テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
翌日。
二人は初めて出会った場所に来ていた。
けれど、心音にはもうほとんど何も見えない。
白。
黒。
灰色。
それだけ。
「……ここ」
心音が呟く。
「覚えてる?」
「もちろん」
Lapisが笑った。
「ここで心音と初めて会った」
「うん」
「懐かしいな」
「……うん」
心音は目を細める。
「らぴす」
「ん?」
「今、どんな顔してる?」
「……笑ってる」
「そっか」
「見えへん?」
「うん」
少しの沈黙。
Lapisは心音の顔を見つめた。
そして心の中で、初めて気づいた。
――俺は、心音に自分を見ていてほしかった。
ずっと。
自分だけを見てほしかった。
自分の隣にいてほしかった。
でも。
もしそれが心音の世界から光を奪っているのなら。
「……心音」
「なに?」
「俺のこと、忘れてええよ」
心音が黙る。
「……何言ってるの?」
「俺がおらんくても、幸せになって」
「嫌だ」
「心音」
「嫌だよ」
「俺は――」
Lapisの声が震える。
「心音の世界から、俺のせいで光を奪いたくない」
「……」
「だから……俺のことなんか忘れてええ」
「……らぴす」
「俺は、心音が幸せならそれでええから」
その瞬間。
Lapisの頬を、一筋の涙が伝った。
心音はそれを見ることができない。
でも。
「……俺も」
「え?」
「俺も、らぴすが幸せならそれでいい」
「……」
「本当は、ずっと怖かった」
心音は震える声で続ける。
「目が見えなくなるのが怖かった」
「……うん」
「でも、それ以上に怖かったのは……らぴすがいなくなることだった」
Lapisが心音の手を握る。
「だけど今は違う」
「……」
「らぴすが俺のことを忘れて幸せになれるなら、それでいい」
「心音……」
「目が見えなくなってもいい」
心音は笑った。
「らぴすを愛せた人生が、俺の全部だから」
その瞬間。
Lapisの涙が、地面に落ちる。
――ぽつ。
心音の世界から、最後の色が消える。
暗闇が来る。
そう思った。
けれど。
「……え?」
心音の目の前で。
何かが光った。
白黒だった世界に、ひとつの色が浮かぶ。
赤。
青。
黄色。
緑。
紫。
それらが混ざって。
今まで見たことのない、
鮮やかな虹色になる。
「……何、これ……」
Lapisの涙が、虹色に輝いていた。
「心音……?」
虹色の光が広がっていく。
Lapisの髪。
服。
空。
街。
木々。
すべてに色が戻っていく。
まるで世界そのものが、二人の愛を映し出しているようだった。
「……見える」
心音が呟く。
「らぴす……」
「……心音?」
「見えるよ」
涙が溢れる。
「らぴすが見える」
「……ほんま?」
「うん」
世界が色で満たされていく。
でも。
以前の色とは少し違う。
どこにも存在しなかった色が混ざっている。
二人にしか分からない。
二人の愛から生まれた色。
やがて光が落ち着く。
心音は何度も瞬きをした。
そして。
目の前で泣いているLapisの顔を、両手で包み込む。
「全部見えるよ」
「……」
「前よりずっと」
Lapisの瞳から、また涙が零れる。
「……よかった」
「うん」
「ほんまに……よかった」
心音は笑った。
「らぴす」
「ん?」
「前よりずっと、君が綺麗に見える」
「……っ」
Lapisは泣きながら笑った。
「なんやそれ……」
「本当だよ」
二人は手を握る。
もう、誰かを自分だけのものにしたいとは思わない。
相手を失いたくないから縛るのではなく。
相手が幸せであることを願う。
それでも一緒にいたい。
それが二人が見つけた、
本当の愛だった。
帰り道。
夕焼けが空いっぱいに広がっていた。以前ならただの橙色だったはずの空に、
赤。
青。
紫。
金色。
そして、あの虹色。
心音は空を見上げる。
「……綺麗」
「うん」
「らぴす」
「ん?」
「この世界って、こんなに色があったんだね」
Lapisは心音の手を握る。
「これからいっぱい見ればええ」
「……うん」
二人はゆっくり歩き出す。
もう、怖くない。
世界から色が消えることも。
愛することも。
隣にいることも。
だって二人は知っている。
愛は、誰かを自分のものにすることじゃない。
その人の幸せを願えること。
そして――
その愛が重なったとき。
世界には、二人だけの色が生まれる。
世界から色が消えた。
それでも、君だけは消えなかった。
そして今。
僕らの世界には、僕らにしか見えない色がある。
コメント
5件
あまりにも予想外の展開すぎてびっくり…!もう泣いた…😭
#御本人様とは一切関係ありません
もちもち
430
297
酸素 ꕀ ♥
50
81