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その視線の先には、アルベルトがいた。
「!お兄ちゃん……?!」
時間が止まった、と確信した。
彼女の瞳孔が驚きに大きく見開かれ、薄い唇がかすかに震えている。
一方のアルベルトは、彫像のように硬直していた。
目を見開き、呼吸さえも忘れたかのように立ち尽くしている。
「お兄ちゃんだよね?!まさか……お兄ちゃん……生きてたの……っ?」
彼女の声には、狂おしいほどの歓喜と、それを打ち消そうとするほどの恐怖が混じり合っていた。
「お兄さん……私が……?」
かろうじて絞り出した彼の声は、ひどく掠れ、震えていた。
「お兄ちゃん……! 私! コロナリータ! ずっと探してた……! あたしのこと、分かるでしょ?!」
コロナリータと名乗る女性が、堰を切ったように駆け寄ろうとしたとき
私は反射的にアルベルトの前に身を乗り出した。
私の「盾」を守るための、本能的な防衛。
「待ってください。彼は今、極度の混乱状態にあります」
「あ、あなたは……? だって、本当にお兄ちゃんでしょ……? 生きてたんだ……すっごく、嬉しいよ……っ」
涙ぐむ彼女の目から溢れる感情の濁流は、嘘を吐いているようには見えなかった。
しかし、アルベルトの表情はそれとは決定的に違っていた。
彼の顔には、驚きと戸惑い以外の何ものもなかった。
実の肉親と再会した喜びなど微塵もなく
まるで鏡に映った自分ではない何かの像に驚くような、根源的な拒絶に近い表情。
「コロナリータ……と言いましたか。 貴方は……私の、実の妹なのですか?」
彼の、他人を突き放すような冷徹な問いかけに、彼女は言葉を詰まらせた。
「何言ってるの……? 忘れちゃったの? あたしが、たったひとりの妹だって……! それに今……お兄ちゃんの口調がお兄ちゃんじゃないみたい……」
アルベルトの眉が、ピクリと動いた。
「妹……っ、いたような、いなかったような……ごめんなさい。よく、覚えていません」
その瞬間、アルベルトの膝が糸の切れた人形のように折れ、彼はその場に崩れ落ちた。
「あっ、アルベルトさん!?大丈夫ですか?!」
ダイキリが悲鳴を上げて駆け寄り、彼の体を支える。
アルベルトの記憶が欠落しているのは百も承知だ。
だが、目の前の女が彼の名を呼び、妹だと語る。
それなのに、アルベルトの様子は、感動の再会とは程遠いものだった。