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広さにして十五メートル四方程度の庭。
荒れた地面には不格好な木のベンチが置かれ
壁際に設置された壊れかけの鉢植えには、萎れた名も知らぬ植物が逞しく根を張っていた。
そして──その中心に、時間が止まったかのような異空間があった。
庭の真ん中に置かれた木製の椅子とテーブル。
風化し朽ちかけているはずなのに、それらはまるで昨日設置されたかのように清潔で
埃一つ積もっていない。
椅子の脚が泥で汚れていないのも、この環境下では異常なほどに不自然だった。
さらに奇妙だったのは、周囲の荒廃とは裏腹に
花壇の一角だけが宝石のように丁寧に手入れされていたことだ。
紫と青の鮮やかなグラデーションを描くデルフィニウムが、折れた支柱に健気に支えられるようにして
静かに、だが傲慢なほど美しく咲いていた。
「これは……」
ダイキリが花を指さし、首を傾げる。
「どう見ても最近誰かが世話をした形跡があるわ。スラムのこんな奥で、こんなに綺麗に……」
「定期的に手入れをするほど、ここに執着する人間がいるのか……それとも」
私は言葉を濁す。
もし仮に誰かが住んでいるなら、それは我々のような侵入者を拒む、警戒すべき存在かもしれない。
「……」
アルベルトは言葉を発しなかった。
いや、言葉を失っているようだった。
彼の目は庭の一点を見つめたまま、凍りついたように動かない。
焦点は遠い過去にあるようで、また今すぐ目の前にある真実を恐れているようでもあった。
と、唐突に家の中から音が聞こえた。古びた床板が軋む、高く乾いた音。
ぎぃ……。
重たい木製のドアがゆっくりと開き、逆光の中に一人の影が姿を現した。
十八歳前後と思われる、若い女性だった。
黒髪は腰まで長く伸び、瞳は深い茜色。
頬は少しこけて見えるが、それでも顔立ちは驚くほど整っており
その美しさはスラムの泥の中に咲く蓮の花のようだった。
着ているのは薄手の白いシャツに綿のズボン。
シンプルでありながらも、清潔感のあるその姿は、この場所ではあまりにも不釣り合いだった。
「どなたですか?」
彼女の声は小さく掠れていたが、凛とした響きを持っていた。
私たちが答えようとする前に、彼女は足元を確認するように庭を見渡し─────
そして、視線を上げた。