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#追放
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プレジデント・ジョンはその後、
遊説先のダラクで暗殺された。
真相究明のため、ゴードン委員会が組織される。
だが、そこにはなぜか、
かつてケルパ侵攻計画に深く関わった男――
ダレスの名があった。
委員会は長い調査の末、結論を出す。
犯行は、狂信主義者による単独犯である、と。
誰もが疑問を抱いた。
だが、誰もそれ以上を問わなかった。
一方、ヴァンガルドでは、
ニキータもまた失墜していた。
アメリアとの交渉は弱腰であった。
帝国の威信を損ねた。
そう皇帝に密告する者が、後を絶たなかった。
皇帝セヴェリウスの信任は、静かに離れていった。
かつて世界を戦火の瀬戸際まで追い込んだ男は、
宮廷の片隅からも姿を消した。
そして――
世界革命を夢見た男は、
ボリバルの密林を彷徨っていた。
味方は減り、補給は絶え、
病は身体を蝕み、
それでも彼は歩みを止めなかった。
その姿は、
もはや勝利を求める戦士ではなかった。
処刑場へ向かって、
十字架を背負い歩く、
古き聖人のようだった。
ボリバル王国は、
エルネスト討伐の協力をスパルーニャへ要請した。
アメリアではない。
ヴァンガルドでもない。
かつてこの地を支配した旧宗主国へ。
それは、ケルパ危機の後、
二大国のどちらにも借りを作らぬための、苦い選択だった。
「女王陛下に、意見具申いたします」
フローレンスは、まっすぐに女王を見た。
レイナは玉座の上で、わずかに目を細める。
「わかっておる。聞かぬ」
「ですが――」
「聞かぬと申しておる。なお口を開けば牢に入れる」
それでも、フローレンスは退かなかった。
「あの人は……
エルネストさんは、ただ貧しい人を救おうとしただけです。
満足に医療を受けることすらできず、搾取され続ける人々を――」
「誰ぞある」
女王の声が、冷たく響いた。
「この者を連れて行け」
「陛下!」
衛兵がフローレンスの腕を取る。
その時、レイナは静かに言った。
「弱き者を助けるためには、強い力がいる」
フローレンスの動きが止まった。
「そして強い力は、やがて弱き者を踏みにじる。
あの者は、その矛盾に気づいてしまったのじゃ」
女王は立ち上がった。
「妾が自ら引導を渡す」
その声には、怒りも嘲りもなかった。
ただ、戦場を知る者の覚悟だけがあった。
「戦士として、死なせてやろう」
いつものように、サイラスは畑を耕していた。
土を返し、雑草を抜き、
火にかけた湯でコーヒーを淹れる。
まるで世界が何事もなく続いているかのようだった。
その姿が、ユンナには耐えられなかった。
「軍師様は……」
震える声が漏れる。
「エルネストさんを、助けないんですか?」
サイラスは答えない。
白い湯気だけが静かに揺れていた。
「あの時だって……断頭台で処刑されそうになった国王様を助けたじゃないですか」
ユンナは一歩踏み出す。
「なのに、なんでそんな平然としてるんですか」
「なんでコーヒーなんか飲んでるんですか!」
返事はない。
それが余計に苦しかった。
「どうしていつものように……」
涙がこぼれる。
「“助けるよ。当たり前じゃないか”って……笑って言ってくれないんですか……」
声が途切れる。
「どうして……」
ユンナはその場に崩れ落ちた。
長い沈黙の後。
サイラスは、まるで自分自身へ問いかけるように呟いた。
「助ける……?」
その声は静かだった。
「命を?」
コーヒーの湯気が揺れる。
「それとも、魂を?」
ユンナは顔を上げる。
サイラスは泣き崩れる少女の肩に、そっと手を置いた。
そして、静かに言った。
「……死なせてやれよ」
その言葉は、あまりにも優しかった。
「奴も、それを望んでるんだよ」
レイナ女王率いるスパルーニャ軍が、ボリバルへ上陸した。
その報が広がるや否や、
革命軍は雲を散らすように逃げ去っていった。
“ワルキューレが来た”
兵たちは口々にそう囁いた。
殺戮の女王。
幾多の戦場を踏み越えた戦姫。
その名だけで、戦意を失う者も少なくなかった。
だが、現地司令官だけは違った。
彼は焦っていた。
このままでは、手柄をすべてスパルーニャに奪われる。
そう考えた彼は、
補給も整わぬまま総攻撃を命じた。
村が焼けた。
逃げ惑う住民ごと、
革命軍を押し潰す苛烈な掃討戦だった。
そして――
エルネストは捕縛された。
司令官は勝ち誇っていた。
その耳元で、アメリア顧問団の男が静かに囁く。
「派手にやれ」
「世界への見せしめになる」
その言葉に、司令官は下卑た笑みを浮かべた。
エルネストは小学校の校庭へ引きずり出された。
集められた新兵たちの前に立たされる。
「貴様らにも手柄をやろう」
司令官は笑った。
「好きに突け」
だが、新兵は動かなかった。
槍を握る手が震えている。
その震えを見て、
エルネストは、かすかに笑った。
「お前の前にいる男は、英雄でも何でもない」
土埃の舞う校庭に、
静かな声が落ちる。
「どうした」
エルネストは一歩、槍へ胸を寄せた。
「突け、臆病者が」
それが、最後の言葉になった。
レイナ女王が現地へ到着した時には、
すべて終わっていた。
学校の清掃部屋。
薄暗いそこに、
エルネストの遺体は晒されていた。
女王は、しばらく無言でそれを見つめた。
やがて背後の司令官へ振り返る。
「貴様か」
司令官は慌てて膝をついた。
「わ、私は――」
最後まで言い終えることはできなかった。
女王の剣が、一閃した。
首が地へ転がる。
誰も声を出せなかった。
レイナは血のついた剣を払い、
静かに命じる。
「遺体を清め、
丁重にケルパへ送ってやってくれ」
その声だけが、
静まり返った校舎に響いていた。
病床のベッドで
エルネストの死亡を聞いた
フローレンスは
「この救われぬ魂をどうか…どうかお救いください」
とだけ神に祈った
ある日。
頼んでいた書類を受け取るため、
サイラスは王都にあるロドリゲスの部屋を訪れていた。
扉を開けた瞬間、
彼の視線は、壁の一枚の絵に止まる。
赤と黒を基調にした男の肖像。
鋭い眼差し。
風に揺れる髪。
そして、どこか殉教者を思わせる静かな表情。
「いいでしょ?」
書類を整理しながら、
ロドリゲスは得意げに笑った。
「最近有名な画家の絵なんです」
「まあ、これはレプリカなんですけどね」
サイラスは黙ったまま、
その肖像画を見つめていた。
そこにいるのは、
もう二度と会うことのない友だった。
「でも、かっこいいですよね」
ロドリゲスは屈託なく続ける。
「弱き者のために最後まで戦い続けた、その純真で、一途な正義が」
「“英雄的ゲリラ”って作品らしいですよ」
サイラスは、しばらく何も言わなかった。
やがて、小さく呟く。
「……そうか」
その声は、
どこか呆れたようでもあり、
少しだけ嬉しそうでもあった。
「お前は、死ななかったんだな」
ロドリゲスには、その意味がわからなかった。
サイラスは書類を受け取ると、
静かに部屋を後にした。
壁の中では、
今もあの男が、
真っ直ぐ前を見つめ続けていた。
fin
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