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イバとラナを背に、サブの容態が気になり様子を見に行く。しかし、その前に通りすがり、自分の家へと戻る。
流石に、何も言わず二日間も空けていたんだ、しこたま怒られるよな。そう思い、ドアを開けると、そこには慌ただしくしているリンと、椅子に座ってテーブルの果物をかじるソウがいた。
ああ、良かった、ちゃんとそこにいる。二人を見ると、温かい感情と一緒に涙がこみ上げてくる。この二人がいるから今の俺があるんだと、改めて実感する。リンは何かの支度をしていたが、こちらを見るなり驚いた顔になっていた。
「ゲン……あなた無事なの? どうして何も言わずに出ていくの……わたしはね、あなたがもう目を覚まさないと思って、どれだけ考えたか。ソウにどう説明すれば良いか……わからなくなって……ねぇ、馬鹿じゃないの……心配したんだから……グス……」
リンは、いつものように怒るのではなく、その場で座り込み、泣き崩れていた。やってしまった……相当心配をかけてしまったらしい。
「ごめんな、リン。そんなつもりはなかったんだ。すぐ帰るつもりだったんだ」
俺はリンに駆け寄り、後ろから抱きしめる。白く細い首、栗色の綺麗な髪は、いつもなら手入れをしているのに少しほつれている。そして、彼女の肩は震え、すすり泣いているのが分かった。悲しませてしまった申し訳なさが、俺の心の中で溢れ出てくる。リンは、か細い声で――
「うん……今度からはちゃんと行き先は言ってね。あと、無理はしないで……」
所々に滲む悲しみの声色に、心の内がぎゅっと締めつけられる思いだった。
「分かった。なるべく無茶はしない。愛してるよ」
「うん……私も愛してるわ」
俺はさらにリンを強く抱きしめた。そしてリンの前へ回り込む。俯いたリンの顔を確かめたくて、「こっちを向いて」と呼びかける。顔を上げたリンの顔は涙で濡れ、ぐちゃぐちゃになっていた。俺は目頭が熱くなり、つられて泣いてしまった。あれ、おかしいな。励まそうと思ったのによ。何でだ? 愛おしい感情と、ここまで思っていてくれたことに、目が充血するほど熱くなっていくのが分かった。
「……ごめん……ごべんな」
「ううん……いいのよ」
――座ったまま手を握り、体を寄せる。俺はリンに顔を近づけていく。お互いの涙が一つになるように、リンの見開いた目には俺が映り、その瞳に吸い込まれていく。彼女にも自分の顔が映っているのだろう。そして、彼女の涙で濡れた艶やかな唇に誘われるように、熱い接吻をする。リンもまた拒むことなく、受け入れてくれる。目を閉じて、彼女の柔らかな温もりと感触、そして女性特有の甘い香りを存分に味わう。蕩けるような接吻を交わした俺は、もう一度リンを見る。そして俺とリンは、お互いに濡れた顔を見て笑い合った。
しばらく俺はリンと体を寄せて抱き合っていたが――
ソウが果物を食べ飽きたのか椅子から降りてきて、「タッタッ」と小走りでこちらにやってきた。
「んんむ、おれも、ぎゅう〜」
「あら、おいで。三人でぎゅうしましょうね〜」
「はっはっは、可愛い奴だなお前は」
ソウは俺とリンの間に挟まり、「ぎゅう〜」と言っている。可愛いやつだよ、本当に。そして、リンと俺はソウを真ん中にしてハグをした。温もりが心地よかった。この時間が心から、ずっと、ずっと続いてくれればいいのにと思った。
悪いなサブ。もうしばらく、この時間を俺は噛み締めたい。お前なら平気だろ?
三人は満足するまで、愛を抱きしめ合った。悠久の時を感じながら、三人は温かいひとときを過ごした。
〈もう一つの家族の話〉
イバとラナは、ゲンが家から出てから、娘の誕生日の支度をしていた。
「しっかし、あの人、本当に強い人だよ」
イバは腕を組みながら言う。
「そうね。肋骨と右腕があんなにぐしゃぐしゃになっていたのにね。不思議な人よね」
ラナはせかせかと支度をしている。
――ガチャ。
「こんばんは。帰ってそうだったから、連れてきたわよ」
ドアを開けて入ってきたのは、ご近所のキンさんである。キンさんは身寄りのない子どもを里親として育てたりする、とても子どもが大好きなおばちゃんなのだ。
「あら、キンさんこんばんは。ありがとうございます。お陰で木の実や狩りが捗りました。この子の好きなものをたくさん用意できました。ありがとうございます!」
「いいのよー。子どもが大好きだからね。でもレイちゃん、本当に静かな子ね。最初はびっくりしちゃったけど、人見知りなのね。打ち解けたらちゃんと会話してくれて良かったわ」
あはは、とキンさんはおばちゃん特有の、手で口を押さえて喋る仕草をする。
「あら、レイ。人見知りしたのねー。もう、仕方ない子ね」
「そうだぞ、レイ。人見知りしてたら友達もできないからな」
「ふん、ちがうもん」
レイはソウと同い年のはずだが、発達が早く言葉も達者であった。しかし――
「パパ、だっこ」
すぐに態度を変えて、レイは抱っこをせがんだ。
「レイ、本当に困ったちゃんだなー。お前の王子様はきっと大変になるだろうな。ははは」
「こら、パパ。甘やかし過ぎたらダメよ」
「まあまあ、今日は誕生日だから」
「そーお? なんか、いつもは他の理由で言ってるような?」
「え、そうかなあ(汗)」
「ふーん、ふんふん」
レイは鼻歌を歌っている。
「あなた達、ほんと仲良しよねぇ。おばちゃんも今日の誕生日会に参加しちゃおうかしら?」
「キンちゃんも、きてね」
レイは鼻歌をやめて唐突に言う。
「あら、本当? あなた優しい子ね。涙が出てくるわ」
「じゃあ、キンさんも一緒に、少し早いけど始めますか」
「そうね。みんな席について。準備はできてるから、キンさんもここの席にどうぞ」
「あら、ありがとう」
「レイは、ほら特等席よ」
「やった!」
「良かったな、レイ」
「うん! ありがとう、パパ、ママ!」
「ふふ、頑張った甲斐があるわ。ね、パーパ?」
「本当だよ。グスっ」
イバは涙ぐむ。
「じゃあ、せーのでいくよ」
「「「レイ、お誕生日おめでとう!」」」
◆
微睡みの中から一瞬、レイは机に突っ伏していた上半身を起こす。どうやら、うたた寝していたようだ。
(わたしの小さい頃の思い出。誕生日の日、すごく印象に残っているわ。でも、パパもママもキンちゃんも、もういない……)
レイは温かい思い出に浸ったが、同時に悲しさが押し寄せた。そんな気を紛らわせようと部屋の窓を開けると、向こうに誰かが歩いていた。
(あれはソウじゃない。また落ち込んでるようね。ふん、私が喝でも入れてやろうかしら。まったく、世話が焼けるわね)
レイは慌てて部屋を飛び出し、ソウの元へと向かった。