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アニオタちゃん
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るあ
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第7話 「女である意味」
朝。
ホークアイズの事務所には、いつもより早く三人が集まっていた。
机の上には大量の資料。
古い新聞。
組織に関する記録。
物怪家の家系図。
そして――
瑠衣の母親、美咲についての資料。
「……多すぎない?」
資料の山を見た瑠衣が呟く。
「必要なものだけだ」
仁が答える。
「いや、これだけあったら俺、一週間くらい資料に埋もれるぞ」
「なら早く読め」
「仁は容赦ないな!」
瑠衣が資料を手に取る。
「……えっと」
一枚目。
二枚目。
三枚目。
「……」
瑠衣の顔がどんどん険しくなる。
「どうした?」
杖道が尋ねる。
「俺の家系、ややこしすぎ」
「そこか」
「だって何代前とか出てくるじゃん!」
「重要なのはそこではない」
仁が一枚の資料を抜き取る。
「ここだ」
「何?」
瑠衣が覗き込む。
そこには――
物怪家は、かつてある組織と密接な関係にあった。
と書かれていた。
「……ノクターン」
瑠衣が呟く。
仁が頷く。
「そうだ」
「でも、俺の家が組織に関係してたなんて知らなかった」
「知らされていなかったんだろう」
「……」
瑠衣は資料を読む。
そこには、ある言葉が何度も出てきていた。
『継承』
「継承って何?」
「分からない」
仁が答える。
「だが、ノクターンの記録には何度も出てくる」
杖道が別の資料を開く。
「ここを見ろ」
「ん?」
瑠衣が覗く。
「……」
そこには。
『継承者は女性でなければならない』
という記述。
瑠衣の顔から笑顔が消えた。
「……俺」
仁が瑠衣を見る。
「おそらく、それがお前が女の子として育てられた理由だ」
「……」
「父親は、お前を『継承者』にするつもりだった」
瑠衣は何も言わない。
「だから……」
声が震える。
「女の子でいろって……」
「ああ」
「俺が男の子みたいにするのを嫌がったのも……」
「継承者の条件から外れるからだろう」
「……」
瑠衣は拳を握る。
「ふざけんな」
小さな声。
「俺の人生なのに」
仁が何も言わない。
瑠衣は続ける。
「俺が何着るかも」
「……」
「どう喋るかも」
「……」
「どう生きるかも」
拳が震える。
「全部、俺じゃなくて誰かが決めてたってこと?」
杖道が言う。
「その可能性が高い」
「……」
瑠衣は俯いた。
しばらく沈黙が続く。
そして。
「……俺、昔」
瑠衣が口を開く。
「女の子になりたいわけじゃなかった」
仁が顔を上げる。
「ただ」
瑠衣は自分の手を見る。
「怒られたくなかっただけ」
「……」
「怖かったから」
「……」
「だから、言われた通りにしてた」
瑠衣は苦笑する。
「髪も伸ばして」
「……」
「服も着て」
「……」
「笑って」
「……」
「『いい子』になって」
その言葉が落ちた。
事務所が静かになる。
「でもさ」
瑠衣が顔を上げる。
「今思うと」
少しだけ笑った。
「俺、結構頑張ってたんだな」
仁が言う。
「ああ」
「……」
「よくやったと思う」
瑠衣は目を丸くした。
「仁が褒めた……」
「悪いか」
「いや!」
瑠衣は笑う。
「もっと言って!」
「調子に乗るな」
「ひど!」
杖道が小さく笑う。
「いつもの瑠衣に戻ったな」
「俺はいつでも俺だって!」
そう言って笑った。
だが。
その直後。
一枚の資料が床に落ちた。
杖道が拾う。
「……これは」
仁が見る。
そこには、ノクターンの内部資料。
タイトルは――
『継承計画』
そして。
その対象者の名前。
物怪瑠衣
「……」
瑠衣の顔が固まる。
「俺の名前……」
仁が資料を読む。
「計画開始年齢、七歳」
瑠衣の目が見開かれる。
「七歳……」
母親がいなくなった年。
そして。
女の子として生きることを強制され始めた年。
「……全部」
瑠衣の声が震える。
「最初から決まってたんだ」
仁は資料を読み進める。
「いや」
「え?」
「一つおかしい」
「何?」
仁が指を指す。
「計画の開始日は、お前が七歳になった日より前だ」
「……」
「つまり」
杖道が言う。
「母親がいなくなる前から、この計画は存在していた」
瑠衣が息を呑む。
「じゃあ……」
「母親は計画を知っていた可能性が高い」
「……」
瑠衣は資料を握る。
「だから母さんは……」
仁が続ける。
「お前を逃がそうとした」
瑠衣の目から涙が落ちる。
「……母さん」
その時。
事務所の電話が鳴った。
三人が振り向く。
仁が受話器を取る。
「ホークアイズ」
『……仁か』
「誰だ」
『久しぶりだな』
仁の表情が変わる。
「……父親か」
瑠衣が振り向く。
電話の向こうから、男の声。
『瑠衣はいるか?』
仁は答えない。
『あの子に伝えろ』
「何を」
『お前が知ろうとしていることは、すべて間違っている』
仁の目が鋭くなる。
『瑠衣を女として育てたのは、私の意思だけではない』
「……」
『あの子の母親も、最初は同意していた』
「嘘だ」
瑠衣が叫ぶ。
仁が振り返る。
『本人に聞けばいい』
瑠衣は受話器を奪うように取った。
「父さん!」
『瑠衣』
「母さんは俺を守ろうとした!」
『そう思いたいか』
「……!」
『なら探してみろ』
「何を?」
『お前の母親を』
瑠衣が息を呑む。
『まだ生きている』
「……え?」
『美咲は生きている』
電話が切れた。
「……」
瑠衣は受話器を握ったまま動かない。
「……母さんが」
仁が近づく。
「本当かどうかは分からない」
「……」
「だが」
仁は資料を見る。
「確かめる価値はある」
瑠衣は頷く。
「……探そう」
杖道も立ち上がる。
「そうだな」
「母さんを探す」
瑠衣は涙を拭う。
「絶対に」
その日の夜。
瑠衣は一人でベランダにいた。
夜風が髪を揺らす。
「……母さん」
生きている。
もし本当に生きているなら。
聞きたいことがある。
どうしていなくなったのか。
なぜ自分を置いていったのか。
そして――
「俺のこと、どう思ってた?」
その時。
後ろから足音。
「瑠衣」
仁だった。
「仁?」
「寒いぞ」
「うん」
「中に入れ」
「……ねぇ、仁」
「何だ」
「母さんに会えたら」
「……」
「俺、怒ってもいいかな」
仁は少し考えた。
「お前がそうしたいなら」
「……そっか」
「ただ」
仁は瑠衣を見る。
「聞きたいことを聞けばいい」
「……」
「怒るのも、泣くのも、お前の自由だ」
瑠衣は少し笑う。
「……仁ってさ」
「何だ」
「昔の俺にも、そう言ってくれたらよかったのにな」
「会ってないだろ」
「そうだった!」
瑠衣が笑う。
「じゃあ今からでいい」
「……何が」
「俺が何しても怒らないでよ」
「内容による」
「そこは『いいよ』だろ!」
「無理だ」
「仁ー!」
事務所の中から杖道の声がする。
「二人とも、騒ぐなら中でやれ」
「おっさんまで!」
瑠衣が笑いながら戻ってくる。
その表情は。
少し前までとは違っていた。
過去を知ることは怖い。
母親に会うことも怖い。
父親の計画も怖い。
それでも。
今の瑠衣には。
一人ではないという確信があった。
翌朝。
仁が一枚の資料を机に置いた。
「見つかった」
瑠衣が駆け寄る。
「何が?」
「美咲の最後の目撃情報」
「……!」
「場所は?」
仁が地図を広げる。
「ここだ」
瑠衣が地図を見る。
「……この街」
杖道が言う。
「どうした?」
瑠衣は黙っていた。
そして。
「……俺」
顔を上げる。
「ここ、知ってる」
「本当か」
「うん」
瑠衣は指を震わせながら地図を指す。
「家を出た日」
「……」
「母さんに教えてもらった場所」
仁が尋ねる。
「何を?」
瑠衣は答えた。
「『もし困ったら、ここに行きなさい』って」
三人の間に沈黙が落ちる。
「……」
瑠衣は小さく笑った。
「母さん、最初から俺が逃げることを知ってたのかもしれない」
仁が地図を見る。
「行くぞ」
「うん!」
杖道が頷く。
「今度こそ、母親を見つける」
瑠衣は強く頷いた。
「……絶対に見つける」
しかし。
その場所で待っていたのは。
瑠衣が想像していた「母親」ではなかった。
そこに残されていた一枚の手紙。
宛名は――
『瑠衣へ』
そして。
その手紙の最初の一文には。
こう書かれていた。
『あなたのお父さんから、あなたを守ることができなくてごめんなさい』
瑠衣の手が震えた。
「……母さん」
そして。
手紙の最後には。
もう一つの名前が書かれていた。
――『司波仁』
「……え?」
仁が顔を上げる。
「俺の名前……?」
瑠衣は仁を見る。
そして。
三人は同時に気づいた。
この事件は。
瑠衣だけの過去ではない。
――仁の過去にも、繋がっていた。
第7話・終
――第8話へ続く。
コメント
1件
みぅです🤍🥀 第7話、重かった……。瑠衣の「女の子でいろ」って言われ続けた理由が、まさか《継承計画》のためだったなんて。自分の人生を誰かに決められてたって知った瞬間の、あの拳の震え、すごく伝わってきた。怒りと悲しみが混ざって、でも仁に「よくやった」って言われたときの一瞬の笑顔、あそこほんと好き。母親が生きてるって知って、さらに仁の名前も出てきて……もう一気読み確定だよ。続きが気になりすぎて落ち着かない🌙