ごきげんよう、皆様如何お過ごしでしょうか?シャーリィ=アーキハクトです。
私がシスターに保護されて二ヶ月が過ぎました。振り返ると、家事しかしていないような気がします。それも仕方の無いことではありますが。その為か足の怪我も順調に良くなり、体調面は万全となりました。
この二ヶ月、シスターは定期的に外出されていますが、私は留守番を任されています。そして外出する際は過剰なくらいに戸締まり等を徹底して、私には一切外に出るなと言い付けます。もちろん私は良い娘なので言いつけを守り留守に徹しています。退屈ではありますが、掃除や料理をして暇を紛らわせていますね。その為この二ヶ月は洗濯物以外で教会から出たことはありませんでした。
そんなある晴れた日の朝。
「そろそろ貴女にも外出の機会を与えるべきですね。ずっと教会の中に居るわけにはいかないでしょう。」
「その言葉を待っていましたよ、シスター。たまには日光を浴びないとカビがはえてしまうと危惧していましたから。」
シスターから突然の外出許可。何かがあったのは間違いありませんが、素直に喜んでおきます。え?皮肉っぽい?素です、ご容赦を。
「それは何より。カビのはえた貴女を見てみたい気持ちもありますが。先ずは買い物に連れていきます。」
「お買い物ですか?それなら場所さえ教えていただければ行ってきますよ?」
「忘れているようですね、シャーリィ。ここは暗黒街シェルドハーフェン。貴女のような小娘が一人で出歩けるような場所ではありません」
ああ、教会が平和なので忘れるところでした。ここは帝国で一番治安が悪い街でしたね。そんな街を私みたいな小娘が一人で歩くなんて、自殺行為ですね。
「それもそうでしたね、忘れるところでした。今から用意をしてきます」
「目立たないようにしてくださいね。ただでさえシャーリィの容姿は目立つのですから」
目立つ容姿と言えばシスターも大概だと思うのですが、まあ子供には分からない世界なのかもしれません。
私は私室に戻って身支度を整えます。私の着ていた服はお役目を果たせないくらいボロボロだったので、シスターから子供用の修道服をお借りしています。つまり、いつも被っていないあの帽子みたいなものを被るだけですね。シンプルイズベスト。
「くれぐれも離れないように。迷子になっても探しませんよ」
「なら手を繋ぐ許可を。私は知的好奇心が強いので、子供らしく動き回るかもしれません」
「こんな時だけ子供らしく振る舞うのですか。全く可愛げがない」
「可愛さは妹の仕事でしたので私には不要でした。では、エスコートをお願いします、シスター」
いつものように掛け合いながら私達は手を繋ぎ教会を後にするのでした。うん、白くすべすべで柔らかい手です。えくせれんと。
教会は街から少し離れた森の中にあり、街道を三十分歩くと街へ着きました。入り口には古びた木製の歓迎門があるんですが、白骨化した死体が吊るされていますね。前衛的かつ刺激的な装飾です。観光客は揃って回れ右をすること請け合いですね。
「身の程を弁えない勘違い野郎の末路ですよ。こいつは先月ターラン商会のシマで許可無く薬を売り捌いていた売人でしたね。」
「ターラン商会とは?」
「シェルドハーフェンでは比較的温厚な商人達ですよ。比較的良心的な価格で比較的良質な商品を取り扱っています」
「比較対象が分からないので何とも言えませんが、その商会がマシであると理解できました。買い物はそこを利用するのですか?」
「日用品の類いならばターラン商会が一番です。込み入ったものは別にありますが……まあ、それは何れ」
込み入ったものですか。察するに武器とかかな。何れ私にも使う機会が来るのでしょうか。剣ならある程度は……えっ、鉄砲?うーん。銃の類いは扱ったことはありませんね。お母様は剣主義でしたし、銃弾弾いてましたから。うん、おかしい。
シェルドハーフェンの街並みは、なんと言うか辺境の開拓地みたいですね。帝都みたいに高層ビルなんてありませんが、さまざまな建物が軒を連ねています。なにより、行き交う人々が如何にも悪な人ばっかり。刺激的ですね。お姉さん達は…随分と大胆な服を着ていますね。大人の世界です。
「メインストリートを歩くのが一番安全なのです。シャーリィ、覚えておくように」
「怖そうな人がたくさん居ますが?」
「目立つ場所で騒ぎを起こす奴は長生きできないんですよ。大抵誰かのシマ…縄張りですからね」
「なるほど」
暗黒街ならではの処世術かな。路地裏とか怖いので近寄るつもりもありませんが。
そんな話をしながら手を繋ぎつつシスターとメインストリートを歩き、目的地へ辿り着きました。
「わぁ…」
「分かりますよ、初見ではそうなります。」
シャーリィです。目的地へと着きました。建物はレンガ造りの立派な三階建てなのですが……えっと、外装がピンクです。ドピンクです。揶揄ではなく、屋根から外壁、窓にドアまで全部ピンクです。目が痛い。この趣味は、ちょっと理解できないかもしれません。
「ここが?」
「ターラン商会本店です。悪趣味でしょう?間違う奴は居ませんよ」
「ええ、目に焼き付きましたよ。夢に出そうです」
「あら、この美しさを理解できないの?まあ、まだ子供なら仕方無いか」
「っ!?」
突然後ろから声をかけられてビックリしました。危うく心臓が止まるかと。大事ですよ。
「会長自らが出迎えですか。暇なんですか?マーサ」
「視察の帰りよ、カテリナ。その子は?まさか産んだの?その辺の男を襲って作ったとか?」
「私にだって選ぶ権利くらいありますし、産んでいません。拾ったんですよ」
シスターが女性と話していますが、私は絶句していました。マーサさんと呼ばれた方は綺麗な金髪をショートに纏め、背も高く華奢で肌も真っ白。お胸も重厚なものをお持ちです。フルアーマーです、ふぁんたすてぃっく。
ただ何より私を驚かせたのは。
「えっ……エルフ!?」
そう、マーサさんの耳は尖っていました。えっ、物語の中の世界が現実に!?いつから世界はファンタジーになったんですか!?
シャーリィ=アーキハクト九歳冬の日、世界をまたひとつ知りました。
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