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「美鶴くん、今日からよろしくね。」
手を差し伸べて来たのはこれから母となる人物だ。
少し緊張した面持ちの義母の手を握ると、少し汗ばんでいた。
この顔合わせというのには参加したくもないが、父がニッコニコで用意した席をぶち壊すようなことは、流石に良心が痛むのでできなかった。
これから新しい家に越すための手続きついでに2人は婚姻届を出すそうだ。
婚姻届メインのはずが、2人とも恥ずかしがって住民票ばかり確認している。息子の前でマー君、りっちゃん呼びをしている以上に恥ずかしいものなんてあるのだろうか。
思春期な自分には中々きついモノがある。
しかも俺にはこれから兄が出来る。いや、これは正直認めたくはないのだが。
事前情報によると同じ高校のクラスメイト、その上「行野」という中々ない名字。これらを元に考えると、俺の兄となる人物は今俺の首に巻き付いてる野郎だ。
「名雪って下の名前みつるだったんだな!」なんてクラスが一緒になって一年半、今更すぎる。
「俺弟が欲しかったんだよ。なんて呼べばいい?美鶴?みーくん?」
「じゃあ美鶴で良いよ。俺は……まだ慣れないから行野って呼ばせてくれ。」
親の手前突き放すこともできず、にこやかに返してはいるが、今すぐ逃げ出したいくらいにはこいつが苦手だ。
教室ではずっと1人でぶつくさ呟いているし、授業中も先生に当てられると動揺してよくペンケースを床にぶちまける。でもよくいるオタクみたいな根暗さとは違い、いつも焦点の合っているのかわからない目で宙を見詰めるこいつのことが気味悪かった。
それがどうしたんだろう。学校とは打って変わってこんなしつこく元気な様子には度肝を抜かれる思いだ。
それが余計気味が悪くて、眉間にシワがよるのを堪えるのに必死で笑顔なんて作れそうにない。
「なあ美鶴、これからよろしくな!俺もっと美鶴と仲良くなりたいんだ。」
「ああよろしくな、“行野”」
やっていける気がしない。