おきて
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 おい!梨奈!!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ──────ハッ!!
 
 
 
 
 「どうしたの?さっきからぼーっとしてるけど笑」
 『あ、うん大丈夫、ごめん柊弥』
 ある夏の日、日差しが強くとても天気が良かった
 部活も引退に差し掛かり、最後の大会となる部活も多くあった
 
 「しっかりしろよ〜、明日最後の大会なんだろ?」
 『うん、これで負けたら終わり』
 「頑張れよぉ〜」
 『私が勝ったら氷菓、奢って』
 「え?! 」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「まさかほんとに勝つなんて⋯」
 かき氷片手に柊弥はそう言った
 『勝てないと思ってたの?』
 梨奈もシャクシャクと音を立てながら氷菓を食べる
 「いーや、梨奈なら勝てると思ってたよ」
 『⋯ふーん 』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ずっと君の声が聞きたい
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ずっと一緒にいたかった
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ☁︎.*・゚┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈゚・*.︎︎☁︎︎︎︎
 
 
 
 
 
 
 
 
 「よ!梨奈、一緒に帰ろうぜ」
 軽いノリで柊弥が誘う。
 
 
 今日も暑く、氷菓など、冷たいものが食べたくなる日だった。
 
 
 『氷菓、奢ってくれたらいいよ』
 「なに?!そうきたか⋯」
 『で?どうする?』
 柊弥は少し悩むと
 「しゃーねーな!奢るよ、奢る」
 と仕方がないといった感じで言った。
 
 『やったね、ごち〜』
 「次はお前が奢れ」
 『へーい』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 シャクシャク
 「うめぇー!!!」
 
 そう言いながら、柊弥は美味しそうにかき氷を食べる
 
 『ここの氷菓、美味しいんだよね〜』
 
 そう言いながら、梨奈も美味しそうに氷菓を食べていた
 
 「さすが氷菓マニア」
 『なんとでも言え』
 
 
 
 
 そんな会話の最中
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ポツポツ
 
 
 
 「あ?」    『ん?』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ザーーーー
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 いきなり雨が降ってきた
 もちろん傘は持っていない
 朝はとても晴れていたのだから
 
 
 
 「やべぇ!!!雨だ!!!」
 『いきなりだね?!』
 「走るぞ!!」
 『ぇぇぇ!?』
 
 
 タッタッタッ
『あはは!!!』
梨奈が突然笑い出す
「ちょっ⋯?!何笑ってんだよぉぉぉぉ!!」
いきなり笑い出した梨奈に驚きを隠せない
 とうとう暑さで狂ったかと言いたげな目で梨奈を見る
『何〜?!雨の音で聞こえないわ!!!』
「だから!!!なんで笑ってんだよ!!」
『いや、なんか面白くって!!』
その返答自体おかしくて
「なんだそれ⋯⋯⋯あっははは!!!」
2人は走りながら笑いあった
どんなときでも君となら
ほんとに楽しいって思えた
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 あーあ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 この時間がずっと続けば良かったのにね
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ごめん、梨奈
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 お前は、起きなきゃダメだ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 大丈夫!見えなくたってそばにいるから
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 さあ、おきて
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ──────ハッ!!
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ピッ⋯ピッ⋯ピッ⋯
 心電図の音が鳴り響く
 きれいなドアが開けられて、看護師さんが入ってきた
 【梨奈さーん、様子を見に⋯!!】
 梨奈を見た看護師が豆鉄砲を食らった鳩のような顔をする
 『⋯⋯こ⋯⋯⋯こ⋯⋯ど⋯⋯』
 梨奈は状況が分からないまま、なんとか声を出す
 【梨奈さん!!意識が戻ったんですね!!!】
 【ちょっと待っててくださいね、すぐ先生が来ますからね】
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 しばらくして、梨奈が落ち着いてから医者が話し始めた
 〖梨奈さん、どこか痛いところなどありますか〗
 『いえ、少しだるいくらいです』
 〖そうですか、頭を打っているので、一応検査をしておきましょう〗
 『はい⋯』
 梨奈は状況がよく分かっていなかった
 なぜ自分が病院にいるのかすらも、分からなかった
 
 
 『あの』
 〖どうかしましたか?〗
 『私、まだ状況が呑み込めてなくて⋯』
 『なんで私、病院にいるんですか?』
 〖⋯覚えていませんか?〗
 『⋯?』
 梨奈は心底分からないといった顔で医者を見る
 〖⋯あなたは⋯〗
 と医者が言ったところでドアがバンッと開けられた
 
 
 
 
 
 ドアの方を見ると、両親が立っていた
 『お母さん、お父さん』
 梨奈がそう言うと、2人は泣きながら梨奈を抱きしめた
 《梨奈⋯!!良かった起きて⋯ほんとに⋯!!》
 〈あぁ⋯ほんとに良かった⋯!!〉
 『ちょっ⋯!!2人とも痛いって』
 《あぁ⋯ごめんね、嬉しくてつい⋯》
 母は涙を拭いながら梨奈にそう言った
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 『ねぇ、お母さん』
 《ん?なに?》
 『私、なんで病院にいるの?』
 《⋯⋯え?》
 母が驚いたように聞き返した
 《なんでって⋯覚えていないの?》
 『うん、もう何が何だか⋯』
 《⋯⋯》
 すると、母は困ったような、何かを言いあぐねているような反応をした
 『お母さん、教えて、何があったの?』
 《⋯⋯⋯》
 『⋯お父さん、教えて』
 父は迷ったように顔を顰めたが、やがて話し始めた
 〈⋯⋯梨奈は交通事故に遭ったんだ、その時に頭をぶつけて、1週間くらい眠っていたんだ〉
 『事故?』
 〈そうだ、飲酒運転でなトラックが突っ込んできたんだよ〉
 『⋯⋯』
 話していくうちに、当時の記憶が思い出されていく
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 その日も暑くて、この前の約束通り
その日は梨奈が氷菓を奢っていた
 柊弥と二人、氷菓片手に話しながら帰っていた
 
 
 すると、突然トラックが突っ込んできた
 私は恐怖で動けなかった
 
 でも、柊弥に背中を押されて⋯⋯
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 あれ?
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 『⋯⋯⋯ね、ねぇ⋯⋯ねぇねぇ⋯』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 『柊弥は⋯?』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 梨奈は震える声で両親に尋ねた
 2人とも黙っていた
 その反応から悪い予感しかしなかった
 
 
 
 でも、信じたくなくて
 違うって否定したくて
 
 
 『⋯先⋯生、柊弥は?』
 『私と一緒にいた⋯男の子は?どうなったんですか?』
 
 
 鼓動が、呼吸が、早くなる
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 〖⋯⋯残念ながら⋯⋯〗
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?』
 目の前が真っ暗になった
 
 
 『⋯嘘⋯嘘嘘嘘ッ⋯!!!』
 〖⋯⋯〗〖運ばれてきた時には⋯もう⋯〗
 
 『そ⋯そんなッ⋯こんなのって⋯ッ』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 『あぁ⋯あぁぁぁぁぁあ!!! 』
涙がボロボロと溢れ出す
なんで、どうしてばかりが頭に浮かぶ
どうすることもできなくて
梨奈は声を上げて泣いた
 両親は梨奈を慰めるように、強くきつく抱きしめた
 
 
 
 
 
 
 ______________________________
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 退院してから1週間
 両手に氷菓を持ち
 梨奈は柊弥の墓の前にいた
 『⋯柊弥、来たよ⋯』
 そう言いながら、梨奈はゆっくりしゃがむ
 『柊弥が庇ってくれたから、私生きてるよ』
 『一時危なかったらしいけど⋯もしかして、助けてくれた?』
 『⋯⋯分かんないけど、としそうだったら⋯助けてくれてありがとう』
 だんだん声が震えていく
 梨奈は切り替えるように、お供え物を置いていく
 『ほい、氷菓、めっちゃ美味しいとこの』
 『この氷菓の話したら、いつか食べてみたいって言ってたでしょ?本当は誕プレにって思っていたんだけどね⋯』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ポタ   ポタ
『⋯あれ?』
 梨奈の目から涙がこぼれる
 これまでの思い出が蘇る
 
 
 『⋯うッ⋯ッやっぱり⋯』
 『声が聞きたいよ⋯話がしたいよ⋯』
 『まだ⋯⋯まだ好きって言えてないよ⋯』
 『なんで⋯⋯なんで⋯⋯!!!』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 ようやく落ち着いて、梨奈がまた話し始めた
 『⋯⋯私は柊弥のことが大好きでした』
 『テンション高めで、おっちょこちょい、面倒くさがりだけど、誰よりも優しくて、どんなことでも、全力で頑張る姿が好きだった』
 『⋯⋯ねぇ、柊弥⋯君はどう思っていたのかな』
 梨奈がそっと話しかける
 
 
 『私と同じ気持ちだったら嬉しいな』
 
 
 『⋯土産話楽しみにしてて』
 梨奈はスッ…と立ち上がる
 『それじゃあ、そろそろ行くよ』
 『また、氷菓持ってくるね、次はどんなのがいいかな?』
 『⋯しばらく私が奢るのか〜、ま、次に来る時のお楽しみだね』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 『じゃあ、また』
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 「ごち〜!あんま早く来ちゃダメだからな?」
「それと⋯⋯俺も、お前と同じ気持ちだったぜ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 バッ
 柊弥の声が聞こえた気がして、梨奈は咄嗟に振り向いた
 『⋯⋯⋯ 』
当然誰もいるわけない
でも
梨奈にはそれだけで十分だった
見ててね
コメント
6件
わっ、めちゃいい……✨最高〜!!
切ないけどめっちゃいい 來ちゃんの作品読めて嬉しいです