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#山中柔太朗
Freesia
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俺たち五人が、同じステージに立つようになって、もう何年になるんだろう。
デビューしたばかりの頃は、五人で並んでいるだけで精一杯だった。振りを間違えないように、歌詞を飛ばさないように、カメラがどこにあるのか見失わないように。ステージ袖に戻ってくるたび、誰かが「今日やばかった」と笑って、その笑い声につられてまた全員で笑った。
それが今では、何万人もの前に立っても、昔ほど緊張しなくなった。
歓声が降ってくる。ライトが眩しくて、客席の奥なんてほとんど見えない。それでも、隣にいる四人の気配だけは、いつだって分かった。
「仁人、次センター」
イヤモニ越しに勇斗の声がする。
「分かってるって」
「絶対忘れてたっしょ?」
「忘れてない」
「ほんとか?」
少しだけ笑った声。 俺も笑う。 こういうやり取りは、もう何年も続いている。
ステージの上で目が合えば、なんとなく笑う。立ち位置が近ければ肩が触れる。歌の合間に勇斗がふざけて、俺がそれを適当にあしらう。
ファンからすれば、いつものことだ。 俺たち自身にとっても、いつものことだった。
だから、あの日までは。
*
仕事が終わったのは、日付が変わる少し前だった。 長かった撮影を終えて楽屋に戻ると、ソファに座っていた太智が大きく伸びをした。
「腹減ったわ。誰かなんか食べに行かへん?」
「俺行きたい!」
舜太がすぐに手を挙げる。
「じゃあ俺も」
柔太朗も続いて、太智が満足そうに笑った。
「仁人は?」
「俺はいいや。帰る」
「また?」
勇斗が顔を上げる。
「疲れたから」
「じゃあ俺も帰る」
「なんで」
「なんでって、帰るから」
それだけ言って、勇斗は立ち上がった。 昔からそうだった。 俺が帰ると言えば、勇斗も帰る。
俺がコンビニに寄れば、勇斗もついてくる。
別に約束しているわけじゃない。ただ、気づけば隣にいる。
「お前らほんま仲ええなぁ」
太智が笑った。
「そう?」
俺が聞き返すと、太智は呆れたように肩をすくめる。
「そうやろ。今さら何言うてんねん」
勇斗も笑っていた。 俺も笑った。 いつも通りだった。 それなのに、その日はなぜか、その言葉だけが妙に残った。
仲がいい。 昔から何度も言われてきた。 俺だってそう思っていた。
勇斗とは気が合う。何を考えているか分かるし、変に気を遣わなくていい。沈黙も苦じゃない。俺が何も言わなくても、勇斗なら勝手に隣にいる。
それだけだ。 それだけのはずだった。
*
楽屋を出ると、廊下にはもう人がほとんどいなかった。 撮影で使ったセットの明かりだけが残っていて、さっきまでの騒がしさが嘘みたいに静かだった。
「仁人」
「ん?」
「今日さ」
勇斗が少し前を歩きながら言った。
「楽しかったね」
「何が?」
「撮影」
「ああ」
俺は笑った。
「勇斗、途中で変なこと言って怒られてたじゃん」
「だって太智が悪い」
「なんで俺のせいなん!」
後ろから太智の声が飛んできて、俺たちは同時に振り返った。 少し離れたところで、舜太と柔太朗も笑っている。
五人で帰る。 いつものことだった。
エレベーターを待つ間、勇斗が俺の隣に立った。 肩が触れた。 ほんの一瞬だ、 それだけなの
になぜか身体がその感触を覚えてしまった。
エレベーターの扉が開く。 俺たちはいつものように乗り込んだ。 狭い箱の中で、五人が適当に並ぶ。 勇斗は俺の隣にいる。 それを見て、俺はふと思った。
もし、この隣に勇斗がいなかったら。 たったそれだけの想像だった。
なのに、胸の奥がひどくざわついた。 別の誰かが隣にいる。 勇斗が別の誰かと笑っている。
その誰かの名前を呼んで、俺には見せない顔で笑って、俺が知らない未来を一緒に歩いていく。
そんな光景を想像した瞬間、息が詰まった。
「仁人?」
勇斗がこちらを見る。
「……何?」
「いや。なんかぼーっとしてたから」
「眠いだけ」
「そっか」
勇斗はそれ以上聞かなかった。 ただ、いつものように笑った。 その笑顔を見て、俺は目を逸らした。
――ああ。
たぶん、俺はこのとき初めて気づいた。 勇斗が誰かと幸せになることを想像するだけで、こんなにも苦しい。 ずっと隣にいてほしいと思う。
できれば、これからも。 明日も、その先も。
五人でいる限り、なんて言い訳をしていたけれど、本当は違った。 俺が欲しかったのは、五人でいられる未来だけじゃなかった。
勇斗の隣にいる未来だった。
それに気づいてしまったら、もう今までと同じようには笑えない気がした。 それでも俺は、エレベーターの鏡に映った勇斗を見ながら、何も言わなかった。
言えるはずがなかった。
だって俺たちは、ずっと五人でいることを選んできたから。
俺たちは、アイドルだから。
男同士だから。
きっと、普通の幸せなんて選べない。
そんなことを考えながら、俺は隣に立つ勇斗を見た。 勇斗は何も知らずに、眠そうに欠伸をしていた。 その横顔が、どうしようもなく好きだった。
――勇斗の隣は、ずっと俺の場所だった。
そう思っていた、 恋をするまでは。
コメント
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読了したよ。五人でステージに立つ日常が丁寧に描かれてて、特に「仁人が帰ると言えば勇斗も帰る」って自然な習慣がすごくリアルだった。エレベーターで勇斗の隣に別の誰かを想像した瞬間、仁人の息が詰まる感覚が伝わってきて胸が苦しくなった。アイドルだから、男同士だからって言葉が重くのしかかってくる終わり方、めっちゃ続きが気になる…!