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私
達は今まさにそれを味わっている。
「お嬢様……残念ながらもう無理かもしれませんね」
「諦めてはいけません! まだ何か方法があります!」
「いいえ、既に手遅れでしょう。先程から何度も蘇生を試みましたが無駄に終わりました。恐らくは魂が完全に消滅していると思われます」
「でも……それじゃあこの子達の気持ちは!? あの時何も出来なかった私達のせいでこの子は死んでしまったんですよ?」
「分かっています。でも今はこうするしか無いんです……!」
「何を言っているんだ君は?」
「え? あっ、いやその……独り言です。気にしないで下さい」
「そ、そうか。ならいいのだが……」
気を取り直して再び筆を走らせようとしたところで後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには白衣を着た長身の男の姿があった。
「どうも先生」
「ああ。今日も元気そうだね、少年」
彼はこの学校の保健医をしている男性教師だ。
歳はまだ三十代半ばぐらいに見えるが実際はもう少し上かもしれない。
いつも眠そうな目つきをしており、口調もどこか間延びしているせいで年齢不詳感が半端ない。
それでも生徒からはそれなりに慕われているようで、何かと相談事を受けている姿をよく見かける。
かくいう僕もこの人に何度か助けられたことがある。
「ところで君、またあの薬を使ったようだね」
「はい。おかげさまですっかり良くなりましたよ」
「それなら良かったけどあまり使いすぎるんじゃないわよ」
「……はい?」
沙耶架さんの言葉の意味がよく分からなかった。
「だってさっきのはちょっとおかしかったじゃない。いつものあんたとは違った感じがしたんだよねー」
「えっと、どういうことでしょうか?」
「ほら、前に言ってたでしょ? もう自分に嘘をつくのは止めようって。あの時のあんたがまさにそれだよ。今のあんたは何か別のものに乗っ取られているみたいに見えるんだけど気のせいかな?」
いや、別に僕は乗っ取られたつもりはないんですけどね。
ただこの力を使いたいと思った時に使うだけであって、それ以外の時にはなるべく使わないようにしているだけです。
でも確かに最近は以前に比べて力を乱用することが多くなっている気がしないでもないですね。
例えば今回のこれとか――。
「これは一体なんですか!? 誰か説明して下さい!」
突然目の前に現れた魔法陣によって異世界へと召喚された少女が叫ぶ。
その瞳には驚きと戸惑いの色がありありと見受け取れた。
「おお! 成功したぞ!」
「これで我々も魔王に対抗することが出来る!」
「素晴らしいわ! 本当に勇者を喚び出すことが出来たなんて!」
周囲では大勢の人が喜びの声を上げており、皆一様に笑顔を浮かべていた。
「ふむ、これが異世界転移というものなのかのう」
「―――つまり諦めたらそこで試合終了だということだ!」
「……………………」
「えっと……..?」
「はいそこ黙らない! 何か言いたいことがあるならはっきり言ってくれよ!」
ここは教室の中なのでもちろん声を落として話しているのだが、それでも僕のテンションの高さは異常だと言わざるを得ないかもしれない。
今現在、僕は生まれて初めて異性からの告白を受ける寸前という状況に置かれているからだ。
それも手紙ではなく直接口頭での愛の告白というやつだ。