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ヴィクターの店を出る頃には、夜になっていた。
街の灯りが薄暗く揺れ、空気には静かな冷たさが漂っている。
ポテトは空を見上げてから、そっとワトリーに声をかけた。
「ワトリー、今日はここで帰ろう。
先輩が3年前の事件についても調べてくれてるし、
ルーカスも捜索中だ。何かわかったらすぐに報告するよ」
ワトリーはしばらく考え込むように俯き、やがてゆっくりと頷いた。「…わかったのだ。」
しばしの沈黙が流れる中、ワトリーはカオリに向き直ると、真剣な眼差しで言葉を紡いだ。
「カオリ、君がいなかったら、ボクはここまで来られなかった。ボクのためにありがとうなのだ。」
カオリは少し戸惑いながらも、静かに微笑んで答えた。「ワトリー…ともだち…」
ワトリーも微笑み、互いに温かい抱擁を交わした。そばでその光景を見守っていたポテトは、思わず目を潤ませる。
三匹は一旦別れたが、ワトリーはまだ眠れそうにない様子で、もう一度事件の現場に足を運ぶことにした。
夜も更け、会場に戻ると、驚くほど多くの猫たちが外に集まっていた。
シオンの死を悼むファンたちが押し寄せ、街頭の下でひそひそと声を交わしている。
明かりがついたままの会場に、ワトリーは裏口から近づいた。
裏口には昼間も見かけた警備員のデイビスが立っている。ワトリーは軽く会釈をし、声をかけた。
「こんばんは。」
警備員が振り向き、柔らかく笑う。「ん? ああ、昼間の警察の方かい?」
ワトリーは小さく首を横に振り、「ボクは探偵のワトリーなのだ。警察と一緒に捜査しているのだ。」
警備員は驚きながらも、にっこりと返した。「そうか、遅くまでご苦労様だね。
外の猫たちはシオンさんが亡くなったって報道を見て、最後の姿を見たいと集まってきてしまったんだ。」
ワトリーは悲しげに呟いた。「シオンはもう…検視に回されているのだ。」
警備員デイビスは寂しそうに首を横に振る。「ファンの気持ちはわからないもんだよ。暴動でも起きなきゃいいけど。」
その時、突然、一匹のオス猫が群衆の中から飛び出し、裏口までやってきた
「シオンちゃんを出せ!! シオンちゃんが死んだなんて嘘だ!!」と叫びながら突進してきた。
「危ないのだ!」とワトリーがよろけた瞬間、警備のデイビスが見事な一本背負いで
その猫を投げ飛ばした。突進してきた猫は驚きの表情で「ち、チクショウ!」と叫び、
あわてて逃げ去っていった。
「すごいのだ…」ワトリーは圧倒されて声を漏らした。
デイビスは落ち着いて答えた。「まぁ、少しは格闘技もやってきたからね。
警察にも連絡して、群衆に解散を促すようにするよ。ワトリーくん、中に入るかい?」
「うん。お願いするのだ」
デイビスはカードキーを使い扉をあけた。
会場の中に入ると、まだ片付けの途中で、あちこちに乱れた機材や衣装が散らばっていた。
「まだ片付けが途中なのだ」
どうやらファンが押し寄せて作業が一時中断したらしい。
「そうなんだ。危ないからあまり歩き回らない方がいい」
そう言うとデイビスは重そうな機材をひょいっとどかした
ワトリーは、シオンの楽屋へ向かう足取りを急がせていた。彼の心の中には、
姿を消したルーカスに対する疑念が渦巻いていた。
ルーカスが楽屋にいたのはわずか1分という短い時間だったことだ。
その短時間で、彼が何をしたのかまではわからない。
だが、決定的な証拠がなければ、ルーカスを「犯猫」と断定することは難しい。
「ルーカスの目的は何だったのか?」ワトリーは思考を巡らせた。
カメラに映ることで、自分が犯猫だと思わせるための策略だったのだろうか。
しかし、何かが引っかかる。あの机の下の水だ。ルーカスが楽屋に入って、
用意していた水をシオンが見ていない隙に、机の下にこぼした。そして出て行った。
これなら1分程度でできるだろう。しかし、何のために?あの日は雨が降っていた。それと何か関係があるのか?
考え込んでいると、廊下の奥から清掃員のジムが観葉植物を持ち歩いてきた。ジムは明るい笑顔で近づいてきた。
「おや、ワトリーくん。遅くまでご苦労様だね」とジムが言った。
「ジム、まだ仕事していたの?」ワトリーは尋ねた。
「ああ、今日は忙しかったからね。最後のチェックをしていたんだ」とジムは答えた。
「そうなのか」とワトリーは頷いた。ジムは廊下の台の上に観葉植物を載せた。
「花瓶がないからね、これを持ってきたんだよ」とジムは続けた。
「ねぇジム、シオンの楽屋も掃除した?」
「もちろん、したよ。朝早くシオンさんが来るまえにね」とジムは言った。
「その時、楽屋に何か異変はなかった?例えば水が漏れていたり」とワトリーは問いかけた。
「水?そんなのが漏れていたら、すぐに気づくはずだけど」とジムは首をかしげた。
(やはりルーカスが机の下に水をこぼしたのだ)
「ありがとう、ジム。もう少しだけ調べてみのだ」
「ああ、早く捕まるといいね」
「うん」
そう言ってワトリーはその場を後にした。
そして警備室に向かいデイビスに話しかけた
ワトリーは周りを見渡し、
「デイビス、防犯カメラの映像は戻ってきたのだ?」
「まだ戻ってないけど、データーはあるよ」
「え!見せて欲しいのだ」
デイビスは頷きながら、少し疲れた様子で「いいよ」と言って、映像を再生した。
ワトリーは真剣な眼差しで画面に集中する。
「犯猫は捕まりそうかね?」とデイビスがぽつりと尋ねる。
ワトリーは小さく首を振り、「それが・・」(怪しいのは姿を消したルーカスなのだ.
でもどうやってシオンを??)まだ確信が持てないワトリーは「まだわからないのだ」と答えた
再び映像に目を戻す。
エイミーが楽屋に来るまでの20分間で、
犯猫はどのようにシオンを殺害したのか。防犯カメラには誰も映っていない。
いや、「映っていない」という事実がポイントなのかもしれない――。
ルーカスは楽屋で水をこぼしその後、防犯カメラにあえて自分の姿を残した。
その後姿を消すことで、わざと自分を疑わしい存在に仕立て上げる。
「だとすると、犯猫はルーカスではない可能性があるのだ」
もしルーカスがただの囮だとすると不良グループの中に隠れている可能性も捨てきれない。
そしてもう一つの謎、エイミーが来る20分間は楽屋は密室状態である。
犯猫はどのようにシオンを殺害したのか。
ワトリーは一息ついたあとエイミーが出ていく様子を巻き戻しながら見ていた
画面に映るエイミーの様子をじっと見つめながら、
その動き一つ一つに意味を探るように眉をひそめた。
「デイビス、エイミーはこの裏口から出たんだよね?」
「そうだよ。すごく慌てている様子だったね」
「その時、何か言っていなかった?」
デイビスは少し考えてから首を横に振る。
「いや、何も。すぐに裏口から走って出ていってしまったからね」
「裏口から出ていく姿も見られるのか?」
「これだよ」とデイビスが再生ボタンを押すと、映像には裏口のドアを勢いよく開け、
外へと飛び出していくエイミーの姿が映し出された。
ワトリーは画面に向かって呟くように「エイミー…」と彼女の名前を口にする。
頭の中ではヴィクターの言葉が繰り返し響いていた。もしヴィクターの言う通り、
シオンが亡くなる直前に「自分の子供を守ってほしい」とエイミーに託していたなら
彼女がこうして姿を消したのも説明がつく。だが、何かが違う気がするのだ。
映像に映るエイミーの動きには、ただの緊急事態を超えた何かが潜んでいるように感じられた。
「何かがおかしい…何か、違和感を感じるのだ」と、ワトリーは呟き、再び画面を凝視した。