そのうち、やめるさ」
ウトウトしながら僕は、バルトを眺めた。
その瞳が、どこか寂し気に見えた。
(どうしたんだろう、バルト)
暗殺業なんて、きっと本人もやめたいだろうに。
そう思うけど、僕は眠くて、目を開けていられない。
「もしかして、リンネを育てるために……」
シュメリが何か言っていたみたいだけど。
僕は眠くて、聞き取れなかった。
猫だから、こんなに眠いのかな。
僕の意識は睡魔に吸い取られた。
コメント
1件
ちょっと待って待ってまってまって…!!!😭💕✨ **シュメバル、本格的にはじまったんじゃない???** 「庭師の仕事をやってくれ」って、シュメリからの完全なラブコールじゃん?!しかも耳の先が赤くなってたって…もうそういうとこだぞシュメリ!!照れてるのがバレバレでしょーが!!笑 それにしても**「妬けるよ」って声が急に怖くなったの**、めっちゃツボったww あれ絶対本気の嫉妬入ってるやつ〜! リンネの猫ちゃん姿で見守る作戦、天才すぎる😂 あと最終盤の**「そのうち、やめるさ」**ってバルトの台詞…そこにリンネを育てるための暗殺が絡んでたら、もう泣くしかなくない?!?! 次の展開、本当に待ちきれないです…!!🌸🔥