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リーファンの世界には隆二しかいなかった、咄嗟にリーファンが隆二の逞しい胸にすがったので、手に持っていたビワがバラバラこぼれ落ちた
何気ないしぐさで隆二が脚を降ろしたので、リーファンはズルズルと隆二の体を滑って地面に足を下ろした
世界が・・・宇宙が突然動きを止め・・・隆二とリーファンの二人だけがこの世にいるかの様だった
隆二がウエストを抱えてくれていたので、肩にかけている腕をリーファンは離さなければならず、それが残念だった
彼と一緒に過ごしてもう4日・・・38歳だと言う彼の心はとても大人で計り知れないし、その表情から何も読み取れないけどリーファンの心は彼への恋心で高なった
「髪が・・・」
「え?」
ぼーっと隆二に見とれていると、彼のシャツの第二ボタンにひっかかっているリーファンの髪の事を言われているのに気が付いた
「痛いかい?すぐほどくよ」
「この髪切ろうかと思っているの」
「ええ?こんなに綺麗なのに?ダメだよ!」
隆二のキツイ声にリーファンは驚いた
「どうして?手入れが簡単だし、洗うのも楽になるわ」
隆二はリーファンの髪を一束取って言った
「素敵な髪じゃないか・・・シルクみたいな手触りだ・・・」
リーファンの心がとても温かくなった、そんな風に男性に自分の一部を褒められたのは初めだ、もっとも彼女の周りの男性と言えば、父の弟子のハオやハオの家族と、夏休みが終わったらふもとの高校の乱暴な同級生の男の子しかいないけど・・・
途端に、リーファンはなぜか抱き上げられている自分が恥ずかしくなった
男の人にこんな気持ちを抱いたのは初めて・・・
・:.。.・:.。.
「ご馳走様、とても美味しかったよ」
「僕も、もうお腹いっぱいだ、ご馳走様」
毎晩リーファンの手料理を父と隆二が美味しそうに食べてくれている
最近のリーファンにとって愛しい人達にご飯を食べさせるのが、これほど楽しいとは思わなかった、創作に夢中な父を放っておくと、何日も食事をしない、必然的に家事はリーファンの仕事になり、今では随分腕を上げている
チキンの煮物にタイ米をつけて食べるカレー風味の料理を隆二は「旨い、旨い」とおかわりまでした
そして食事が終わるとリーファンのお茶で父と隆二は水タバコをふかし中庭で色々話し込む・・・そんな時はリーファンは口を挟まずゆったりと二人の話を心地よく聞いていた
そんなある夜・・・いつもの様に夕食がすむと宗次郎はふらりと立ち上がった
「やれやれ・・・今夜は少し疲れたから私は先に休ませてもらうよ・・・」
隆二はさっさと寝室に引き上げる宗次郎と食事の片づけをしているリーファンを交互に見つめた
「お父さんはあんな風にいつも夜、君を一人にするの?」
「まぁ!隆二!男性がそんな事をする必要はないのよ!」
「いつの時代だよ、あんな旨いモノを食わせてもらったんだ、片付けぐらい手伝わせてよ」
リーファンは驚きの目で彼女の洗った皿を布巾で拭いている隆二を見つめた
―父は・・・一度もキッチンになんか立った事がないわ・・・―
不思議な気持ちで隆二を見つめる、スッキリとした顎の横顔と、ダークブラックの瞳には知性が輝いていた、思わず、うっとりといつまでも彼の顔を見てしまいそうになった
父はいない・・・この広い家に今は隆二と二人っきり・・・
意識し過ぎたのか、リーファンは頬が熱くなるのを感じて、忙しくお皿を洗うフリをした