テラーノベル
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#大人のロマンス
#イケメン
「……ここ、どこですか?」
翌日、指定された場所に私服で現れた私を待っていたのは、冬馬先生の黒い高級セダンだった。
助手席に押し込まれ、連れてこられたのは大学病院から少し離れた、静かな会員制のライブラリー。
「俺の個人研究室代わりだ。今日は溜まっていた海外論文の翻訳と、次回のオペのシミュレーションデータの整理をさせる」
そう言って、先生は自分もコートを脱いだ。
白衣を着ていない冬馬先生は、驚くほど若々しく、そして──ひどく、男性的だった。
体にフィットした黒のタートルネックが、外科医として鍛えられた逞しい肩のラインを強調している。
「あの、先生。これって、休日出勤扱いになりますか……?」
「……報酬が欲しいなら、俺が個人的に払ってやるが?」
「けっ、結構です…!」
先生は私のすぐ隣に座ると、大きなモニターを起動した。
ライブラリーの個室は狭く、肩と肩が触れ合いそうな距離。
彼から漂う、清潔な石鹸と微かなコーヒーの香りに、仕事中よりもずっと意識が散漫になってしまう。
「集中しろ、海老名。……手が止まっているぞ」
低い声が耳元で響き、先生の指が私のマウスを握る手の上に重なった。
「ひゃっ……!す、すみません」
「……お前は、本当に反応が面白いな。普段の勝ち気な態度はどこへ行った?」
先生はマウスを操作しながら、私の顔を覗き込む。
眼鏡の奥の瞳が、悪戯っぽく、そして熱を帯びて細められた。
「先生、近いです……」
「これくらいの距離、慣れてもらわないと困る」
そう言うと、先生は私の耳たぶを、まるでお仕置きのように指先で軽く弾いた。
熱い、触れられた場所から火が出そうだ。
数時間、没頭するように作業を続けていたけれど
ふと横を見ると、冬馬先生が資料を握ったまま、椅子に深く背を預けて目を閉じていた。
(あ……寝てる)
連日のオペに、深夜までの研究。
いくら「天才」と言われていても、彼は人間なのだ。
眼鏡を外した彼の寝顔は、驚くほど無防備で、少しだけ幼く見えた。
私は、彼に風邪を引かせないようにと、自分のストールをそっと肩にかけようと身を乗り出した。
そのとき
「……捕まえた」
ガシッ、と強い力で手首を掴まれ、私はバランスを崩して彼の膝の上に倒れ込んだ。
「うわっ……! せ、先生! 起きてたんですか!?」
「……お前が、あまりに隙だらけだったからな」
冬馬先生は私を抱きとめたまま、逃がさないように腰に手を回した。
至近距離で見つめ合う。
彼の瞳には、もう眠気なんて微塵もなかった。
「海老名。……お前、俺が他の誰にでもこんなことをしていると思っているのか?」
ドクン、と心臓が跳ねる。
彼の指が、私の頬をゆっくりとなぞり、唇に触れた。
「……え、どういうことですか……っ?」
「……俺以外の男に、その顔を見せるなってことだ」
そう囁かれた瞬間
彼の手が私の後頭部を優しく、けれど強引に引き寄せた───
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