テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
彼は戸惑いながらも、大きな彼の人差し指をそっと私の頬に添えた。
「……泣かせたくて言ったわけじゃない。……ただ、お前に傷が残るのが……耐え難かっただけで」
不器用な手つきで涙を拭う彼の指先は、驚くほど優しかった。
見上げれば、そこには「氷の公爵」の仮面をかなぐり捨て
今にも自分まで泣き出しそうなほど困惑した男の顔があった。
「……シャーロット…が、謝った……っ?」
「…な、なんだよその言い草」
「だ、だって…!あの高慢ちきで、いつも偉そうに命令してきたり…ドSなシャーロットのことだから、泣いたことに怒るのかと思ったし…こんな風に慌てるなんて……想像できなかったから…っ、逆に気持ち悪いかも」
「……お前な…本当に俺の神経逆撫でする天才だな…?」
「シャ、シャーロットがいつもより怖い顔で怒るからでしょ!なのに、急にあんな優しくされたら、困惑する…っ」
「…っ、お前が、あんな風に泣くからだろ…いつも恐れもせずに口答えしてくるくせに」
照れたようにそっぽを向いた彼は、耳まで真っ赤になっていた。
「…し、仕方ないでしょ!あんなに怒鳴られたら怖くなるし…」
「……エルサ」
掠れた声で名前を呼ばれ、反射的に身構える。
「……お前なりの親切を無下にしたのは、悪かったと思ってる。だから、次からはできる限り言葉に気をつける……っ 」
それは、今まで聞いたどの言葉よりも切実で、痛々しい響きを含んでいた。
彼はそっと私を解放すると
今度は壊れ物を扱うような慎重さで、私の頭に手を置く。
「……その、今度また、お茶を入れてくれ」
「!うん……」
まるで幼子を宥めるような優しい手つきに、私の頑なだった心がゆっくりと解けていくのが分かった。
(……この人、私のことを……大切に想ってくれてるんだ)
普段はひねくれた言動ばかりだけど、こういう時は誰よりも必死になってくれる。
「……ありがと、シャーロット」
素直な気持ちを呟くと、彼は少し目を見開いて、それから安心したように小さく微笑んだ。
「……ふん、分かったらさっさと涙を拭け。マナー講師が見たら卒倒するぞ」
「もう!素直になったかと思ったらまたそうやってすぐに嫌味を言うんだから…!」
陽が傾き始めたダンスホールには、二人の静かな息遣いだけが聞こえている。
あれから暫くしてようやく落ち着いた私は、彼に促されてソファに腰掛けた。
まだ少し鼻の奥がツンとする気がする。
シャーロット様はどこか遠慮がちな様子で紅茶を淹れ直していて
先程までの鬼のような形相は嘘のようだった。
「ほら」
「え、私に?」
「他にいるのかよ」
カップを受け取ると、ふわりと薔薇の香りが立ち上る。
一口飲むと、温かさが喉を通って胸の奥までじんわり広がった。
「……おいしい」
思わず漏れた言葉に、シャーロット様は少しだけ唇の端を持ち上げた。
「当たり前だ。茶葉選びから淹れ方まで全て妥協してないからな、さっきの詫びだ」
「フフ……やっぱり素直じゃない」
「文句あるなら飲まなくていいんだぞ?」
「わーっ嘘!飲むからっ……!」
「ハッ」
軽口を叩き合いながらも、確かに感じる空気の変化。
普段は見えなかった彼の一面が少しずつ輪郭を帯びてきた気がする。
───例えばこんなふうに笑う顔とか。
その温もりに包まれながら
私は彼の俺様な言葉の裏に隠された、ひたむきな情愛にようやく気づき始めていた。