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私には前世の記憶があるんだよね。別に自慢できることじゃないけどさ。
前世の私は、まあアレだよ。びっくりするくらい不細工だったんだよね。色恋を諦めるくらいに。容姿で決めたらいけないとか言われてたけどさ、やっぱり度を越えた不細工相手に優しく出来るような人は少ないわけで。少なくとも私の周りには居なかったね。
親もチンピラみたいな感じで、ほとんど放置。たまに殴られてたかな。仕事しないで毎日酒浸りの父親、美人局とかで稼いでる母親。私はお母さんが寝たどこかの金持ちの子供なんだってさ。顔がそっくりで憎たらしいって毎日言われてたし。
当然そんな娘にお父さんが愛情を注ぐはずもない。今思い返しても、最悪の環境だったよ。
でも、そんな両親や周りを見てたら私はこんな風には成りたくないって思えて、清廉潔白に生きていこうと頑張った。
皆が優しくなくても、私は優しくしようって心に決めてた。学校では苛めに会い、家では虐待の毎日で良くもまあ我慢できたと感心するよ。勉強も頑張って、それなりに待遇の良い会社に就職も出来た。
毎日毎日頑張って働いて、お給料の一部は慈善団体なんかに寄付してた。情けは人の為ならず。いつか必ず報われると信じて。
そんな社会人生活を送っていると、なんと恋人が出来た。私になんか明らかに不釣り合いなイケメンで、そりゃ最初は疑ったよ。これ詐欺じゃね?ってさ。
でも彼は優しくて、私に金銭を求めたり何かを要求することもなくて、二年間で私はこの人はこれまでの人と違うと。信用して良いと。頑張った御褒美を神様がくれたんだって思った。そして、結婚することに成ったんだ。
……まあ、オチは予想通りだよ。見事に騙されて、有り金全部奪われて私の恥ずかしい写真とかばら蒔かれたよ。二年間我慢してたって嗤われたね。私を抱いたあとは吐いてたって。そのあと集団で襲われた。首から下は悪くないとか言われてさ。
……もうどうでも良いやって思って、ボロボロのままで街をさ迷って……工事現場の側を歩いてたら落ちてきた鉄筋が直撃。呆気なく私の人生は終わった。何のために生きてきたんだろう。頑張って来たんだろう……疲れちゃったよ。
そう思いながら私は意識を手放した。次の人生は、報われたいな……。
次に目を覚ました時、私は誰かにだっこされてた。私を見下ろすのは優しそうな女の人。側には同じく優しそうな男の人。最初は戸惑ったけど、鏡があって自分が赤ちゃんになってるって自覚したらすんなり受け入れられた。
私の数少ない趣味はアニメとかだったからね。いわゆる転生って奴なのかなって。前の人生に未練なんてなかったし。
ただ、神様。前世の記憶なんて要らなかったから、それだけは消してほしかったかな。お陰で私は猜疑心の塊で、優しい両親を信じるのに何年も掛かった。無愛想な娘に根気強く愛を注いでくれた両親に感謝してる。
六歳くらいになった私は、前世とは程遠い容姿を手に入れていた。栗色の髪。整った目鼻立ちは間違いなく美人に成長することを期待させるには充分だった。自分なのに違和感が半端じゃなかったね。
私の家は地方の小さな領主。と言っても村長とかに近い感じかな。お父さんもお母さんも優しくて偉そうにしてなくて、領民と一緒に田畑を耕して汗を流すような人。
そんな両親が私は大好きで、前世の知識をフル活用して少しだけお手伝いすることが出来た。具体的には農業用具の改良とかコンクリートの作り方とか。
両親は私を誉めてくれて、周りは神童だって持て囃した。恥ずかしかったけど、幸せな毎日だったよ。
ああ、神様。ありがとう!前世で頑張ったから御褒美をくれたんですね。私、今世でも頑張って幸せになります!
……そんな幸せも七歳の時に終わったけどね。帝国では大きな事件が起きたんだ。アーキハクト伯爵家が襲われて凋落したって事件が。
実はお父さんの治世はこの世界じゃ珍しくて、領民に寄り添うやり方をアーキハクト伯爵が評価して手厚い保護を受けてたみたいでね。
で、領民に優しい善政を敷いていれば、虐げられてる他の領地の民が逃げ込んでくるわけで。そりゃ誰だって今より良い場所があるならそっちにいくよ。命が掛かってるなら尚更ね。
でもそれって問題なんだよね。相手からすれば領民を奪われたって思うわけだし。
残念ながらお父さんはその辺の感覚に疎かった。それでもアーキハクト伯爵の保護があったから問題には成らなかった。でもそんな伯爵が居なくなったら?
その答えは、お父さんを疎ましく思う貴族達に煽動された数百の賊による襲撃だった。
小さな領主でしかない私達に抗う術なんて無いわけで、領民は殺されるか奴隷にされた。お父さんは八つ裂きにされて、美人だったお母さんは散々犯されたあと何処かへ連れていかれた。そして私は売り払われた。
その場所はシェルドハーフェン。帝国最悪の暗黒街に、奴隷としてね。
それから私は幾つものご主人様の相手をさせられた。最悪の毎日だったよ。私の心を冷やしてしまうくらいに。
で、十二歳のある日。私を買った富豪とのプレイ中に転機が来た。こいつ、女の子を犯しながら殺すのが趣味の下衆野郎でね。私の首を締め上げて下品な笑い声をあげてた。こんな奴に殺されるなんて真っ平御免で、なんとか抗えないかと手探りしてたら何かを掴んだ。
それは、こいつがプレイのために持ち込んだ木製の道具だった。そいつを握って下衆野郎の頭を思いっきり殴ってやった。こんな小娘の一撃でも痛かったんだろうね。叫びながら転がるものだから、無我夢中で馬乗りになって殴り続けた。
気が付いたら、下衆野郎は頭を砕かれて死んでたよ。私は直ぐに服を着て、金目のものを出来るだけ集めて部屋を抜け出した。屋敷から上手く逃げ出せた私は、夜のシェルドハーフェンを走りながら気持ちが昂るのを感じていた。
そりゃそうだよ。これまで奪われる立場だったのが、逆転したんだからさ。
なにより、人の命を奪うのがこんなに楽しいなんて思わなかった。それから私は生きるために人を殺すようになった。
幸い私には戦いの才能があったみたいで、苦戦することもなかった。それに、自分でも引くくらいに回復力が高かったから、怪我をしても直ぐに治るんだよね。
それと、どうやら私は魔法が効かないみたいみたいなんだよね。『魔石』なんて珍しいものを私に使おうとした奴が居たけど、何をしても私には通じなかったから。
ただ、今の両親には感謝してるから快楽殺人鬼にはなりたくなかった。だから、子供には絶対に手を出さなかった。
そんな生活を送って十四歳の時に、スネーク・アイと呼ばれる殺し屋のジェームズに誘われて私は『血塗られた戦旗』で殺し屋として働いてる。
人を信じるなんて事には疲れたから、利害関係だけの繋がりだけどね。そこに信頼関係なんて存在しない。ジェームズが私を利用するように、私も『血塗られた戦旗』を利用するだけ。
私の名前は白鳥 聖奈。前世の名前も今世の名前も捨てた一人の女の子。決して満たされることがない飢えを抱えて惨劇を生み出す外道、それが私。