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水瀬さんが転入してきてから、早2週間が経った。
彼女の人気は留まることを知らず、他クラス、他学年にまで浸透していった。
俺は水瀬さんと話したことはなく、特段話したいとも思わない。ただ何となく、不思議な人だなと思うだけだった。
「はぁ、俺も水瀬さんと話してみてぇー、、」
四限終了のチャイムがなり、昼休みに入った直後、蒼生がそう呟いた。
「?話しかければいいじゃん」
「いやいや流石のお前でも水瀬さんが如何に人気かくらいは知ってるだろ!?四六時中人に囲まれてるから話しかける機会なんてねぇよー、、」
「あぁ….確かに….」
この2週間、水瀬さんが一人で行動している所を見たことがない。特に女子人気が凄いので、お手洗いにさえ女子がついて行くという噂を耳にしたことがある。
「っつーか!このクラス、、いや学年で水瀬さんに興味無いのお前くらいだからな!」
「えっいやいや流石に…だってほらあそこのやつも水瀬さんが近くにいるのに見向きもせずに普通に本読んでるじゃん」
「…いや、あれは本の裏に隠したスマホの黒画面に反射した水瀬さんを見てる」
「……….ほんとだ。なんでバレないのあれ。」
「もはや職人技だよなもう。….てか、お前と水瀬さんがセットで名物って言われてんの知ってるか?」
「え、詳しく」
「なんかな、この学校を代表する美男美女っつーコトで勝手に裏でカップリングされて騒がれてんの!!」
「お、お互いに迷惑だし気まずいな….」
そう騒がれていることを、水瀬さん本人は知っているのだろうか。あれだけ多くの人と関わりがあったら耳にすることくらいはあるか。
「まぁ言わせとくしかないよな、反論したら逆に事実みたいになるしなぁ。」
「…お前は嫌じゃないの、?水瀬さんのこと好きなんじゃ….」
「ん?!いやいやいや俺ガチ恋じゃねぇよ?!可愛いから話してみたいってだけで!俺幼なじみにずっと片想いしてっから!!笑笑」
「え、そうなn」
「ちょっと蒼生!!!!」
俺が発言しかけたとき、教室後方のドアから髪を高い位置でひとつに括った、いかにも活発そうな女子が蒼生の名前を叫んだ。
「え、美穂?!なに!?」
「あんたまた自分の筆箱と私のやつ間違えてるでしょ!!!来てくれないから来ちゃったわよ!」
「うぇ?!…..がちだごめん!!!!まじごめん!!」
「なんで四限まで気づかないの?!何してたわけ?!!!」
「ま、漫画読んでました…全授業…..」
「もー。そんなことだとおもった!」
強めの語気とは裏腹に、けらけらとおかしそうに笑う彼女を見る蒼生は心底愛しそうな顔をしていた。
「悪い悪い、購買でなんか奢るわ」
「え!ラッキー!!いますぐ!」
「はいはい、ごめん星、ちょっと待ってて」
「あっすみませんお邪魔しちゃって、、」
2人の申し訳なさそうな顔がなんだか似ていて、俺は思わず吹き出した。
「ふっ、、全然いいって。行ってらっしゃい!」
「わあ、ほんと綺麗な顔….!!」
きらきらと目を輝かせて美穂さんが言う。
そして、俺が反応に困っているのに気づいた蒼生が無理やり美穂さんを引っ張って購買に連れて行った。
(….きっと蒼生の好きな幼なじみって美穂さんのことだな)
鈍感と言われる俺でも流石に気づく。あいつが戻ってきたら何から聞いてやろうか思考を巡らせていると、不意に風に当たりたくなったので屋上にいくことにした。
廊下で大勢の見知らぬ女子に追いかけられることが多々ある俺を見かねて、担任が屋上に行くための鍵を特別に俺に預けてくれているのだ。
俺には屋上でする日課があった。
できるだけバレないように、マスクをして俯きながら教室を出て階段を昇った。
前回退出する際閉めたはずの屋上への扉が開いていたので、一瞬不思議に思ったが、教員が閉め忘れたのだろうと納得した。
1歩踏み入ると、涼し気な風が髪や袖を揺らした。
何とも心地がいい。
柵付近まで行って、ピンク色の生地でつくられたクマのストラップをポケットから出して腰を下ろした。
幼稚園で『男の子なのに可愛いものが好き』と周りから異物扱いされていた俺に、同い年の男の子がくれたものだった。その子はすぐに引っ越してしまい、ソレ以来会話をすることはなかったが、「僕も同じだ、大丈夫だよ」と、言われた気がした。
俺はいじめられた経験から自分が異質であることを理解し、”普通”を演じるようになったが、
このストラップは俺のお守りであり、心の支えとして肌身離さずもっていた。
ぎゅーっと握りしめて、目を瞑る。
そうするとなんだか頭が整理されて、落ち着けるのだ。
「お腹痛いの?」
声を聞いた瞬間、背筋が凍った。
冷や汗が首筋に伝うのが分かる。鼓動は衣服越しでも見て取れるほど激しくなっている。
(み、見られた?だだ、誰、誰だ)
せめて、せめて教員であって欲しいと願った。
鍵は閉めたはずだし、入ってこられるのは教員くらいしかいないはずだ。
意を決して顔を上げると、そこには2週間前、我が校に転入してきたばかりの少女の姿があった。
「それ、大切なもの?」
全てを、見られてしまった。