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紅優
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谷崎爽奈
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眠狂四郎
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城を出る覚悟を決めたセラだが、まさかマルグルナまで旅装とその準備を整えたことに戸惑いをおぼえた。セラは、彼女を連れて行くつもりなどなかったのだから。
「私はハヅチ様より、セラ姫様のお世話をするよう命じられております。あなたが城を発つのでしたら、当然付き従います」
ハヅチ――ケイタの名前が出れば、そうなのだろう、とセラは思った。そう、彼女はライガネンの、この城のメイドではないのだ。
とはいえ。
「いいの? あなたにもライガネンでの生活があるのでしょう……?」
「ご心配なく。家庭があるわけではなく、一人身ですので。それに」
マルグルナは淡々と言った。
「私はハヅチ様の傭兵団『ウェントゥス』の一員ですから」
「危険な旅になる」
セラは真顔だった。マルグルナは微塵も表情が動かなかった。
「戦闘の心得はございます。御身をお守りすることも仕事のうちです。あと――」
お荷物をお持ちします――と冗談の欠片もない声で言えば、セラはなぜかおかしくなって微笑した。
「わかりました。よろしく、マルグルナ。ただし、あまり無理はしないで」
黒髪のメイドは目礼だけ返した。
「さて、それでは城を出てからだけれど――」
セラは窓の外を見やる。昼間の吹雪が嘘のように去っていた。雲の切れ目より夕日が差し込んでいる。……じきに夜になる。出発のタイミングとしてはあまりよくない気がしないでもない。
「やはり、ハヅチ様たちと合流されるのが第一かと」
アルゲナムを取り戻す――その時は、ケイタたちも一緒に戦う。そういう約束だった。マルグルナの意見は至極まっとうであり、セラも望んでいることだ。
だが……だけど――
「ライガネンは動かない」
セラは不安を口にする。
「戦力など無きに等しい。ケイタは取り戻そうと言ってくれたけど……」
文通の中でも、彼はライガネン王国が動かなかったとしても、セラを助けるから、と書いていた。その気持ちはとても嬉しくて、セラはその日、その手紙を抱いて寝てしまったが……本当にそうなってしまった今、ケイタや仲間たちに、さらに厳しい道へ引き込んでいるという罪悪感がこみ上げてくる。
「ハヅチ様がそうおっしゃったのであれば」
マルグルナは、セラの不安の影を取り除く。
「あの方は必ず成し遂げようとするでしょう。……それに、私を除くウェントゥスの方々は規格外の方ばかりですから、方法はあると思います」
「……そう、そうね」
苦難の旅を共にしてくれたかけがえのない人たち。皆なら――
「ありがとう、マルグルナ」
「……姫様?」
何故、礼を言われたかわからないという顔をするメイド。彼女でも不思議に思うことはあるようだ。当たり前といえば当たり前の言葉だったのだが、この人は普段から表情がなさ過ぎる。
「いまケイタたちはサンクトゥだったわね」
「はい、昨日の連絡では、傭兵ギルドだと思われます」
「街道にそってサンクトゥを目指せば、途中で合流できるかしら?」
その前の手紙の知らせでは、ギルドでの用件を済ませたら王都へ戻ると書いていた。
「こちらからも、王都を出ると伝書鷹を放ちます」
「お願い。すれ違って会えないなんて事態は避けたい」
セラはメイドに言うと、あと何か見落としがないか考える。押し黙るセラを見て、マルグルナは口を開いた。
「姫様、書き置きを残しておくべきだと存じますが」
「書き置き?」
「アルダクス王陛下に。城を出られるのでしょう?」
「直接会って挨拶を――」
「それはおやめになられたほうが」
マルグルナは告げた。
「陛下は、姫様が城の外に出ないよう、兵たちに命令を発しているのを確認しました。おそらく単身アルゲナムへ戻る、もしくはガナンスベルグへ行こうとされるのをお止めになるつもりだと思います」
「ちょっと待って――」
セラは目を見開いた。
「ひょっとして門から出ようとすれば、止められるということ?」
「そうなります」
平然とマルグルナは頷いた。なんてこと――セラは顔を強張らせた。
「秘密裏に抜け出す必要があるということね。……ああ、これから出ようという時に」
城の兵たちを欺き、彼らに見つからないように脱出する手立てを考えなければならないとは。幸先が悪い――
「それならご心配には及びません」
マルグルナは断言する。
「この城の秘密の抜け道を把握しました。そこまでたどり着ければ、門を使わずとも城の外、王都外へと出ることができます」
「え――?」
セラは絶句する。
「どうしてそれを、あなたが……?」
「身辺警護におきまして、下調べと脱出経路の確保は基本中の基本です」
黒髪のメイドは、さも何でもないように言い切った。――いやいや、待て待て待て。秘密の抜け道といったが、そういうのはおそらく王族くらいしか知らないものだろう。
それを自力で探し当てたことは驚嘆に値する。しかし仮にも他国とはいえ王族出身のセラにとっては、そういう秘密を探り出されたことについて、微妙な気持ちになった。……それでも。
「いまは、ありがたいというべきね」
アルダクス王は、かつての友の娘であるセラを守ろうとしての止めようというのだろう。だがここで足止めされるわけにはいかないのだ。
・ ・ ・
セラが秘密の抜け道を使ってライガネン王都から脱出を図った翌日の昼。
厚い雲の間から日の光がこぼれる空の下、緑を失い、雪で白くなった木々に囲まれた街道。
黒い虎のような魔獣が咆哮をあげ、飛び掛る。その先にいたのは黒髪短髪の大柄の少女――キアハだった。
髪の間から覗く右目で敵を見据えた彼女は、金棒を握る右手に力を込めて魔獣の顔面にそれを叩き込んだ。鋼鉄の柱に勢いよくぶつかるが如く、黒い魔獣はその一撃で顔を潰され絶命した。
キアハはひと息をつく。そして背後にいるアルフォンソと彼が牽く馬車の無事を確認して安堵する。
「キアハ、無事か?」
慧太の声――ウェントゥス団長である彼にキアハは頷き返した。
その慧太は、雪を血に染め倒れ伏す黒装束の戦士の死体の傍らに立っていた。
黒装束の盗賊が現れると聞いた時、もしや邪神教団かと思ったが、見ればそれとはまったく別の者だろうことはひと目見ればわかった。
「どうだ?」
確認するように聞けば、片膝をついて死体を確認していたユウラが口を開いた。
「このあたりの人種ではありませんね。肌が白い」
黒い頭巾の下から出てきたのは、このあたりの白人種に比べてもさらに肌が白かった。
「言葉も北方言語だったように思えます」
北方語――慧太は頭の中に浮かんだそれを呟いた。
「ガナンスベルグ?」
「断定はできません」
ユウラは首を横に振る。
「とはいえ、ただの盗賊にしては統率がとれ、何より手だれ過ぎますね」
「専門の戦闘訓練を受けてる」
狐人のリアナが呟くように言った。暗殺者である彼女は無表情ながら、その口ぶりは確信めいている。
「そんな者たちがここにいる意味」
ユウラは首を捻る。
「集落間の交通の妨害、あるいは何者かがライガネン国内の治安悪化を図っている……?」
「何のために?」
慧太は聞くが、青髪の魔術師は肩をすくめた。
「ライガネン王国内で問題を起こし、その目を引きつける。もしくは街道などを危険にすることでその移動に護衛をつけさせる。……春に戦争を控えているこの国で、余計なところで兵を割かれるのは頭の痛い問題になるでしょうね」
「この連中は、他にもいると思うか?」
「いる」
リアナが割り込んだ。その狐耳をぴくりと動かす。
「……こちらの様子を窺っている」
コメント
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おおおっ、ついにセラが城を脱出!しかもマルグルナが一緒って心強い〜!彼女の「秘密の抜け道把握しました」発言、マジ職人すぎて笑ったw ていうか王族しか知らなさそうな道を自力で探し当てるって何者なんだ…😳 そして街道での戦闘パートも熱い!慧太たちもガナンスベルグの影を感じさせる敵と戦ってて、これから合流したらどうなるんだろう…続きが気になりすぎる!✨