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耳元で囁かれた低音の熱に、背筋が震えた。
重ねられた冬馬先生の手は、驚くほど熱くて大きい。
「…っ、どうして、私なんですか?もっと優秀な人は、他にたくさん……」
声を絞り出す私を、先生は至近距離で見つめたまま、ふっと口角を上げた。
それは嘲笑ではなく、どこか酷く独占欲に満ちた笑みだった。
「お前は、俺の言葉を一つも聞き流さなかった。どんなに理不尽な要求でも、その瞳に強い光を宿して俺に食らいついてきた」
先生の指先が、私の指の間をなぞるように滑り込む。
「俺に必要なのは、従順な人形じゃない。俺が命を懸けている戦場を、同じ熱量で支えようとする『執念』だ。」
「執念……っ」
「ああ、お前にはそれがある」
初めて認められた。
この冷徹な天才に、私という人間そのものを。
視界が熱くなるのを堪えていると、先生はパッと手を離し、いつもの無表情に戻った。
「勘違いするな。明日からはさらに厳しくなる。……今日はもう帰れ」
突き放すような物言い。
けれど、医局を出る私を見送る彼の視線が、いつまでも背中に焼き付いていた。
◆◇◆◇
翌朝
私は宣言通り、さらに過酷な戦場にいた。
冬馬先生の執刀する、過去最高難易度の心臓外科手術。
医局事務の枠を超え、私は手術室の外で待機し、急な血液製剤の手配や他部署との連携に奔走した。
数時間後
手術室から出てきた冬馬先生は、汗で張り付いた髪を乱し、ひどく疲れ切った顔をしていた。
「先生、お疲れ様です! 手術、成功したって聞きました」
「……ああ」
短く答えてベンチに座り込む先生。
その手は、先ほどまで魔法のように動いていたとは思えないほど、微かに震えていた。
誰にも見せない、天才の綻び。
私は思わず、自販機で買った温かい飲み物を彼の手に押し付けた。
「あの……お疲れ様です」
「……気が利くな」
先生はそれだけ言って受け取ると、ふい、と顔を背けた。
そのまま静寂が流れる。
ふと、先生が独り言のように呟いた。
「……海老名。お前、明日の予定は?」
「え?明日は非番ですけど……」
「そうか。……なら、空けておけ」
「えっ?」
先生は飲み物を一気に煽ると、立ち上がって私を見下ろした。
その瞳には、仕事中とは違う、剥き出しの「男」の独占欲が混じっている。
「俺の研究に付き合え」
それは、仕事なのか、それとも。
嵐の予感に、私の胸は騒がしく跳ね上がるばかりだった。
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