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殺し屋のバディは世界一イケメンです

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殺し屋のバディは世界一イケメンです

1 - 「はじめての任務は死の匂い」

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2025年06月07日

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──街の夜は、思ったより静かだった。


夜のビル街、人気のない路地裏を、少女は一人歩いていた。

歳は十七。制服ではないが、まだどこか幼さを残すその横顔に、街灯の明かりが冷たく影を落とす。


名は、栞(しおり)。

コードネーム0812。

この業界ではまだ“ひよっこ”と呼ばれている、新人の殺し屋だ。


手にはまだ使い慣れない拳銃。

内ポケットには一応、ナイフ。

でも──


「……ほんとに、こんなのでいいの?」


ふっと、栞は自分に問いかけた。

心臓が高鳴る。足が冷たくなる。吐き気すら覚えるこの状況に、まだ自分が“場違い”だと、体が教えてくる。


今日の任務は、監視と見張り。

といっても、現場での指示はすべてバディに任されている。

そのバディが──


「おい、余所見すんな。背後取られてんぞ」


──翠(すい)。

コードネーム0415。

この道では知らぬ者はいないと言われる、冷酷で容赦のないプロの殺し屋。


栞がびくりと肩をすくめて振り返ると、いつの間にか背後に立っていたその男が、ジッと彼女を見下ろしていた。

鋭い目つき。冷たい声。無駄に整った顔立ち。

そして、スーツのポケットに片手を突っ込んだまま、無愛想に吐き捨てる。


「今の3秒、お前もう死んでたな」


「……っ! す、すみません……!」


慌てて頭を下げる栞に、翠は興味なさそうに視線を外す。


「別に謝られても困る。俺はお前の保育士じゃねぇし、守るつもりもない」


そう言って、くるりと背を向けると、音もなく闇に消えていった。

その背中を、栞は何も言えずに見送った。


(……ひどい人だ)


けど、噂では聞いていた。

0415、翠。

冷たくて意地悪で、でも腕は確かで、命令は絶対。

一緒に任務に出たバディは、ほとんど数回で交代を申し出るという。


(わたしも、そうなっちゃうのかな……)


震える指で、ポケットの中の通信端末を握りしめた。

初任務──期待と不安の中で憧れていた世界が、思ったよりも冷たく、重く、息苦しい。


けれど、そんな思考もつかの間だった。


──パンッ!


乾いた銃声が、遠くで響いた。

次の瞬間、栞の肩がぐいと引かれ、壁際に押し付けられる。


「バカ、まだ状況わかってねぇのか!」


目の前には、さっきまで姿を消していた翠。

至近距離で見上げるその顔は、冷たい怒りをにじませながらも、何かを必死に押し殺しているようだった。


「動くな。いいから俺の言うことだけ聞け」


「……!」


何も言えずに頷くと、翠は銃を抜き、鋭く視線を走らせた。


「……ターゲットじゃねぇ。別組織の邪魔が入ったか」


短くそう呟くと、彼はすぐに動いた。

驚くほど静かに、そして正確に。

一発、二発──銃声と同時に、物陰にいた男たちが倒れる。


その動きはまさに“死神”。

迷いも、容赦もない。

「殺し屋」と呼ばれる所以が、目の前でまざまざと繰り広げられていた。


やがて、全てが静かになった。


血の匂い。倒れた人間の気配。

全身が凍るような感覚の中、栞の肩に、ひとつだけぽんと手が置かれる。


「お前が無駄に突っ込まなかったのは正解だ。まあ、ビビって動けなかっただけだろうけどな」


「……!」


ムカッとするけど、反論はできない。

でも、さっきの「手」は──なんだか、不思議とあたたかかった。


「次、余計なことしたらマジで捨てるからな。覚えとけ、新人」


ふいに、翠が振り返る。

街灯の下、淡く光に照らされたその横顔は、美しくて、冷たくて、それでもどこか寂しそうに見えた。


栞は、思わずその姿に見惚れてしまい──すぐに自分で頭を振った。


(何考えてんの、わたし……!)


そうして、任務初日。

“殺し屋”としての第一歩は、恐怖と衝撃と、少しの優しさから始まったのだった。


──この男と、バディを続けていくことになるなんて。

今の彼女には、まだ想像もついていない。

殺し屋のバディは世界一イケメンです

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