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誰の声も、誰の気配も、もう感じなかった。

くるみは空を飛んでいた。

夜の風が頬を撫で、小さな黒い羽がひらひらと音もなく宙を舞う。

彼女の白い髪が風になびき、赤い瞳はまっすぐ、どこか遠くを見つめていた。

もう、誰にも会いたくなかった。

もう、誰の声も聞きたくなかった。

彼女の心には、ただ「離れたい」という一念しか残っていなかった。


「ここじゃない場所が欲しい。誰も来ない、誰にも見つからないところ…」

口に出せば、胸の奥がすっと冷えていく。

だが、それが確かに今の彼女の願いだった。


都会の灯りが消えていく。

人の気配が遠ざかっていく。

くるみは、ずっと西へ、西へと飛び続けた。

山を越え、森を越え、人工の明かりがすっかり見えなくなったその先に、彼女は静かな廃村の跡を見つけた。

屋根の落ちた家々。草に埋もれた道。電気も水も止まった場所。

「誰も、来ない。」

くるみはその中心に降り立ち、ぽつりと座り込んだ。

持っていた黒いフードを深くかぶる。

誰の目にも触れず、誰の名前も思い出さず、ただ一人。


シールドを展開する。

自分だけが安心できる、小さな泡のような空間。

彼女の個性、「シールド」がやさしく広がり、廃屋の中にひとつの静寂な結界を張った。

そこでくるみは、膝を抱えて目を閉じた。


外の世界は、もう彼女のものではない。

誰かの期待も、誰かの善意も、彼女にとっては足かせにしかならなかった。


「これでいいの。…これで、やっと、怖くない。」

けれど胸の奥で、何かがぽつんと鳴った。

それが寂しさなのか、未練なのか、くるみにはわからなかった。


夜がふけていく。

くるみは、誰の手も借りず、誰にも知られず、ただ自分のためだけに選んだ場所で、目を閉じた。

今、彼女は本当に――一人だった。

不登校の私はヒーロー科

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