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次の日も朝から元気なカレンに案内されて、オフィスを見学させてもらう。
「うわー、ここが個人のデスクですか?個室みたい」
「そうなの。まあ、厳密にはドアじゃなくてパーテーションだから、個室ではないけどね」
「でもすごいです。デスクもとっても大きくて形もオシャレですね。あれ?ソファもある!」
「そう。ランチの後に昼寝するのもOKなの」
えー!羨ましい、と真里亜が声を上げると、お前もしょっちゅうデスクでうたた寝してるだろう?と文哉に突っ込まれた。
「デスクじゃなくて、私もソファでお昼寝したいです!」
「お前の場合、そのまま朝まで起きそうにない」
「じゃあ副社長が起こしてください」
「アホ!俺はお前のお守り係じゃない」
やいやい言いながら、カレンの後についてあちこち見学させてもらう。
既にクリスマスホリデイに入った社員も半数程いるらしく、オフィスで仕事をしている人ものんびりとした雰囲気だった。
皆、真里亜や文哉の姿を見て、明るく挨拶してくれる。
「こっちでは、残業は禁止。子どもの行事はもちろん、奥さんのバースデーに仕事を休む、なんてのももちろん自由よ。奥さんを大事にしてこそ、仕事が出来る男として認められる感じね」
「へえー、素敵!」
真里亜は手を組んでうっとりする。
「女の子はやっぱり、自分を大事にしてくれる人じゃないと。ねえ?マリア」
「はい!」
大きく頷く真理亜を見て、カレンは、フフンと意味ありげな視線を文哉に送っていた。
「それじゃあ、私はここで。あとは本当にご案内しなくて大丈夫?」
「はい、もう充分です。カレンさん、サムさん、色々とありがとうございました」
オフィス見学の後、ホテルまで送ってくれたサムとカレンに改めて礼を言う。
「どういたしまして。26日は空港までお送りするわね」
「いえ、それも大丈夫です。タクシーで行けますから。カレンさんもサムさんも、もうホリデイに入りますよね?申し訳ないです」
「そう?あ、飛行機のチケット変更はやってあるから。ホテルにもチェックアウトは26日と伝えてあるわ」
「何から何まで、本当にありがとうございました」
「ううん。私もお二人に会えて楽しかったわ。これからも一緒に仕事をしていくんだし、またお会いしましょう!」
「はい!必ず」
握手を交わしてから二人を見送った。
「はあー、これで仕事は全て終了ですね!」
晴れ晴れとした気分で、真里亜はホテルのエントランスをくぐる。
「そうだな。あとはひたすら観光を楽しもう」
「はい!じゃあ、早速着替えて出掛けましょ!」
「元気だなー、お前」
「それはもう!ほら、副社長も早く着替えてくださいね」
「はいはい」
動きやすい服装に着替えて、二人は意気揚々と街に繰り出した。
自由の女神やセントラルパークなどの観光名所を巡りつつ、ショッピングを楽しむ。
夜は展望台から夜景を眺め、夕食を食べながら明日の予定を話し合う。
「えーっと、カレンさんが予約してくれたチケットは…。昼からロックフェラーセンターのスケート、夜はミュージカルだから、その合間に美術館巡りをしたいです」
「いいな。あとは何かしたいことあるか?」
「んー、もし時間があれば、オーケストラやバレエも観たいです」
「そうしよう。時間はたっぷりある」
「あと、25日はクリスマスのミサに参列出来たら…」
「へえ、クリスチャンなのか?」
「いえ、そういう訳ではないので申し訳ないですが…」
「セント・パトリック大聖堂も、洗礼を受けていなくても大丈夫だから、行ってみよう」
「はい!楽しみです」
それと…と、文哉は少し視線を落としてから尋ねる。
「クリスマス・イブは、どうする?」
「特に希望はありませんが。副社長は?行きたい所ありますか?」
「いや、ないんだけど。その…」
珍しく言い淀む文哉に、真里亜は、ん?と首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「あ、うん。その…クリスマス・イブに、俺と一緒にいてもいいのか?」
「は?副社長はお一人で過ごされたいのですか?でしたら私は…」
「いや、そういうことじゃなんだ。つまりその、どこかで一緒に夕食を食べてもいいか?」
「はあ、それは、もちろん」
#ハッピーエンド
#性悪聖女
「分かった。じゃあ予約しておく」
「はい。お願いします」
腑に落ちないまま返事をし、しばらく考えてからようやく真里亜は気づいた。
「やだ!副社長。クリスマス・イブは恋人と過ごす日ってこだわってるんですか?」
「いや、お前が気にするかなと思って…」
「へー、案外ロマンチストなんですね。副社長って」
「だから!俺はこだわってないってば!」
「でも、予約しておくってことは、どこか素敵なレストランをってことですか?」
「それは、その…。女の子がイブにファストフードって、なんか、悲しむかなと…」
「えー!?副社長の口からそんなセリフが!大変、住谷さんに報告しなきゃ!」
「バカ!絶対にやめろ!」
ギロッと恐ろしい目で睨まれ、ようやく真里亜は口をつぐんだ。
翌日も、二人は朝から街に出掛けた。
美術館をはしごして、軽く昼食を取ってからロックフェラーセンターのスケートリンクに行く。
「うわー、素敵!憧れだったんですよね、ここでスケートするの」
そう言うと真里亜は、スイスイと軽やかに滑り始める。
「お前、滑れるのか?」
「こう見えて大学では、体育会フィギュアスケート部だったんです」
「ええ?!そんな部活あるのか」
「はい。大学で始めたからそんなに上手くないですけどね」
「じゃあ、あれか?トリプルアクセル、飛べるのか?」
「飛べたら私、今ここにはいないと思いますよ?」
あはは!と文哉は笑い出す。
「そうだな。でも本当はもっと滑れるんだろう?俺に合わせなくてもいいぞ」
「じゃあ、副社長。手を貸してください」
「え?」
真里亜は左足でくるりとターンして向きを変えると、文哉と向かい合って手を取った。
「しっかり捕まっててくださいね」
そう言うと文哉の両手を握り、真里亜は後ろを見ながらバックで滑り始める。
「うわっ、すごいな」
「ええ。スピード上げると、風を切って気持ち良くないですか?」
「確かに」
「私、この感覚が大好きなんです。まるで飛んでるみたいな気がして。地上だと絶対体感出来ないですよね」
「そうだな。そうか、こんなにスピード出るものなんだ」
「それにしても、副社長。スピード上げても全然怖がらないんですね。素質ありますよ。一緒にアイスダンスでも始めませんか?」
「ぶっ!やめろ。俺はそんなキャラじゃない」
「あはは!確かに」
何周か回ってから休憩していると、小さな女の子が真里亜に話しかけてきた。
「Can you jump?」
「んー、just a little bit」
「Show me ! 」
ええー?!と真里亜は苦笑いするが、女の子は目を輝かせている。
「そんな、何年ぶり?飛べるかな。転んだらごめんね」
Just a single jumpね、と女の子に断ってから、真里亜は大きく助走をつける。
人の波が途切れたところでターンすると、左足のアウトサイドに乗って右足を後ろに引き、つま先を氷について飛び上がり、大きく1回転した。
両手を広げて後ろに流れると、女の子は嬉しそうに拍手をして喜んでいる。
「ふふっ、センキュー!」
ザッと女の子の前でブレーキをかけ、イエーイ!とハイタッチした。
すると周りにいた人までが拍手を始め、滑るのをやめて真里亜を見ている。
「ええ?!何?」
リンクにいる人達が、皆、もっと!と拍手をしていた。
「やだ、もう。どうしよう」
「何かしないと、収まらないと思うぞ?」
文哉に言われ、真里亜は仕方なく助走をつけ始める。
ワー!と拍手が大きくなった。
(あー、恥ずかしい。大して上手くないのに…)
リンクは全面真里亜の為に空けられていて、それに応えるように、真里亜は足を後ろに高く上げるスパイラルでリンクに半円を描く。
ヒュー!と一層皆は盛り上がった。
真里亜は向きを変えてバックスパイラルをしたあと、そのまま踏み込んでスピンを回り始める。
オオー!と拍手が大きくなり、オマケですよと思いながら、真里亜は上体を大きく後ろに反らして回る。
(うぐっ、やっぱり久しぶりのレイバックスピンは無理がある!背中が…いたた)
ヨレヨレになりながらのフィニッシュになったが、見ていた人からは歓声と拍手が起こる。
真里亜は照れながら、両膝を曲げて腕を胸の前に持ってくると、拍手に応えるようににっこり笑って手を広げる。
そして脱兎のごとく文哉のもとに戻ってきた。
「副社長!行きましょう」
「え、もう帰るのか?まだみんな注目してるぞ」
「恥ずかしくて顔から火が出そうです。ほら、早く!」
真里亜は後ろを振り返り、苦笑いしながら皆に手を振って、そそくさとリンクをあとにした。
カフェでひと息ついたあと一度ホテルに戻り、着替えてからミュージカルを観に出掛ける。
カレンに何が観たいかと聞かれ、文哉が『ウエスト・サイド・ストーリー』と答えた意味がようやく分かった。
この話のヒロインの名前はマリア。
劇中、主人公のトニーが、ヒロインのマリアに恋焦がれて歌う曲『マリア』
何度も熱く切なく「マリア」と呼ばれ、真里亜は思わず顔が赤くなる。
「Tonight」では、伸びやかな歌声に胸が震え、圧巻のダンスシーンに目が離せなくなり、最後はストーリーにのめり込んで、いつの間にか涙が溢れていた。
「はあ、なんだかもう、お腹いっぱい」
レストランで夕食を食べながら、真里亜は余韻に浸ってうっとりする。
「その割にはパクパク食べてるじゃないか」
「それは、まあ。いくら素晴らしくても、ミュージカルでお腹は満たされませんから」
「ぶっ!お前、ホントに色気より食い気だな」
なんだかんだと言い合いながら、二人はニューヨークを大いに満喫していた。
翌日の12月23日。
街はいよいよクリスマスを目前にして賑わっている。
真里亜達は、午前中はクリスマス・マーケットを覗きながら、可愛い雑貨を見て回っていた。
立ち寄ったカフェでドリンクを注文すると、スタッフに名前は?と聞かれた。
「マリア」
と答えると、OK!と、カップにサラサラと名前を書かれる。
だが文哉が名乗ると、はあ?と聞き返されていた。
「お前はいいよな。どこの国でも分かりやすい名前で」
「そうですね。スペルも一緒ですし。副社長も、カフェなんですから本名を答えなくてもいいんじゃないですか?適当にニックネームでも」
「例えば?」
「んー、文哉だからフーとか?」
「お前な。名前聞かれてWhoって答えるなんて、ケンカ売ってるのかと勘違いされる」
「あはは、確かに。じゃあ、フレディは?」
フレディ?と、文哉は顔をしかめる。
「やだよ、フレディなんて。どのツラ下げて言ってんだって思われそう」
「いいじゃないですか。フレディなら聞き返されませんよ?」
「やめとく。俺には似合わん」
だが、昼食を食べに寄ったパンケーキショップで、またもや文哉は名前を聞き返される。
「Fu…? Sorry?」
「…Freddy」
「Oh ! OK」
ぷっ!と小さく吹き出す真里亜を、文哉はジロリと睨んでいた。
パンケーキショップを出ると、一度ホテルに戻る。
「楽しみだなー!リンカーン・センターで観るバレエ。んーと、今夜はクリスマスカラーの赤のワンピースにしようっと」
選んだ演目は、やはりこの時期には外せない『くるみ割り人形』
真里亜はボルドーの膝丈のワンピースを着ると、髪型は低めのポニーテールにした。
ロングブーツを履いて、真っ白なコートを着る。
すっかり主人公のクララの気分で、ウキウキと劇場に足を踏み入れた。
「わあ、とっても綺麗な劇場ですね」
「ああ、そうだな」
「優美で豪華で、もう劇場自体が芸術作品ですよね」
「うん。日本ももっと日常的に、芸術鑑賞が身近になるといいよな」
「ええ、そうですよね」
ニューヨーク滞在中に、二人はすっかり芸術作品に魅力されていた。
この日のバレエもとても素晴らしく、真里亜の忘れられない思い出になった。