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軍パロ短編
シリアスでたくぱんさん多め
一つ目
静かな廊下
会議室から執務室に向かうちょっとした道
外から聞こえる虫の大合奏に耳を傾ける
虫は嫌いだが、葉と葉が擦れる音の間に挟まるこの声は、嫌いではない
そして聞こえていくる、一般兵の愚痴
『諜報部隊長ってさ〜…』
『あ〜あの緑の?』
『そう、正味キモくッ_____』
ガバリとヘッドフォンを耳に当てて、窓から離れながら背を丸めていく
昔から特別耳が良い俺のためにはるてぃーが特注で作ってくれた高性能なノイズキャンセリング付きのヘッドフォン
最近は戦闘もするようになったからか、
五感が冴えて意味をなさなくなるときもあるが、
それでもこのヘッドフォンは俺の精神の安全を守ってくれる大切な防具だ
すぐ横についているボタンを操作して音楽を流す
他の音に集中すればきっと誤魔化せるから
あんなことなんて忘れられるから
『キモいって』
『ホント無理』
『有能の皮被ったただのクソじゃん』
『いらんのなんて緑一択だしw』
そんな声がガンガンと頭を鳴らす
背中のあたりが冷えた感覚
額に脂汗がにじみ始めたのがわかる
息がどんどんと浅くなっていて、視界が、霞む
ゆー「たくぱんさん?」
肩を優しく叩かれる、焦って振りかぶってしまったが、
その一言に一気に世界がクリアになり、息が楽になる
ヘッドフォンを外してゆーまくんに向き合った
たく「あ、ゆーまくん…何?俺になんか用?」
ゆー「はい、ここの予算のことで質問が…大丈夫ですか?」
さっきまで廊下の端で壁にもたれかかってうなだれていたのだから、心配になるのは当たり前か
なるべく明るい声で答える
たく「大丈夫、ちょっと眠くなっただけ、書類見して」
ゆー「はぁ…倒れたりは避けてくださいね」
乾いた笑いで流して、書類の数字に目をすべらせる
こうやって現実から逃げる癖も、やめたほうがいいのにな
ゆー「…なるほど…ありがとうございました、お体にお気をつけて」
たく「ありがと、ゆーまくんも気をつけてね」
ゆー「はい、それでは僕はこれで…」
会釈しながら去っていく紫の背中を見送る
すぐにさっき行った会話を脳内でリプレイしてなにか粗相がないか確認する
今回は業務連絡だけだったから助かった
これが普通の会話になると、ノリでなにか言ってしまうなんてことがたくさん起きてしまう
変なことを言って、場が白けて、更に嫌われる
それだけは避けたい
少し笑った膝を叩いて気合いを入れる
たく「…よし…」
まだ、大丈夫
目が覚めると、真っ暗な部屋だった
声を出しても反響が少なくて、どこにも壁がないことがわかる
たく「…どうなってるんだ…?」
そう呟くと、ふと目の前に色付きガラスの箱が現れた
メンバーカラーの分だけあるけど、俺の分…緑色だけない
中にはみんなが入っていて、真顔で此方を見つめている
いや、便宜上見つめているとは言ったが、顔は影が入っていて、目元は見えない
ただ視線を感じる
たく「みん…な…?」
はるてぃーが口を開く
はる『やっぱたくぱんって要らないだろ』
こむぎがそれに同調する
こむ『それな、前に出ないくせに無茶ばっか言うし』
ゆーまが付け加える
ゆー『その癖して自分はさも辛いように見せかけてて』
きゅーが畳み掛ける
きゅ『僕達のことなんて一切考えてない』
そーちゃんがやれやれというふうに呟く
そー『あの人この前の体力テスト一般兵に筋力抜かれてませんでしたっけ?』
うたくんが引いたような声を上げる
うた『うわそんなのが幹部とか信じらんねぇ…』
そして山田が、俺を煙たがった
山田『いっつもそう、情でバディ組んでるけどぶっちゃけ関わりたくないわ』
たく「…ッッ違うッッッッ!!!」
ちがうちがう、みんなはこんな事言わない
真っ向から俺を否定なんてしない
うた『いや?わかんないよ?もしかしたら影で言ってるかもしれない』
薄ら笑いを浮かべながら此方に話しかけてくる
こむ『もしかしたらお前を殺す手立てを考えてるかもしれへんし』
はる『お前を明日無理矢理クビにするかもしれない』
ケタケタと笑いながら此方を蔑んでくる目
俺の頭は疑心暗鬼でめちゃくちゃだった
膝から崩れ落ちて、身を守るように小さく縮こまっていく
ガンガンと鳴る頭を押さえつける
ちがう、ちがう、と小さく呟くことしかできない
ポロポロと涙がこぼれ落ちる感覚がする
急いで首元のヘッドフォンに手を掛けるが、その手も空振ってしまい
ますます俺は追い詰められてしまった
たく「ちがう‥ごめんなさい…役立たずで…ちがう…」
ゆー『うわ…泣き出しちゃったよ悲劇のヒロイン面ですか?』
きゅ『えぇ…?流石にそれは引いちゃうよ…?w』
耳元で聞こえる声、荒々しく塞いでも声は聞こえる
自分のよくできた耳が恨めしい
こむ『てか、気づいてないん?』
何がだとあたりを見回すと、緑色の色付きガラス
みんなは箱から出て、俺だけが閉じ込められた状態
気づけば、みんなに取り囲まれていた
四方八方から指を指される
ゆー『もう貴方だけなんですよ?囚われてるのって』
山田『お前まじで無能だからさぁ…』
やめて、それ以上は、わかってるからッッ…!
『死んでよ』
たく「…ッッッ!!!」
ガバリと起き上がるといつもの執務室、
外は明るい夕焼け色で机に散乱している書類から居眠りしてしまっていたことがわかる
みんなに迷惑をかけてしまったのか
俺の他に執務室にいるのは3人、うた、はるてぃー、ゆーまだ
額に浮かぶ脂汗を袖で雑に拭き取る
深呼吸をしてもちっとも落ち着かない
さっき言われた言葉がずっと頭の中で反芻されている
うた「あ、たく氏起きた?めっちゃうなされてたけど、大丈夫…ではなさそうだな‥」
見るといつもの調子のうたくんが此方に手を伸ばしてきていて、
『うわそんなのが幹部とか信じらんねぇ…』
フラッシュバックしたあの景色
たく「ッッ!やめてッッ!!」
反射的に叩き落としてしまった
うたくんが吃驚したような顔をして俺が叩いてしまった手を抑えている
他の二人もびっくりして声が出ないようで、ただ何も言わずに俺を見ていた
たく「あ…ご、ごめん…!」
脱兎の如く走り出し、執務室の扉を開け、外に逃げ出す
うた「あッたくぱん!」
後ろで名前を呼ばれた気がしたけど、構っていられない
只々走って逃げて飛び降りて
途中で邪魔くさい腰のマントや小手を取り外し
投げ捨てて逃げる
体は、軽い
目的地なんてあるはず無いのに
足は自然とあの場所へ
たく「ついた…」
肩で息をしながら辺りに人がいないことを確認する
裏山の大きな木の上に、昔みんなで作ったツリーハウス
今の城ができるまではここに住んでたっけ
ここには、各自の前の装備とか、宝物とかが置いてある
はるてぃーは新調する前のゴーグル
うたくんは水玉のネクタイ
こむぎはベレー帽で
ゆーまくんは顔のついたキャスケット帽
山田は白い山田Tシャツに
きゅーは星のピン
そーちゃんはパーカー、ってな具合にみんなここに置いていっている
俺は決めきれなくて、置いていかないってことになったんだっけ
今思えば、一番過去に引きずってるのは、俺かもしれないな…
フードをおろし、ヘッドフォンを外す
真ん中でも、端でもない、変な位置に座り込むと
少し傷の入ったヘッドフォンは、ゴトリと音を立てて地面に置かれた
俺が座った場所は、昔ここで過ごしてたとき、真ん中に大きな丸いちゃぶ台があって
その周りをみんなで囲うようにしていた。その時の定位置だ
たく「…はは…」
『貴方だけなんですよ?囚われてるのって』
ずきりと頭が痛む
懐から紙とボールペンを取り出し、さらさらと書きつけていく
最後に三つ折りにした紙の上に大きめの字で『__』とだけ書いて、
ヘッドフォンの下に置く
たく「…よし…」
遠くからうたくんと山田の声が聞こえた
距離およそ300m
たく「ごめんね…」
そう言って窓から飛び降りた
うたside
小さくなっていく緑の背中を見失わないように必死に追いかける
途中でベルトを引き抜き、小手を投げ捨てるたびに加速していく
あの装備はそんなに重たかったのか
そして彼はあんなに速かったのか
人の間を縫うように逃げ、窓から飛んで下の階に
縁を伝って壁を踏み
木の枝を掴んで高く跳ぶ
ひょいひょいと飛んでいくさまはまるでサーカスの曲芸のようで
どこか現実離れしていた
夕暮れの紺色と赤色が混じった空の下
緑の木の葉の海に飛び込むように高く飛び上がり、
明るいオレンジの丸に吸い込まれるようにして消えた
うた「ッ!やべ、逃げられた‥!」
インカムをつなぎみんなに要請をだす
うた『此方うた、たくぱんが消えた、9時の方角を最後に見失った。至急捜査求む』
小さなノイズが走った後、聞こえてきたのははるてぃーとゆーまの声だった
はる『了解、やまこむそーきゅーに回して。俺は上から探してみるわ』
ゆー『そーきゅーこむは一緒にいたので今言いました。山田さんだけお願いします。僕は外周から探しますね』
うた『了解、助かる、じゃあ俺は追ってみるわ』
インカムを切り、次は山田につなぎ直す
うた『山田?今いけそ?』
山田『なんやねん、山田様だって暇じゃないんですけどぉ?』
うた『たくぱんが消えた、探すの手伝え』
山田『はぁ!?彼奴なにやっとんねん…まぁええわ、アテくらいあるんやろうな』
うた『あ〜…アテね‥アテ…』
山田『まさか無いんか!?』
うた『うるせぇうるせぇ』
そう言うと、すぐ近くのダクトから山田が飛び出してきた
山田「しゃーなしや、俺について来い」
不仲と言われつつも、たくぱんとバディを組んでいた山田ならどこか思い当たる節があるようだ
うた「助かる」
そう言って、山田の後を追っていった
山田side
あいつなんて嫌いや
顔も、声も、存在丸ごと全部嫌いや
あいつがどうなったって俺は別にええけど
はるてぃーとかこむぎとか、他のやつが悲しむのはいやや
やから…やから…
山田「まだ死ぬんとちゃうぞ…ゴミドリ…」
_____________________________________
あれは数年前、俺とたくぱんが、研究所から逃げ出したときだった
「待てッッッ!!」
一心不乱に逃げる
苦しくて息ができない
山田「くそったれ…彼奴いつまで追ってくんねん…」
辛くて足を止めそうになっても、死にたくはないと必死に森を掻き分け走る
もう埒が明かないと、振り返り迫り食ってくる大人を睨みつける
山田「たくぱんッッ!お前は逃げろ!山田は戦うで…!」
そう言って追手に対峙するこちらを見やるたくぱん
刺し違えてでも殺してやると息巻いていると
たく「ッッ!馬鹿ッッ!!」
襟が引っ張られ、刹那視界は木の枝の上に
たくぱんが少しつらそうな顔をしながら、小さく何かを呟いた
「クソッどこに行った?」
「探せ!近くにいるはずだ!」
木の上に座る俺等に気づきもせずに、草原を漁り始める研究者たちを眺める
山田「お前…これ…」
たく「彼奴等にもらった力…こればっかりは感謝かな…」
そういったたくぱん
この力は使いたくないといっていたはずなのに
たく「…何その顔?」
呆れたように言われ、自分はそんなに情けない顔をしていたのかと思う
山田「お前…それ使いたないって…怖いって…」
ずっとこいつはぼやいてた
「この力を使ったら、もう後戻りができない気がする」
「自分が消えて、みんなが俺を忘れて…そんな未来があるかもしれない…」
そう言っていた
たく「…怖いけどさ…しゃーねーじゃん?山田死にそうだったし」
山田「そんなッ俺のせいで…」
俺が死にそうになったからって、お前の存在が消えていいわけじゃないのに
たく「…大丈夫、山田は忘れないでくれるんでしょ?」
そう優しげに憂う瞳は美しくて
ふわりと温かいものに包まれた気がした
山田「当たり前やろ…忘れへんから…なんな墓までついて行ったるし」
たく「死ぬ時まで一緒なの確定かよw…まぁ…ありがと…」
あたりに敵は、もういなかった
_______________________________
あいつはいつもそうだった
人のために生きて、人のためにしか動かない
そんな面引っ提げながら、自分の根底にあるエゴが隠しきれなくて
他人を第一に生きなきゃいけないと思っているけれど、
自分を一番に考えたいそのギャップに苦しんでる
あいつは未来を嫌う質で、過去に縋る悪癖がある
そんなあいつがヘラったときに行く場所となったら
うた「どこいるんだ‥?」
山田「決まっとるやろ…」
ガサガサと森の中を突き進んでいく
俺達はたくぱんの様に身軽に飛べないし隠密行動もできない
森や入り組んだ場所はもとよりたくぱんの独壇場だった
それにこの城周りの森はたくぱん本人が直々に管理手入れをしている
いわばあいつのダンジョン、最後の砦、ラストリゾート
あいつは目立ちはしないが、邪魔でしかない”あれ”をまだ残している
つまり”あれ”はあいつにとっての全てといっても過言ではない
うた「あれって…」
山田「分かるやろ、この道覚えてないとは言わせへんで」
見覚えのある道にうたも気づいたのか、足取りに迷いがなくなる
やっとたどり着いたツリーハウス
もう目立つ旗は降ろされてはいたが、埃一つないきれいな状態で残っていた
うた「…たくぱん、手入れしてたのかな…」
山田「浸ってる暇はないで」
軽く踏み込み一気に飛び上がり登りきってしまう
昔ここに住んでいたときに習得した超ジャンプには未だに救われている
そういや、あいつとどっちが高く飛べるかの勝負なんかもしてたな…
扉を開けると部屋の真ん中に見覚えのあるヘッドフォンと、手紙
うた「?…ヘッドフォン…おいていくとか珍し…」
そういったうたの声が不自然に止まり、紙を拾い上げた姿で固まる
山田「どないした?」
うた「…ッッ…これ…読みたくねぇんだけど…」
うたが少し焦ったような顔でこちらに向けてきた紙の真ん中には
小さく丁寧な、そして書類で何度も見た字体で
『遺書』
そう書かれていた
飽きた、いつか書く