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皆様ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。私は人生最大の衝撃を受けています。小説の世界の話と思っていたエルフが実在していました。びっくりです。驚愕です。
「私はマーサ、ターラン商会の会長をやってるわ。貴女は?小さなシスターさん」
「シスター見習いのシャーリィと申します。シスターカテリナの下でお世話になっています。以後お見知りおきを、マーサ様」
私は姓を名乗らないようにしています。これはシスターと相談して決めました。無用な厄介事を招くような真似をしたくはありません。少なくとも、無力な内は。ただ答えながらも私の視線はマーサさんの耳に固定されています。
「様なんて要らないわよ。貴族様じゃないんだから……ん?これが気になる?エルフに会うのは初めてかしら?」
マーサさんは自らの尖った耳を上下に動かしながら聞いてきました。ピコピコ!ピコピコです!可愛いっ!
……はっ!?我を失うかと思いました。
「はい、初めてです。恥ずかしながら、物語の世界の話かと思っていました」
「あー、都会育ちかしら。確かに帝国には同胞も少ないからね。まして商売してるのなんか私くらいじゃない?」
「シャーリィは箱入りでしたからね、無理もありません。基本的にエルフは森で暮らしていますが、たまにマーサみたいな、変わり者が街に出没するんですよ」
「初めて知りました。興味深いです。」
「変わり者で悪かったわね。まあ自覚はあるけどさ。ほら、寒い中で立ち話も何だし中に入りなさいよ。お客様なら大歓迎よ」
マーサさんに招かれて私達は店内へと足を踏み入れました。店内には食品から衣服に日用品まで様々な品が並んでいました。うん、壁紙と床はピンクですけど。照明までピンクだったら危ないお店になるところです。マーサさんにも良心はあるみたいですね。
「綺麗でしょう?本当は照明にも拘りたかったんだけど、皆が反対したから仕方なく普通のものにしたのよ。」
従業員の皆さんふぁいんぷれーです!ぐっじょぶです!良心はそこにありました!
種族の違いが美的センスにも出ているのでしょうか。価値観の違い?興味深いです。
「こんな小さい娘が教会に居たなんてねぇ。最近子供用品を買うからまさかと思ってたけど。あのシスターカテリナがどんな風の吹きまわし?何か企んでる?一枚噛ませなさいよ。」
「単なる気紛れですよ。たまには母親の真似事をしてみたくなりました。それだけです。ほらシャーリィ、フラフラしない」
おっと!珍しいものばかりでつい知的好奇心の赴くままに動いてしまいました。うん、やっぱり私は九歳です。自制心が足りない。早く大きくなりたいものです。出来ればバインバインの……ん、これは?
「あら、それに興味があるの?中々見る目があるじゃない」
私の視線の先には、鉢植えに植えられた小さな苗がありました。普通に見えるんですが、なんだろう。不思議と気になります。
「マーサさん、これはなんですか?」
「東方からの交易品でね、何かの苗よ。なんなのかは分からないけど、強い生命力を感じたから買ってみたの」
東方由来の品でしたか。この世界には広大なケファロニア大陸があり、西側には我がロザリア帝国。南には宿敵アルカディア帝国、北方には未開の大地が広がり東方は閉鎖的ですが独特は文化圏が存在するとか。たまに東方由来の品が交易品として市場に流れ、高値で取引されています。お母様が愛用していた扇子も東方の品でしたね。
「なにかも分からずに買うとは。物好きじゃありませんか、マーサ」
「こんなに生命力が強い植物は見たこともないわ。エルフとしてはやっぱり気になるじゃない」
うーん、気になります。興味深いです。知的好奇心をビシビシと刺激します。欲しくなりました。ここはおねだりをして見ましょう。子供っぽさを全開にして…レイミを真似してみましょうか?あの娘のおねだりは例え皇帝陛下でも断れないはず。断ったら頭カチ割ります。
「シスタ~」
「真顔で猫撫で声を出さないでください。不気味です」
不気味とは失礼な。自覚はありますが。
「はぁ……仕方ありませんね。マーサ、いくらですか」
「本来なら銀貨七枚と言いたいけど……まあ、売れるとは思えないし、三枚で良いわよ。赤字になるなら少しでも取り戻したいし?」
「半額以下とは随分と気前が良いですね?マーサ。それなら……買いましょう。シャーリィ、日頃のごほうびです」
「わーい」
買ってくれました!テンションが上がります!爆上げです!嬉しい!頑張って育てないと!
「ねぇ、カテリナ。あの娘何なの?ずっと真顔なんだけど。声も平坦だし……何だか不気味だわ」
「感情表現が下手なだけですよ。不気味ではありますが、悪い娘ではありません」
「それは何となく分かるけど…まあ、拾ったんなら最後まで面倒見なさいよ?捨てたりしたら承知しないからね」
「猫みたいな扱いですね、間違いではないかもしれませんが。拾ったからにはちゃんと責任を持ちますよ。あの娘が何をするか今から楽しみでもあります」
「分かるよ、どう見ても普通じゃない。表の世界じゃ不利になるが、裏の世界では大抵あんな娘が何かを成し遂げるものよ。今後ともご贔屓にね」
シスターとマーサさんが何かを話していますが、まあ気にしません。さあ、この苗を立派に育て上げないと。やることが増えるのは良いことですから。
シャーリィ=アーキハクト九歳の冬の日、初めてのお買い物をしました。興味深いことがたくさんあります。これからもお買い物には積極的についていかないと。私は覚悟を新たにするのでした。