第2話 約束
「では仕切り直しですね」彼女はコートを置いた。
「シドニー・カーランドよ、初めましてキリル・ソルミアさん」俺を見る氷の目は溶けていくようにみえた。不思議な感覚だった。
何故か別世界からきたような人にみえたこと。そして抱いていた怒りや負の感情が
自然になくなっていくことを。
「私はここの人間には興味がないのよ。自分勝手でつまらないわ」
ここ?。とにかく話を合わせよう。
「俺も退屈していてさ、久しぶりに人と会うが楽しみだったんだ。データベース間で話し合うのは苦手でね。このチップ除きたいよ」
「俺の会社はさ・・・」
彼女は静かにグラスを置いた。
「そんな話をする人が苦手なの」
「え、、っと、、」言葉が詰まってしまった。
「ごめん。あの、、この前チップ間で話した時の迷子の子供がね、親御さん見つかったらしくてね・・・」俺はなにを話しているんだ。今度こそ帰られてしまう。唇を噛んだ。
彼女はそれを聞いて、
「迷子の女の子の話は興味あったの。なんで急に目の前に違う惑星の子供が来たのか不思議だったの。最近ニュースにも出ていたわ。原因は不明だそうよ」彼女はその話には食いついてきた。
「ただ、女性との会話は初めてかしら?」
冗談を含ませて返してきた。
「ははは、、、かもね。」
目線が合わさり互いに頬を軽く緩めた。
「そろそろ失礼しますね」彼女は上着を羽織って立ち上がった。
結局ダメだった。自分の不器用さに言葉もでない。
しかし彼女はこう続けた。
「もしあなたがそのカプセルを一週間飲まなかったら、またお会いしましょう」
とっさに俺は分からないが「必ず」と答えた。彼女にもう一度会いたかったからだ。
「その時に、私を笑わせる話でもしてくださる?」微笑みながら、カウンターを後にしていった。
俺は独り残されたカウンターでグラスに沈んだカプセルを眺めていた。
(彼女に会えるなら我慢しよう)そう思いジャケットをきた。外はまだ18時。辺りは賑わっていたが、脇目も触れずそのまま自身のビルへと戻った。
「ソルミア様、お帰りなさいませ。」
ガラクタが話しかけてくる。
ソファーに深く腰をかけ、彼女のことを考えていた。少しの時間だったのに、とても満たされた気持ちになっていた。シドニー・カーランド。
(彼女をもっと知りたい。次は面白い話できるかな)
すーっと、天井を眺めていた。
「ソルミア様、カプセルのお持ちしました」ぶしつけに雰囲気を壊す音が聞こえる。
「いらない。一週間はおれにカプセルを持ってこないでくれ」俺は言い切った。
実際、隠れて飲んでもバレることはないのに俺がそれを許さなかった。
「ですが、ソルミア様・・」それ以上は聞かなかった。
窓から見える景色は眩しくとても綺麗だった。満足げに笑みを浮かべていた。
これから地獄が待っていることを知らずに。
(続)