TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
シェアするシェアする
報告する

早朝の濃霧のため、昼になっても飛行機のダイヤは乱れていた。

到着時刻を知らせるモニター前の人だかりの中に混じると、健太は今日のお客が乗っている便名を捜した。到着予定欄には「遅延」と書かれたままだった。

もやの中で輪郭の消えた太陽を背にしてベンチに座り、鞄から一冊のペーパーバックを取り出した。それはミンからもらったもので、平易な英語で書かれているということだった。しかし手にとってみたところ、健太の語学力ではところどころ飛ばし読みせざるを得ないのはやむを得まい。それでもストーリーがきちんと追えるように書かれている、これは筆者側の技量なのか。

とにかく、彼が分かった限りの筋はこうだ。

主人公は異国の大都会でドライブするうちに、薄霧の中で道を見失ってしまった。そのうち、ずるずるとスラム街に入ってしまう。なんとかそこから抜け出そうとエンジンを吹かすが、走っても走っても同じ所に出てしまう。主人公は車をバックさせたり私道に入ったり、曲がったことのない道でハンドルを切ったりと、思いつく限りを尽くしてみるが、どうしても外の世界に出ることができない。

途方に暮れて車を降り、道端で頭を抱えていたときだった。通りがかりの一人の少年と言葉を交わしたことは、主人公にとってありきたりな一日の中の、ほんの小さな出来事に過ぎなかった。

主人公は車を路上に置いたまま、気分転換をするために少年とその辺をぶらつくことにした。その街ならどこにでもある小道に出た。それは正確には、家と家の隙間と言った方が適切な、舗装のされてない土の、ひょろ長い雑草の生い茂る道だった。

ところがそこからまた別な道につながり、その道がまた別な道につながり、その道がまたまた別な道につながっていくうちに、まわりの街並みや人の様子が少しずつ変わりだしていることに主人公は気付きはじめた。今読んでいるのはここまでだ。

初めにミンと会った。そして、マチコやツヨシと会った。そして、今はツヨシの家に居候させてもらっている。健太は、ストーリーを自分自身に重ね合わせはじめた。

彼らと出会うまでは、こんな薄霧に拡散した光の中で小説を読むことなどは考えられなかった。時間はただ迷い悩むためだけにあって、答えは一向に見えてこなかった。

今でも答えはぼんやりしていて、はっきりと見えているわけではない。しかし、少なくとも陽光の温かさだけは感じている。

「健太」

彼はその声とほぼ同時に顔を上げた。正面に、旅行会社のロゴの入った白いポロシャツ姿の上司が立っていた。小説を畳んで立ち上がる。

上司は手を後ろに組んで窓の外を見た。健太は上司の後に続いた。朝はまるで見えなかった駐車場棟も、その先の航空会社のターミナルも見える。

「天気予報ではこれから晴れていくらしい。だったとしても、フライトスケジュールの乱れは今後もしばらく続くぞ。まず今夜は午前様を覚悟しておけ」

ミン達との約束が守れなくなることが決定した。健太ははい、と弱々しく答えた。

「彼女とのデートがあるのか知らんけど、面接のときはっきり言ったはずだ。この仕事は予定はあってないようなものだって」

「あの頃はただの脅しだと思ってました」

上司は振り返り、まず本はしまえといった。健太はハイと言って即座にポケットに入れた。行動が迅速でよろしいと言ったとき、上司はしばらくぶりの微笑を見せた。

この作品はいかがでしたか?

15

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚