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「うぅ〜、寒っ……」
「もうすっかり冬だねぇ」
学校への通学路を、幼なじみの蓮と並んで歩く。
彼とは家も隣同士なので、毎朝どちらかが迎えに行って、一緒に行くことが当たり前になっている。そして偶然にも、今年はクラスも同じだ。
……幼なじみとはいえ、蓮はかなり整った顔立ちをしている。
友達からの一言で、それに気づいてしまったここ最近は、以前までは全く気にしていなかった周りの視線が気になって気になって、仕方がない。それに、一緒にいるとなんだかドキドキしてしまう。
「あ、そういえば。今日小テストあったよね」
視線を気にして俯いて歩く私をよそに、蓮は呑気にそんな話を投げかけてくる。
……それにしても、テスト?!
「え?嘘。全然知らないんだけど」
「あったはずだよ。確か……古典?」
うそだぁ、と絶望しながら、私はふと思ったことを言ってみる。
「……あんた授業中ずっと寝てるのに、よく覚えてるね」
「え、ずっと寝てる訳じゃないんだけど。てか、何。俺のこと見てるの?」
不意に立ち止まった蓮は、私の顔を覗き込んできた。急に目の前に現れた整った顔に、私は驚き慌てながら否定する。
「いやいや、そんなのじゃなくて!席が後ろの方だから、たまたま、見えてる、だけで……」
蓮の笑顔による圧で、だんだん声が小さくなっていってしまう。
「ふーん?そっか」
蓮はニヤッと笑いながらそう呟くと、さっきまでのようにコートのポケットに手を突っ込みながら歩き出す。
……頼むから、あんまり顔を覗き込んでこないで!
顔の火照りを感じながら、ずんずん進んでいく蓮の後を小走りで追いかける。蓮の少し後ろを歩き、改めてその背の高さを実感していると。
「あ」
またもや不意に立ち止まり、蓮は空を見上げた。危うく背中にぶつかりかけたけど、寸前で私も立ち止まることができた。
「ちょっと、急に立ち止まらないでよ……って、あ」
蓮のように空を見上げると、ちらちらと舞う白い粉が。
「……初雪だね」
「雪が降るなんて……どうりで寒いわけね」
「あれ?手袋は?」
ハーっと息をかけて手を擦り合わせている私の手元を見て、蓮はそう言った。
「ん?あー、今日は大丈夫かなって思って、置いて来ちゃった」
「雪も降ってきたのに、それじゃ寒いでしょ。ちょっと、来て」
蓮はそう言うと、私の手を握る。えっ、と声を出す間も抵抗する間も無く、蓮は私の手を握ったまま、コートのポケットに手を入れた。
「どう?寒くない?」
「えっ、いや、その……」
なんと返せばいいのか分からなくなり、言葉が詰まってしまう。すると蓮は、私の片方の手を見て納得したように頷いた。
「あー、片方出てるから寒さは変わらないか」
「え、まあ、うん……」
私の脳は、手が寒くないかとかそれどころじゃ無くなってしまった。
なに、急に!今までこんなことして来なかったのに……!
「ん?顔赤いけど……寒いの?」
私の気持ちなんて微塵も知らない彼は、私の顔を見てそう声をかけてくる。あんたがいつもと違うことしてくるから!と言いそうになったが、なんとか踏みとどまる。
「だ、大丈夫だから!そんなに、寒くない」
手を離そうにもポケットの中に入ってるため離すことが出来ない。
「そう?じゃ、行こっか」
蓮に促されるまま、私たちは再び歩き始めた。
すれ違う人たちが、同じポケットに手を入れている私たちを見て微笑んでいる。学校に近づくにつれ、同じ学校の生徒たちも増えていく。
まずい、これは勘違いされちゃう……
「ねぇ」
不意に蓮が私に声をかける。
「ん?」
「……気づかないんだね」
「え、何が?」
「俺、さっきからいつもと違うことしてるはずなんだけど」
蓮の言ってることが分からず、首を傾げる。
「うん、それは気づいてた、けど……?」
「俺、ちょっと前に言ったんだけどな。いつか、好きな人と繋いだ手をコートのポケットに入れて歩きたいって」
歩きながら当然のようにそう言う蓮。
え、ちょっと待って……
「蓮、それって……」
蓮の顔を見上げると、パチッと目が合う。
大きく深呼吸をした彼は、私の目をまっすぐに見つめて言った。
「……俺と、付き合ってくれない?」
急な告白にびっくりして、一瞬戸惑ったけれど。
最近気づいたあの感情や、今のこの胸の高鳴りは……きっとそういうことなんだろうな。
「……うん。よろしく、お願いします」
私が微笑みながらそう言うと、蓮は目を大きく見開く。
「マジ?……よっしゃあ!」
コートに入れていない方の手で大きなガッツポーズをする蓮。周りの人の目線が一斉に私たちに集まる。
「ちょ、蓮!声大きすぎ……!」
「あぁ、ごめんごめん。つい……」
私たちは目を合わせて笑い合う。
いつも通りの1日のはずが、お互いが素直に気持ちを伝えられた大切な日になった。
チラチラと舞う初雪が、私たちを祝ってくれているかのようで……手の寒さなんて、全く気にならなかった。