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「蓮!!」
ドレスの裾を翻し、私はステージへと駆け上がった。
会場はもはや社交場ではない。
自分の醜い秘密を突きつけられた「選ばれし者たち」が、仮面をかなぐり捨て
獣のような形相で蓮に掴みかかろうと押し寄せている。
「そのタブレットを渡せ!」「私のデータを消せ!」
「下がって!」
私は掠れた声を精一杯振り絞り、蓮の前に立ちはだかった。
九条さんが給仕のふりをして隠し持っていた特殊警棒で暴徒を制止するが、多勢に無勢だ。
ふと、蓮の首元を見て、私は息を呑んだ。
彼の細い首には、脈動するように赤く明滅する、金属製の首輪が嵌められていた。
『お姉ちゃん、無駄だよ。これは僕の心拍数と同期してるんだ。僕が「絶望」して、心拍数が一定を超えたら……この会場ごと、ドカン。パパが最後に作った、最高に性格の悪いおもちゃさ』
蓮の膝の上で、タブレットの画面に心拍数のグラフが表示される。
120……130……。
会場の混乱と恐怖に呼応するように、数値が跳ね上がっていく。
「蓮、落ち着いて。私を見て。深呼吸して!」
『落ち着けるわけない……!見てよ、この大人たちを!10年前、お姉ちゃんを無視した奴らと同じだよ!自分の体裁のためなら、人ひとり殺しても構わないと思ってる!』
蓮の瞳に、初めて子供らしい、剥き出しの涙が溜まった。
その瞬間、数値が150を突破する。
首輪から、電子的な警告音が鳴り響いた。
【Final Execution:60 seconds remaining】
「栞さん、もうダメだ!蓮くんを連れて窓から飛び降りるぞ、パラシュートの予備がある!」
九条さんが私の腕を掴む。
けれど、私は動かなかった。
逃げても、この爆弾は蓮を殺す。
どこまで行っても、父の呪縛からは逃れられない。
「……九条さん、蓮を抱えて。…私の『声』を使うわ」
「何だって!?だが、今の君の喉では……!」
私は蓮の顔を両手で包み込んだ。
10年前、熱湯で喉を焼かれたあの日から、私はずっと「言葉」を信じられなかった。
言葉は裏切る、言葉は人を傷つける。
でも、今ならわかる。
パパが私の喉に刻んだのは「暗号」なんかじゃない。
「声」という、目に見えない絆を恐れた男の、惨めな防壁だったんだ。
私は、蓮の目を見つめ
喉の奥にある「火傷の記憶」を優しく解くように、一音一音を丁寧に紡ぎ出した。
「……蓮。…聞こえる?…私たちの、本当の、リズム」
私は、父が教えた「拒絶の周波数」ではなく、母が昔歌ってくれた子守唄の、穏やかなメロディを口ずさんだ。
掠れて、ボロボロで、完璧な歌声じゃない。
けれど、それは暗号を上書きする、唯一の「愛」の波形だった。
深冬芽以