テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
『_では班決めは以上となります。えー調理実習は来週の月曜にありますので忘れ物、予習などを各自忘れないようにしてくださいね。』
先生の一言が言い終わった後、その文末を待っていたかのようにチャイムが鳴った。そのままの流れで号令をした後、休み時間となった教室はいつもより騒がしさを極め始めていた。
友達と計画を立てる者、寝ていてメモを取っておらず、急いで板書を書き写している者、隠し味に何をチョイスするか迷っている者、など様々な人が会話を交わしていたが、教室内は比較的活気に満ちていたとも思う。
ただ一人、フランスを除いては。
(ッスー、 終わったああああ!!!!!!)
フランスは、賑やかな教室の端っこで、密かに絶望を叫んでいた。日直が消そうとしている黒板には、班の一覧表。2班。フランスと書かれたその下には、、、、イギリスとはっきり書かれていた。
状況を端的に話そう。来週に迫った調理実習。先生が公平だとか何とか言って、くじ引きで班を決めることになった。そこまではいいが、イギリスが手に持っているくじには、間違いなく自分と同じ番号。
うん、まあ、しょうがない、しょうがないんだろうけどさぁ、、、!!
、、、結論を言えば、自分とイギリスが同じ班になる事になった。しょっちゅう言い合いをする仲で、 それなりにケンカもするし、まあぶっちゃけ好きか嫌いかで言ったら嫌いだけど、今絶望している原因は実はそこでは無い。
アイツの、イギリスの料理だ。一番の問題は。オブラートに包んで言うと独創的、オリジナリティがあってこだわり深い。だけどアイツなんかに配慮をする義理もないのでこのまま包み隠さず言うことにする。
、、、不味い。いや不味いを通り越してやばい。料理とは信じ難い物を生み出すんだ。キラッキラな笑顔で。
いやここまで何かの事を悪く言う趣味は無いんだけど、あれを目の前にしたらそんな建前も全部吹っ飛ぶほど、だ。マジで。
アイツのメシマズは多岐にわたる。
まずケース1、【極端】。味が元のレシピより大分薄かったり、オーブンで焼く時間が長すぎて真っ黒焦げになっていたりする。逆に今度は短すぎて生焼けなことも。味のことは後で調整するんですと言いながら胡椒の瓶の中身丸ごと皿にぶちまけた時は肝が冷えるかと思った。まあでもこのケースはまだマシな方だ。、、、食べれはするから。
ケース2、【…創作料理?】。ここら辺から徐々に怪しくなっていく。アイツは変なところで冒険家で、全く見当もつかない組み合わせを生み出すことがある。鰻とゼリーを合わせた奴は見た目がグロすぎて辞退した事があるけど、その時は僕の目の前で不思議そうにしながら平らげた。言わずもがなアイツの味覚は相当バグってやがる。
そして最後に、ケース3、【この世のものでは無い何か】いや言い間違いじゃない、本当にこの世の物じゃないんだ。なんて言うべきか。スライム?アメーバ?ダークマター?時には光を全く反射しないほど黒焦げで、時には怪しい虹色を発しながらキラキラ輝いている物もあった。想像してみて欲しい。アップルパイを作ったんです!と言われて出されたものが皿の上からこぼれ落ちている紫色の物体だった僕の気持ちを。
いやごめん、自分でも言い過ぎだとは思う。だけど何かにつけてイギリスを煽り散らす僕は、アイツの料理のことに関してだけ何も言えなくなる。この事から察して欲しい。
勘違いしないで欲しいのは、アイツは淹れ方に一々茶々を入れてくるほど紅茶にはこだわりがあるし、それに合うスコーンも、多めの朝食も、そこまで悪いものじゃないこと。
_ただ、そのこだわりと冒険心と知識が悪い方に傾いてるだけで。
僕とイギリスは昔から家が近くて、親が居ない時とかは二人でよく遊んでいた。良くいえば幼馴染、悪く言えば腐れ縁。アイツが料理を始めたのも、小さかった僕が家からレシピ本を取ってきたのが原因で、今やあの料理の被害者となるのは大抵僕となっている。
ああ、部活動を決める際にアイツが料理部に入ろうとした時があったな。だれか死に物狂いで止めたその時の僕を褒めて欲しい。その行動のお陰で、割と普段から紳士で通ってるイギリスの料理の事をクラスメイト達はまだ知らない。もしもこのままメンバーにあの料理を出すことになったら、、、というかその前に”この世のものでは無いもの”で教室中が大パニックになったら、、、?
、、、何としてでもそんな事は避けなきゃいけない。平和な学校生活のためにも!!
そんな決意があって放課後、鞄に荷物を詰めているイギリスに僕は声をかけた。
「ねぇイギリス、週末暇だよね?」
「?えぇ、はい」
「んじゃあ材料持って僕ん家集合ね。調理実習の練習するよ。はいこれ決定」
「っえ!?ちょいきなり!?ま待ってください!どういうこと、な、なんでですか!?」
「いや考えても見ろよ!お前のあの料理人前に出せるわけないでしょ!?だったら練習して少しでもマシにしなきゃなの!! 」
「私の料理なんだと思ってるんですか!?」
「炭!!スライム!!モザイク処理必須の暗黒兵器!!」
「はあ!?ちょっと酷くないですか!?それにそんな酷い物作った覚えはありません!!」
「、、、僕はお前を心から心配するよ、本当に。、、、
、、、まあいいや、とにかくそういう事だから!日程とかは後で送っとく、ちゃんと用意しといてよ!じゃ!」
「えあ、待ってください!そういえば私今日部活無しになったんです。だから普通に早く帰れます。」
「え、まじ!?おけ、じゃあちょっと先下駄箱で待ってて、委員会の仕事終わったらすぐ行くから!」
「分かりました、
、、、、、、?そんなに私の料理ってそんなに酷いですかね???」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
そして時間は過ぎ休日。インターホンがなった後、玄関先でイギリスを迎え入れて支度を整えた。持ってきた材料は手提げの紙袋に入っているようだ。エプロンの紐を締めて2人でキッチンに立つ。
「、、、分かってると思うけど今回調理実習で作るのはカレーだよ。班によって変わるけど、、基本的にはじゃがいもとか人参、玉ねぎ、、あ生肉使えるようになったんだっけ。まあそういう具が基本かな。
んーよし、それじゃお昼時だし早速作ろう。持ってきた材料出して。」
そういうとイギリスが紙袋に手を突っ込んでごそごそと取り出し始めた。
_今回の調理実習では班のメンバー全員に必ず役割を与えなければいけない。つまり、イギリスが何かやらかしてもある程度カバーが出来るかもしれないということだ。、、、裏を返せば、順調に進んでいてもイギリスが全部パーにしてしまうかもしれない可能性もある。だから出来るだけ簡単で、尚且つイギリスの腕がならないような役割を見定めなきゃいけない。役割分担の時から既に試練は始まってしまっている。まあ流石に材料持ってくる係くらいは任せられるはず、、、
そこまで考えたところで急に思考が停止した。ありえない物が視界に入ったせいだ。
「、、、えっっっっと、、、ちょっと待ってね、僕の幻覚じゃなければなんだけど、、、
、、、なんでお前はセロリとたけのこを手に持ってるの????」
「え?だから材料、」
「、、、っあーー成、程、、ね、?(諦め)、、、じゃあ一旦確認するけど、お前ん家ではカレーにそれらを入れるんだね?」
「はあ?カレーにセロリとたけのこが合うはずないじゃないですか。」
「OK、お前に話が通じない事が分かった。ちょっと待ってね、ツッコミが追いつきそうにないわ。」
深呼吸した後、きょとんとするイギリスを見やった。一番腹立つのはイギリスの目が清廉潔白、純粋無垢なことだ。
落ち着いた後、息を大きく吸い込んで一息に吐き出した。
「、、、いやなんっでだよ!!!!!!!! おかしいだろ!!!なんでそうなるんだよ!!!!!!!!」
「っうわ急に大きな声出さないで下さいよびっくりするじゃないですか」
「僕はお前の精神性にびっくりするよ。いやなんで??なんでそれ持ってきた!?!?合わないって分かってるなら何故持ってきた!?!?ごめん僕ほんと分かんない!!ちょっと分かりたくもない気もするけど!」
「何をそんなに騒いでるんですか、、、スーパーにあったので買ってきただけですよ?」
「???あれ?何作るかは事前に伝えてあったよね?材料も一応教えてあったよね?」
「ああいや、珍しかったもので、、、それに、この組み合わせどうなるのか気になってしまって、、、つい」
「うんうんそうだね、気になっちゃったんだね、ってなるか!!!いい!?材料はレシピ通りに持ってきてよ!?まじでお願いだから!!!」
「はーい」
「ちゃんと返事!!!!」
_分かってはいたけどいざ計画を目の前でへし折られると中々来るものがある。切れた息を整えながら、もう心折れそう、と心の中で呟いた。
とりあえず材料を持ってくる担当は絶対にイギリスに任せないでおこう。絶対に。
「、、、しょーがない、、、じゃがいもと人参位は冷蔵庫にあったはずだから今回はそれを使おう。そしてそれらは持って帰れ。」
「はいはい、、、、何に使いましょうかね、これ、、、」
その料理の被害に遭わない事を祈りながら紙袋にしまうのを見届ける。まだ料理のりょの字もしてないのに疲れた。体力的にも精神的にも。
_まあこの後その比じゃないくらい疲れることになるのだが。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
十数分後,,,
「、、、イギリス、、、僕食べやすい大きさに切ってって言ったよね?」
「?はい、切りましたよ?」
「いやこれを”切った”とは言わないよ!?!?」
と言いながらまな板の上で見るも無惨な姿になったじゃがいもを勢いよく指さした。
「明らかにさっき切り方おかしかったよね!?!?切るっていうかもはや刻んでたよね!?!?包丁2つ両手に持ってダンダン叩いてたわ!!!」
「食べやすくないですか?」
「お前は離乳食でも作る気かよ!!!!これもう”具”じゃないよ !?!?こんなん入れて煮込んだらぐずぐずになるわ!!!!というか生のじゃがいもよく潰せたな!!!」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
また数分後,,,
「、、、で、なんっでそうなるかなぁ、、、、、、」
「何でですか、さっきよりも大分大きく切りましたよ?」
「だからといって何で人参を4等分にした、、、お前の一口どんだけデカイんだよ。」
イギリスがしょうがないですねぇ、と呟いて両手に包丁を持ち、先程のじゃがいもペースト状事件の時と同じ構えをしたのでフランスは思わず天を仰ぐこととなった。
こうして、、、、察してはいたが材料を切る係は完全に選択肢から外された。
(、、、どーしよっかなー、これ)
目の前には、イギリスの見事な(笑)包丁さばきによって生み出されたみじん切り_というよりかはほぼペースト状になった具材達。まな板から垂れ落ちそうなそれは誰がどう見てもカレーの具とは言えない状態だった。
食べやすい具の大きさは教科書にレシピと載っていたはずなのに。コイツカレー食べたことないのか?いや食べやすい大きさっていう曖昧な指示をした僕が馬鹿だったのか?そもそもコイツに料理を教えた所でちゃんと覚えて帰ってくれるのか?
そんな事を悶々と考えていても、当の本人は「やりきった、、、✨」とでも言いたげな清々しい表情をしている。本日何回目かも分からないため息が溢れ出た。
「、、、今日はもう切っちゃったからしょうがないけど、次からは一口大に切ってね。これは、、そうだな、、キーマカレーとかにならできるかな。流石に材料無駄には出来ないしね。じゃあ挽き肉買いに行くからイギリスも着いてきて。」
「はいはい。」
「はいは1回。今度は余計なものカゴに突っ込まないでよ。続きも僕が作るから。
あのスーパーならギリ徒歩で行けるかなー
、、、ってうわー、外暑そー。そうだ、帰りにアイス買って帰ろーよ」
「!それいいですね。私あのー、、、何でしたっけ、相槌みたいな名前の、、、、”うん”でしたっけ、あれ好きです 」
「、、、、、、もしかして爽のこと言ってる?
、、ふはっ、いくらなんでもその思い出し方はないだろ」
思わず零れた笑みは咄嗟に手で覆ったが、2人の間に柔らかくなった空気は流れたままだった。それがなんだが気恥ずかしくなって何回か言葉の投げ合いをして家を後にした。
まあ何だかんだ言ってコイツとは十数年の仲だ。一緒に居ることは悪くはないし、くだらない言葉の応酬も日常の1部となってしまっている。別にあの料理だって、心込めて作られてんなら食べてやれなくもない。だからと言ってあの料理下手を直したくない訳じゃないけど。
、、、前言撤回。
_関係ない食材とか知らない食べ物を目離した隙に横から突っ込むのはやめて欲しいなー。イギリス君。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
結局その日は自分が料理を作って、(アイツが何か手を出そうものなら全力で止めた)料理の腕を矯正出来ないまま解散となった。まあまだ不安は残っているけど、イギリスの担当は簡単で何も出来ないようなものを最終的に1つ考え抜くことが出来た。
2日ほど経ち、ようやく迎えた調理実習当日。この学級でやるのは初めてだからか、朝の時間でも教室内は少し浮き足立っていた。次から次へとやって来るクラスメイト達も、最初に話す内容は実習のことばかりだ。
「、、、1回班の人とも話し合って決めたことだけどね、イギリス、お前はただ鍋を混ぜるのと、火の見守りをするだけでいいんだ。本当にそれだけでいい。てかそれ以上何もするな。」
「いや、思ったことなんですけど簡単過ぎやしませんか?それ料理って言えるのでしょうか、、」
「っいや全然!?!?大丈夫!!!これも立派な料理だから!!料理!!ね!?!ほら最後の仕上げっていうかさ!!、だから具切る、とか炒める、とかもお前は全然気にしなくて良いから!!うん!!!」
「そうですか、、、まあそれもそうですね、私は私の仕事をきちんとやりましょう」
そう言いきったイギリスを見て、ほっ、と安堵のため息が出た。一番心配だったのはコイツの無限に広がる好奇心だけど、今は特に不審な材料も持っていなさそうだし、一先ず安心して良いと思う。
今日を何の問題も無く終えることが出来たらいいなと切実に願った。
_が、虚しくもその願いは儚く散ることとなった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
『せんせー!!!あっちの班からなんか煙出てるー!!!!!!』
『うわー!?!?!?え何あれ!?!?!黒、、、?いや銀、、、!?いや鍋から吹き出てんじゃんえこれ大丈夫なやつ!?!?2班やばくね?っちょちょっと早く先生ーー!!!!』
『何の騒ぎっ、、、ってええええええぇぇ!?!?!?!?な、ななななんですかこれ?!ちょっとこれどこの班!?2班!?えっちょっ誰!?ちょっと班員集合!!!!』
「いいいイギリス!!!!!!!??おまっ何しやがった!?!?さては変なの入れたな!?!?!?くそっ何入れた!?!?!?」
「いやちょっと火にかける前に材料足しただけですよ!!!えーっと、、、歯磨き粉、メントス、蛍光マーカー、、、」
「思っきし食べ物じゃないの入ってるじゃねーか!!!!」
くっっっそ、いつ入れたんだ!!!!最後油断して皿洗ってなきゃ良かった!!まあ確かに煮込む時間長いなとは思ったけど!!
「あと他に、、、☭も入れましたかね、」
「だからかよ!!!さっきから鍋ん中がデエエエエエエンってうるさいんだよ!!!それ他クラの奴んだろ!!返してきなさい!」
「まあまあこうやって煮込んでいればちゃんと火も通りますし」
「ちょっ加熱のしすぎだ馬鹿!!それ以上その物体をかき混ぜんな!!というか黒はまだ分かるけどどうやったら銀色になんだよ!!とりあえず一旦手を止めろ!!!」
そうこうしている間に、鍋から溢れ出たこの世のものとは思えない物が床に広がって教室内に悲鳴が飛び交った。自分が一番恐れていた最悪のシナリオが目の前で繰り広げられ、フランスは絶望しながらもこれからの生活を危惧するしか無かった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
あの後、先生達が緊急招集されて危険物処理班が手配される、などのことはあったが、思っていたほど自分の日々は変わらなかった。一日で学年全体に噂は広まったが、紳士キャラとダークマターのイギリスが結びつかないらしく、ただひたすらに困惑する者が増えるだけだった。
しかし、一つだけ変わったのは、あの一連の出来事でクラスメイトが「メシマズブリテン及び黒・メタルスライム錬成王国」と影で呼び始めたことだ。
まあ当の本人はまだ気が付いていないし、自分もこればっかりはイギリスのせいだろうと思っているので教えてあげるつもりは無い。
あ、ちなみにその後もアイツの料理は治りませんでした。はい、めでたしめでたし。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
自分も書いててよく分からなかったです。ここまで読めた人凄い。
こんなにビックリマーク連打したの初めてだよ。画面がうるさい。少しでも笑っていただけたら良いなと思います。
それではまた次の作品でお会いしましょう!ばいばーいヾ(*´∀`*)ノ
コメント
6件
めっちゃ笑いました!!なんかわからんけど元気になれた てかイギギ☭なんてどうして入れようと思ったのさ!あ、聞いてもだめなんだっけ
危険物処理班か〜… イギリスそろそろメシマズ直さんと警察行きじゃない???????
好き、めっっちゃ好き。(急な告白) フライギだけど料理中はイギに振り回されてるフラさんが好きすぎるっ ちょっとツンデレ(?)だったりイギの事お前呼びしてるのも何か不仲っぽくて良い。