テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#ダンジョン運営
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
【夢弓のターン】
私こと夢弓の悲鳴を聞いてお姉ちゃんがやってくる。
いつもよりも足音強めで、ちょっとイライラした感じでやって来ましたよ。
そして台所の状態と料理の進行具合を見て大体を把握したみたいです。
流石お姉ちゃんだね……と今の状況で言うと怒ることくらい私にも空気は読めます。
「ゆめ、ジャガイモの芽はとった?」
「あっ」
「はぁ~っあんたねぇ、あれだけ練習してこれはどうゆうこと?」
大きなため息をつくと私をキッとにらんで圧をかけてくる。
「まだ料理自体が失敗したわけではないから。ここからなら全然挽回出来る。お姉ちゃんも少し手伝うからやるわよ!」
なんか少年漫画の「まだ逆転出来るぜ!」みたいな熱い展開ぽいとか思いながらお姉ちゃんの助けを借りて……いえ、ごめんなさい見栄を張りました。
私がお姉ちゃんの手伝いをしながらカレーを作っていく。先ほどまでの苦戦がウソのようにテキパキとカレーが形を成していく。やっぱお姉ちゃん凄い!
私は尊敬の眼差しをお姉ちゃんに送る。
「……なんであんたは料理中にウインクしてんの? はぁ~、とりあえず後はかき混ぜながら煮込んで、火を止めたらルーを入れるから。ゆめはこの間にサラダを作って。キャベツは千切り、トマトを切って添えて」
お姉ちゃんに言われ千切りをするためにキャベツの葉を丸める。4枚も重ねると硬くなるので力を入れる。
「かったい、ふんむ!」
ベキッ 新鮮な音と共にキャベツは平べったく半分に畳まれる。
「ゆめ、キャベツの芯取らなきゃ。芯ごと折ってどうするの」
「あぁぁごめんなさい」
慌てる私は折り畳まれたキャベツの葉を広げ芯を取り除き太さがまちまちな千になれない百切りを生成していく。
そしてトマトを切る。
あっ綺麗に切れた♪ 私すごい!
「ゆめ……サラダにトマトの輪切りは食べにくいと思うけど……。そもそもヘタも取ってないし」
「あわわわわっ⁉」
「それは半分に切って半月状で添えましょ。火を止めたからカレーのルー入れてかき混ぜて」
お姉ちゃんに言われて箱から取り出したルーのケースに圧着された蓋を剥がしていく。
密封されていた香りが解き放たれスパイシーな匂いが食欲をそそる。
そう言えば蓋を開ける前にルーを割っといた方が良かったんだっけ?
お姉ちゃんの教えを思い出した私はケースの形状に合わせて4分割を試みる。蓋が開いているからルーを手で押さえながらの作業はおぼつかないが、ゆう君への好きを支えになんとか遂行する。2回目のクラックが入ると同時にルーが地球の重力から一瞬だけ解放され宙を舞う。
空中で浮いたルーがアクロバティックにバク転する様子がスローモーションで見える。
すごーいとか思ってたら視界にあり得ない速度で影が横切る。
「だぁーー!」
お姉ちゃんが気合いを入れて私の周りで法則が乱れる重力を手で押さえて元に戻す。飛び出しかけたルーはいつの間にかケースの中に戻っている。
お姉ちゃん格好いい!!
肩で息をするお姉ちゃんが無言で鍋の方を指さす。ルーを入れろと言うことだ。
それくらい私で察することはできる。
「えい」
私は鍋の上からケースを逆さまにして4つの欠片を投入する。もちろん美味しくな~れっ! って心を込めながら。
ボチャン!
小さいながらも立派な水柱が立ち、肉と野菜の詰まった汁が私とお姉ちゃんの顔にかかる。
「ゆめ! あんたわざとやっとらん! 普通そげん高さから入れんやろ! 欠片一つ一つ摘まんで入れればよかとに! 背伸びまでして高い位置から入れる意味が分からんっちゃけど‼」
「ご、ごごごめんなさい。調味料は高い位置から入れたらまんべんなく混ざるって……」
「カレーのルーでやる人はおらんやろ!」
お姉ちゃんがキレてしまう。いやまあ当然なんですけど。反省しつつ厳しい監視のもと鍋をかき混ぜる。
鋭い視線が頭に刺さる。鋭すぎて痛い……。
「ゆめ、ご飯はセットした? 炊飯器スイッチ入ってないよ」
「あうぅ、ごめん」
「ごめんじゃんなか! 早うやりんしゃい!」
「ひぃぃ~んっ!」
お姉ちゃんのスパルタな指導によってカレーは作られるのです。
────────────────────
【裕仁のターン】
環姉が台所に行ったので俺、裕仁はテレビを見つつ待つことにする。
ただ所詮1LDKの部屋な訳で台所が騒がしいのは分かる。内容までは分からないけど、ゆめが何かして環姉がフォローしているのはガンガン伝わってくる。
ゆめが心配で環姉が来たと言ったところか……ちょっと過保護過ぎな気がしないでもないけど各家庭やり方は色々あるだろうからと納得しておく。
この状況であるが、ゆめは一生懸命作っているはずで、ただ環姉の言うように不器用なのだろう。
環姉に怒られながら作っているなど俺に聞かれたくないだろうし、なるべく台所の方に意識を向けないように雑誌を読んで完成を待つことにする。
しばらくしたら2人が戻ってくる。
「えへへ、騒がしくなかった?」
ゆめが罰の悪そうな顔をする。環姉は……疲れてる?
「いや、そんなことないよ。賑やかだなって思ったけど……」
いや本当は環姉が何か怒鳴っていたのは知っている。あえて触れまい。
それとこれは俺の悪い癖なんだけどゆめの手を見てしまう。
今までの経験からカレーを作ったはずなのに手が青く染まってたりする事があったからである。ゆめの手は綺麗だ、漫画とかでよくある手が血だらけとか包帯だらけと言うこともない。
今までの経験上メシマズな人間は大体自分の信念の元料理をするので、アドバイザーがいたとしてもメシマズさが和らぐ程度しか影響しない。ゆめを少し疑ってしまった自分が嫌な奴に思えた。
それとこの手を見る癖はゆめに失礼なので今後改めよう。あと、前の料理と比べるのはもっと失礼だからやめようと誓う。
「よしっと私はこれで帰るわね。ゆめ、温めるときはちゃんとカレーをかき混ぜるのよ。じゃあ、ひろ君バイバイまたねぇ」
環姉が帰るようなので玄関まで見送る。
「もう少しゆっくりしても良かったのに、ゆめの話とか聞きたかったですよ」
「あらあら、引き留めてくれるなんて嬉しいわね。お話はまた今度、邪魔物は消えるわよ。あっと、そうそうひろくん、今晩間違いをおかしちゃう? プフフフフ」
環姉が俺の肩をバシバシ叩いてくる。妹を心配してるのか、していないのかよく分からないなこの人。
環姉が帰った後リビングでたわいのない話で盛り上がり本日のメインイベント、夕食の時間になる。
一緒に台所に行ってご飯とカレーをよそおう。冷蔵庫で冷やしていたサラダも忘れずテーブルに並べる。
2人で「いただきます」をしてからカレーを食べ始める。ゆめの祈るような視線がくすぐったい。
スプーンの上にのせられたカレーを口に運ぶ。
美味しい!!
シンプルなカレーの中のカレーだ。
色んなアレンジをしても最後はやっぱり普通のカレーが良いよねってことだ。
まさに原点! そう生命の原点! 母なるカレーだ!!
肉は牛かぁ、美味しいけど高そうな肉だ。お金払わなくていいって言ってたけど使わせたみたいだなぁ。
具は玉ねぎとジャガイモ、ニンジンは薄いけどゆめの家では普通なのか? カレーと言えども家庭の特色が出るから面白いものだ。
それにしても美味しい。素直な感想が口から出てくる。
「おいしい!」
俺の言葉にゆめの表情がパァーーと明るくなる。いや本当に可愛いな。
「ふぅぅ、今回はなんとか乗り切れた~」
「ん? なんか言った?」
カレーを食べるのに必死でゆめの呟きが聞こえなかった。だってこのカレー本当に美味しいんだ。
「おかわりもあるよ、あっそうだお漬け物買ったんだった。持ってくるね」
パタパタと可愛く小走りで台所へ向かっていく。走り方一つとっても可愛い……
一々「可愛い」とか要らないとか言わないでくれ。だって可愛いんだから仕方ない。
「はい、しば漬け」
「ん? しば漬け?」
紫の茄子が器に入れられやってくる。あんまり食べたことがない。
「福岡ってカレーにしば漬けなの?」
「どうだろう? 家は昔からしば漬けだよ。ひろくん家は違うの?」
「実家はらっきょうが出てたけど」
「らっ、らきょう⁉ えっと鳥取はそれが普通なの?」
ゆめが目を大きくして驚く。本気で驚いているな。こっちではらっきょは人権を得ていないのか? 鳥取県民は砂でも入れてろってことか。ジャリジャリ食えってか。
カレー消費量日本一をバカにするなよ。
いやまてよ、そもそもしば漬けって京都じゃなかったか? ゆめの家が特殊なのか。
頭の中でしば漬けとらっきょうが激闘を広げ、後ろに福神漬けと紅生姜の影がちらつく。
これは激戦の予感だ。
そんなことを考えながらボーとする俺の口にしば漬けの香りが鼻をくすぐる。視線を前に向けると恥ずかしそうな表情をしたゆめがスプーンに載せた柴漬けを差し出している。
こんなの柴漬けとからっきょうがどっちがいいとか言ってる場合じゃない。ゆめが食べさせてくれるものを食べないなんて選択肢はない!
俺は不慣れな感じでゆめが差し出す柴漬けの載ったスプーンを口に入れ、柴漬けだけを取るとモグモグと食べる。
「美味しい……しば漬け、カレーとも合う」
「良かったぁ~! 今度はらっきょも買ってくるね。2人の付け合わせはしば漬けとらっきょで決まり!」
「2人のだってぇ~」とか言いながらもじもじしながら恥ずかしがるゆめはやっぱり可愛い。
ああ何度でも言うよ、だって可愛いから。
一緒に片付けてゆめを家の近くまで送って今日と言う1日が終わる。
空の暗さを忘れさせる町の灯りを浴びながら夕食のカレーを思いだし幸せ一杯の気持ちで歩く。
俺の長かったメシマズ人生の終わりを町のネオンも祝福しているようだった。