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森でしばらく馬を走せると漸く日差しが真っ直ぐ通る、広い野に出ました。
久しぶりに景色が違うとこに出てボロミアが感動していると、すぐそこの山が見慣れたエレド・ニムライスであることがわかりました。
驚いて後ろを見ると遠くにエント川と見られる流れがあり、ここがアノリアンであることを裏付けました。
「森から行けるところで一番ミナス・ティリスに近いのがここです。ですが隠れるところもありませんので山にもう少し近づこうと思っています。と言ってもあなたの方がここらには詳しいでしょうが」
「いいや、そうだろうがあなたの方針で問題ないだろう。次の野営で全て確認する」
そう言って彼は彼女と共に馬を山沿いに向かって駆けさせました。
森を出たのが久しぶりなら馬も久しぶりなはずなのですが、彼女は全くそんな風ではなく、少し早めに走らせるボロミアにあっさり着いていきます。
お陰ですぐ見渡しが少しはマシな所に着いて、ボロミアは軽く彼女に渡された地図を見てみました。
どの道を取るのか詳しく書いてあり、とても見やすい物でアノリアンの真ん中からエレド・ニムライスの岩陰沿い、隠れながらもある程度早さを保てるコースでした。
この地を彼ほど慣れ親しんでいないにも関わらず最良の道が指されている事に感動しながら、野営できそうな場所を何個か彼女に告げ、進み具合と日を見ながら決めることにしました。
昼は馬を休ませた時に一緒に済ませ、三十マイルと少し進むと日没まじかになり、近くに目星を付けておいた野営地にすぐに移りました。
ボロミアが水を汲んでくるとシリウルは食事の用意をし始めた所でした。
ボロミアはさっと彼女の手から物を奪い、シリウルがあっという間に彼がさっさと拵えてしまいました。最初は少し不満げだったものの、いざ出来上がると彼女は笑顔で感心してくれて、ボロミアは満足そうに笑いました。
四日の少しかかってミンドルルイン山の麓に着くと、目前にさしたミナス・ティリスをボロミアは緊張した様子でした。
シリウルは早めに休憩を取らせてスールロスを見回りに行かせると、彼にこう話しかけました。
「何を緊張する事があるのです?」
ボロミアは少し間を置いてこう答えました。
「あの土地で色々な事があった、それが同時に頭を駆け巡って落ち着かないのだ」
「緊張なさるなら直前に、今は休み時間です。さてりんごはいかがですか?」
「……ああ、頂こう」
ボロミアは特に彼女の森のりんごがお気に入りの様で、毎回とても美味しそうに食べるのでした。
その日は三十五マイルほど進んで、野営地で食事が終わって片付けていると、ボロミアがシリウルの傍に座って話しかけました。
「私は自分がしてきた旅の全てをあなたにすっかり話していない。この様な怪我した理由もその旅にあるのだ」
「……それで構いませんが、それがどうかされましたか」
「少しだけでも聞いて欲しい」
「わかりました」
「……私は仲間を一人を少しの間でも裏切ってしまったんだ。私は強く後悔し、その罪滅ぼしで私は無謀な戦いに身を置いた。助けに来てくれた仲間が死んだように見えた私を埋葬してくれたのだ」
「……そうでしたか」
「私も死んだとばかり思って遺言まで残してしまっていたのだ。これで戻ったら笑いものだな」
「いいえ、皆さん飛ぶように喜ばれますよ」
「……そうかな」
「ボロミア、」
「ん?」
「……後悔している事柄で許されない罪はありません」
「ああ、そうかもしれない」
話が終わると、心が落ち着いたのか彼はため息を零しました。そして小さく寝息を立てて座ったまま眠り込んでしまいました。シリウルは彼の目にかかった髪をどかしてやると、額に口付けて彼女も傍らで眠りました。
その後最大限早く進んで1週間と一晩で彼らはミナス・ティリスの近くに着きました。ミナス・ティリスの周りには包囲網の跡があり、敵味方入り乱れた死屍が積もっていました。またローハンの旗がありボロミアは驚きました。
「……古の誓いを果たしてくれたのか」
旗はおびただしい量で、沢山のマークの騎士がここで散ったのが来て取れました。ボロミアは追悼の礼を取り、シリウルも同じようにして彼らの眠りが安らかである様に祈りました。
ミナス・ティリスの城門の前まで来ると、包囲戦の後だからか厳重に見張られていました。シリウルは城塞での勝手がわからず戸惑っていると、ボロミアが門番に声をかけてくれました。
「おーい!ゴンドールの者だ!ここを開けてくれ」
「ゴンドールの誰かね?今は正式な執政がまだ居ないので皆緊迫しているんだ。しかと申してくれ」
「では告げよう!私こそが、その亡くなった正式な執政の息子ボロミアである!疾くと開けよ!」
「嘘を申すな!ボロミア様は死なれた!ファラミア次期執政が、遺品である割れた角笛を持ち帰って来たのだ!」
「……どうするので?」
「いや大丈夫だ。お前は大将の顔も忘れたのか!開けられないのならば一度近くに来て見てみろ!!」
門番は仕方なく、一番低いタワーーに降りてくると、ボロミアの顔をしかと確認して酷く驚きました。
「なんと、確かにボロミア様の顔だ!闇の者が化けて居るのではあるまいな?」
「闇の者ならこの様な美しい毛色の馬を連れているわけがなかろう!お前は奴らの乗り物を見ていないのか!」
「むむ、そう言われるとたしかに。ではまことに帰ってこられたのか!なんという事だ、どうやって生きてきたのかわからんが民が湧いて喜ぶだろう!どうぞお入りになられよ!」
あれだけけしかけた割にはあっさり彼に言い負かされると、ボロミアの戻りを喜んで入れてくれました。警戒している、と言われたのに門番に立っていた者は彼一人でなぞなぞ遊びをやらされた気分でしたが、ともかくやっとボロミアは故郷に帰ることが出来たのでした。
シリウルはミナス・ティリスの中に入ると、さぞ驚きました。
何故ならボロミアが語っていた通り、またはそれ以上に美しかったからです。シリウルが恍惚とした表情で見渡していると、嬉しそうにボロミアは笑いました。
町の者の多くは戦に出ているのでしょうか、彼が居た時よりもだいぶ少なくなっていました。
彼はゴンドールの者にとっては見慣れない服を来ていたので、多くの民は気づきませんでしたが、一部の者がボロミアの名前を叫んだ事で皆が視線を彼に向けました。
彼は得意気に手を振ると馬を厩舎の者に任せて、誰か戦の次第を語れて、事情をすぐ理解してくれそうな人を探しました。するとベレゴンド卿の息子ベアギルが駆け寄ってくるのが見えました。
「ボロミア様!ぼくは夢を見てるんでしょうか!本当に帰って来たんですね」
「ああ、そうだ!心配なら触ってみて幽霊ではないことを確認するといい。我が弟ファラミアはいったいどこにいるのだ?」
「ファラミア様は療病院にいます。とにかく行けば所在がわかるかと」
「では行こう。ベレゴンドは戦に行ったのか?」
「はい、西軍は今黒門に居るって聞いてます。それにしても前は凄かったんですよ、いっせいにみんな歌いだして」
「ああ、少し聞こえた。長き戦いもここにて終結しよう。まだまだ仕事はあるがな」
その言葉に少年はにかかっと笑うと、ちょうど療院の前に着きました。
周りの者たちは家族でしょうか、ボロミアの姿を見て皆一様に同じような顔をして驚きました。特に気にもとめずぐんぐんと進んでいくと、侍従の者に声をかけました。
「都の今の執政ファラミアはどこか?」
「ファラミア様はちょうど先程、散歩に出て帰っていらした所なのです。入れば直ぐ会えましょう」
「それは良かった!」
そう言ってその必要もないのにシリウルの手を引いて、程よい速度で走ると扉をばっと勢いよく開けて中を見渡しました。
多くの患者が中に居て、大きく音を立てた彼を訝しげに見ては何か信じられないものを見たような顔をして、彼の挙動を伺いました。
その中からボロミア程ではないにしろ立派な男性が闇を背負ってゆっくり近づいてきて、光が当たるところに来るとその顔がボロミアによく似ている事にシリウルは気づきました。この男こそが、彼の弟ファラミアなのでした。
ファラミアはしかと兄の顔を見つめると、雄叫びをあげて彼に強く抱きつき、帰還を祝いました。
「私はあなたの遺品を船から回収したのです!まさかこんな時に戻ってこられるとは願っても見なかった!」
一度離れてそう叫ぶとまだ信じられないというように、また彼の肩を強く抱きました。ボロミアはその時に傷に当たってしまったのか、少し唸りつつも直ぐに彼を抱き締め返しました。
「私を助けてくださった彼女が、船だけはそのまま川に返したのだ!お前は恐らくそこから拾ったのだろう」
「成程そうでありましたか、私はあなたの身体だけは川に流されてしまったものと思っていました」
「私のような図体の者が、そう簡単に流される訳がなかろう。だがかくして、私は舞い戻りお前の前に立っている」
「ああ、何よりそれが喜ばしいことだ!王もお戻りになられればあなたの帰還をお喜びになられることでしょう」
「王とは?セオデン王のことか」
ボロミアが聞くと、悲しげな顔をした後に直ぐ彼の質問に答えました。
「いいえ、我らの王です!あなたが一緒に旅をしていらした野伏、アラゴルンですよ!彼は私とその他闇の息吹に毒された者たちを癒して、今は戦いに出ていたところなのです」
「そうか!では私の申し出通りアラゴルンは来てくれたのだな、そうして王となるというわけか!戻ってきたのならお前の事も含めて、たっぷりお礼しなければなるまいな」
と言ったところでシリウルが彼の肩を叩いて、注意を引きました。彼らが話している間に彼女は何やら院の者と話し込んでいたのです。
「ボロミア、再会の話を邪魔して悪いのですがここであなたも見て頂ける話がつきました。直ぐ見てもらいに行ってください」
彼女の傍らには老齢の身にも関わらず壮健さが伺える、この療院の院長が佇んでいました。
彼はボロミアに手招きして、大人しく彼が着いてくると空いているベットの方に座らせ、控えていた者に必要な物を持ってこさせました。
彼もまた手当ての御業が素晴らしく、速やかに傷の様子を把握しては適切な処理を施しました。幸い少し傷が開いてしまっら程度でそれ以上は酷くなっていないようでした。彼らは健常の者と同じくらい、偶にそれ以上の早さで馬を進めたので、それにしては軽いほどでした。
「まったく、あなたが伴っておられた方は素晴らしい腕をお持ちのようだ。対処が全て完璧に成されている」
彼は関心しながら、使った物のあと片付けを始めました。それを手伝いながらボロミアは彼の話を聞きました。
「私が見る前に、傷がどんな具合になっているか、どんな手当てと施されたかまでも仰って下さったのです。あなたの傷は命も危うい程でしたのに……私ではこれほどの傷をここまで治すにはひと月はかかるでしょう」
「彼女はエルフの血を引いている者なのだ、やることなすことの殆どが彼らの同じものを思い起こさせた。そして彼女は私に良く尽くしてくれた、何より私はそれのおかげだと思っている」
ボロミアがそう告げると、彼は同意するように微笑んで一礼して去っていきました。
シリウルはファラミアと何かを話している様子です、彼が起き上がって近づくとファラミアがお礼を言っている所でした。
「兄を助けて下さってありがとうございます。服も彼が持っている剣もきっとあなたが拵えた物なのでしょう?」
「それについては私が使うことはない代物ですから良いのです。彼も療院に暫く居ることになるでしょうから、あなたが見てきた事や聞いた事色々話してやって下さい。いつもお国の事が頭から離れない様子でしたから」
「それについては心配いらないな、あなたに頼まれなくても聞き出すつもりでいた」
「ボロミア、診察は終わったのですか?」
「ああ、直ぐに。彼女から紹介は受けたか?」
「いえ、今聞こうとしたところでした」
「なら私から言おう、こちらはシリウル殿見ての通り私の命の恩人だ。長い間私の面倒を見てくれて、国に帰る旅にも付き添ってくれた」
「レディ、改めてお礼を」
畳み掛けられたシリウルは戸惑いながらも頷いて、彼にこう答えました。
「散々彼にからお礼はして頂きましたから。あなたまでそうされることはないのですよ」
「私の気が済まないだけなのです、どうかお気になさらず」
「あなた方ご兄弟は揃って頑固者ですね、ボロミアもそう言って止まなかったのです」
彼女がそう言ってボロミアの方を見やると、声に出して大笑いしました。