テラーノベル
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楽屋は、まるで時間が止まったかのような、絶望的な沈黙に包まれていた。副社長の「後で話を聞こうか」という言葉が、呪いのように四人の頭上で反響している。もう、終わりだ。誰もがそう思った。
その、重苦しい空気を切り裂くように、ガチャリ、と楽屋のドアが開いた。
そこに立っていたのは、次の仕事の準備を終えた、岩本だった。
「…ひかる」
宮舘が、か細い声でその名を呼ぶ。
岩本は、部屋に充満する異常な空気と、魂が抜けたようになっている四人の顔を見て、一瞬で全てを察した。向井が、涙目でこれまでの経緯をかいつまんで話す。副社長が出て行った、と聞いた瞬間、岩本の表情が険しくなった。
そして、岩本は一言だけ、こう言った。
「…お前ら、ここで待ってろ」
それだけを言い残すと、岩本は踵を返し、迷いのない足取りで楽屋を出ていった。向かう先は、一つしかない。
渡辺が、はっとしたように顔を上げる。
「おい、まさか照…!」
岩本が何をするつもりなのかを理解し、止めようと立ち上がろうとしたが、宮舘がその肩を静かに押さえた。
「…今は、照を信じよう」
その言葉に、渡辺は唇を噛み締め、再びソファに深く座り込んだ。
数十分後。
それは、四人にとって、永遠よりも長く感じられる時間だった。
静かに、楽屋のドアが開く。戻ってきた岩本は、いつもの落ち着いた表情だった。
「…照、副社長は…」
おそるおそる、宮舘が問いかける。
岩本は、四人の顔を順番に見回すと、静かに口を開いた。
「…今回は、不問になった」
「「「「え…!?」」」」
信じられない、という表情で固まる四人。岩本は、続けた。
「俺から、今回の件は俺の監督不行き届きだって、全部話して、頭下げてきた。副社長も、『リーダーがそこまで言うなら』って…。ただ…」
岩本は、そこで一度言葉を切り、渡辺と宮舘の目を、まっすぐに見つめた。
「『次はない』そうだ」
その言葉の重みに、二人は深く、深く、頭を垂れることしかできなかった。自分たちの起こした火事を、リーダーが、たった一人で消し止めてくれたのだ。
「…照、ごめん…」
「…本当に、すまない」
絞り出すような二人の謝罪に、岩本は静かに首を振った。
「俺に謝るな。…お前らが、話すべき相手は、お互いだろ」
その言葉を残し、岩本は「俺、飲み物買ってくる」と、少しだけ気まずそうに部屋を出ていった。リーダーとしての役目を果たした後の、彼なりの優しさだった。
残された楽屋には、まだ少しだけ気まずいけれど、先ほどまでの絶望的な空気とは違う、静かな時間が流れていた。
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