結
額に冷たいものが乗せられ、ダーマーは目を覚ました。狭く明るい室内に勉強机がひとつ。柔らかな敷布団に寝かされ、遠くからトントンと味噌汁を作る音が聞こえる。
揺らぐ視界にカラフルなアロハシャツが映りこむ。
「よーお、死に損ない。よく現世に戻れたもんだぜ」
「……つぼ浦?」
「おう、久しぶりだな」
「ここは、どこだ」
「実家。俺の」
大変だったんだぜ、とつぼ浦は両手を広げた。
「あれから一週間だ。手術も終わって、いまは自宅療養中」
「ほぉ、それは手間をかけた」
「マ折角だからゆっくりしてけよ」
「……いや、すぐに帰るさ」
「なんでだ」
「私はギャングだぞ。カタギに迷惑をかける訳にはいかない」
「……居てくれって頼んでもだめか? まだ、その、何話したらいいのか分かんねえんだよ」
「ハハハハ!」
「笑うな!」
ダーマーは口に拳を当てて、笑いを吐き出すようにケンケン咳をした。
「ハァ、ハァー。なに、口のうまいお前のことだ、大丈夫」
「無責任なセリフだぜ。なんでそんなに急ぐんだよ」
「ホームシックさ。長期旅行にありがちな」
「……」
そう言われればつぼ浦は黙るしかない。ダーマーの故郷を思う強さも、帰りたいという気持ちも痛いほど理解できた。
「私は先に帰る。お前も、いつか帰ってくるだろう?」
「まあ、そうだな」
「ロスサントスで待ってる」
「おう。公務執行妨害の指名手配だったなそういえば。忘れず切りに行くぜ」
「楽しみにしていよう。次に会うのは裁判所かもなぁ!」
「さっさと帰りな放浪オジイチャン!」
ダーマーはケラケラ笑って、荷造りを始めた。つぼ浦は父の車を借りに行く。
蝉が溢れんばかりに鳴いている。彩度の高い青空にどこまでも真っ白な入道雲が突き抜けていく。夏。二人は、故郷に帰る。
コメント
6件
すべて見させて頂きました! 本当に何から言えばいいか分からないくらい素晴らしいです…!
完結おめでとうございます!全話、情景描写や2人の心情が鮮やかに書かれており、1本の映画を見たような満足感でした。何度も何度も見返したくなる大好きな作品です。 2人のなんとも言えない心地の良い敵対関係が大好きなので、様々な形でぶつかったり共闘したりするシーンが最高でした。私の語彙では好きな所が語りきれないほどに…!良かったです…!これからもう1周します…!!!
完結おめでとう御座います、故郷を想う2人の話、とても良かったです…心無きの周りと生きてきたつぼ浦と、MOZUという家族ができたヴァンさん… 最初のお祭りで「ボス」って呼ばれてるの可愛すぎましたwなんだかんだ2人とも子供達から人気高そう…