それから一ヶ月。内政と再編成、更に西部との交易準備と多忙を極めた『暁』。
スネーク・アイが派遣したであろう刺客を何度も撃退しながら刺激的な日々を過ごしていた。
そんな秋空のある日、黄昏内部に潜伏するネズミ達に悟られないようシャーリィは何時ものように黄昏を散策する体で屋敷を出る。
服装は何時ものように村娘スタイルで直ぐに民衆の中へと溶け込む。シャーリィを監視している者達もその動きに気付くことは無かった。
そのままシャーリィは同じく村娘スタイルのエーリカと合流。見た目が似ていることもあり姉妹のように振る舞いながら、黄昏の北側へ向かう。
「畏れ多いですっ!」
「構いませんよ、エーリカ。これで監視の目を欺けますから」
北側出口付近で変装したベルモンド、カテリナ、ルイスと合流。
四人を護衛としてシェルドハーフェンを目指した。
「問題はルートです、シャーリィ。十五番街を通れるなら最短距離となるのですが」
「マリアと鉢合わせする可能性があります。素直に十六番街を通りましょう。迷う時間が惜しいです」
「奴らもバカじゃない。お嬢の不在がバレるのも時間の問題だ」
「帰り道が危険だろうなぁ。シャーリィ、フラフラするなよ?」
「しませんよ。エーリカ、側を離れないように」
「お任せください、お嬢様」
だが誤算があった。まさかジェームズの一味が十六番街に潜伏しているとは思わなかったのである。
十六番街のメインストリートを進む一行は、隠れ家に潜伏していたジェームズに目撃される。
「監視の奴らは何やってんだ。あれはシスターカテリナにベルモンドじゃねぇか。間違いなく暁の代表が居やがるぞ」
「襲うか?旦那」
「何人か尾行させろ。帰り道を狙う」
「任せとけ」
シャーリィ達を見つけたジェームズ一味は襲撃を画策。シャーリィにとって長い一日が始まろうとしていた。ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。私達はシスターの案内でシェルドハーフェン五番街へとやってきました。
シェルドハーフェン最大の歓楽街、夜の町と言われる通り風像系統のお店が軒を連ねています。
今はまだお昼前の時間帯なのでお店の大半は閉まってて閑散としています。
この区域最大のお店が、今回紹介された『花園の妖精達』。代表は風俗街の女帝と呼ばれるティアーナ=メルンさん。
『会合』のメンバーであり、シスターの妹分なのだとか。あちこちに知り合いが居るシスターの過去に関心はありますが、話さない以上無理に聞き出すつもりはありません。誰だって知られたくない過去はありますからね。
目的地が近いので早速礼服に着替えようとしたら止められました。
「そのままの姿で会いなさい」
「礼を欠くのでは?」
今の私は村娘スタイル。楽で良いのですが、公的な場に相応しい服装とは思えません。
「ティアは身形を気にするような女ではありません。それに、礼服だと目立ちますからね」
ティアとはティアーナさんの愛称なのだとか。
「確かにお嬢の礼服は目立つ。今なら店を出入りする嬢だと思わせることも出きるな」
「シャーリィ、シスターがこう言ってるんだ。良いんじゃないか?」
「私も賛成です。目立つのは避けたほうが良いかもしれません」
ふむ。皆が賛成していますし、一理あるか。レイミ曰く、郷に入っては郷に従えです。
「ではシスターの言葉に従うとしましょう」
今回は『花園の妖精達』との友好関係構築が目的です。相手をよく知るシスターの助言に従う事が上策でしょうね。
しばらく閑散とした歓楽街を歩いていると、大きなお屋敷に辿り着きました。三階建て、お部屋がたくさんありそうです。
花壇の手入れも良くされています。
「ここが『花園の妖精達』か」
「高級娼館なんだろ?シェルドハーフェンの男は一度は行ってみたい場所とか聞いたことがあるな」
「行ったら許しませんからね、ルイ」
「行かねぇよ。そもそも料金も馬鹿みたいに高いらしいぜ?」
「二時間で銀貨一枚からですか。お高いですね」
エーリカが看板にある料金表を見ていますね。しかし銀貨一枚、レイミ曰く十万円?でしたか。確かにお高い。生憎娼館の相場は知りませんが、一時の快楽を得るために銀貨一枚は破格ですね。
「ティアーナに伝えなさい。カテリナが娘を連れてきたとね」
「畏まりました。どうか中でお待ちを」
体格の良い守衛さんが笑顔で私達を招き入れてくれました。
ロビーには受付とたくさんのソファー、高そうな絨毯に家具が用意されていました。
ただ、色合いが何と無く妖艶な感じです。香も焚いているのか、匂いも独特ですね。
「此方でお掛けになってください。直ぐに主へと知らせて参りますので」
「ありがとうございます」
私達は守衛さんに勧められてソファーに腰掛けて待つことにしました。
「何だか意外だな、もう少しギラギラした感じだと思ってたぜ。なあ、ベルさん」
「落ち着いた感じがあるな。言わなきゃ貴族様の屋敷だと間違える」
「ここは遠方からの客も多く、利用客には貴族様も居ますからね。娼館らしさは極力排しているのですよ」
確かに、これまで見てきた娼館には露骨なイヤらしさがありましたが……ここはまるでホテルのような落ち着きがあります。
「あらあら、可愛らしい男の子じゃない。お姉さんと遊んでみない?」
「まあまあ!良い男じゃない!お仕事抜きにして楽しまない?」
私達が待機していると、娼婦達がルイとベルに話し掛けてきました。
……娼婦さんですよね?露出の少ないドレスを身に纏っていますし、仕草も洗練されています。貴族令嬢と言われても納得してしまいそうな佇まいです。
「悪いな、今は仕事中だし手持ちも無いんだ」
ベルは手慣れているのか、笑いながらあしらっていますね。ルイは?
「いやぁ、止めとくよ。俺女が居るし」
「あら、少しくらい遊んでも文句は言わないわよ」
「そうそう、女の扱い方を教えてあげるわ」
ルイは困ったように笑っています。
……何だろう、面白くない。
「あらあらまあまあ!」
「あははっ!可愛い!」
「おっ、おいシャーリィ」
私は無意識に隣に座るルイの袖を摘まんでいました。何だか恥ずかしい。
「その辺りで止めなさい。私の連れで遊ばないように」
「はーい、シスター。じゃあね」
「今度はお客として来てね?」
シスターが注意すると娼婦さん達は笑いながら去っていきました。むぅ、からかわれた。
「シャーリィお嬢様をからかうなんて!斬りますか?」
「斬らなくて良いです、エーリカ」
ちょっと物騒です。
「拗ねるなよシャーリィ。悪かったって」
「拗ねてません」
「まあ、お嬢もまだまだ子供ってことさ。そのうちあしらい方が分かるよ」
「努力します」
ベルに励まされていると、先ほどの守衛さんが戻ってきました。
「ボスがお待ちです。ただ、代表の方のみとお会いすると。宜しいでしょうか?」
「どうする?お嬢」
「分かりました」
シスターの紹介ですからね。ここは誠意を示します。万が一の時は剣もありますから。
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