テラーノベル
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始めてみるとそんなに大変な作業ではなかった。ただ確かに手間のかかるな。いちいち入力しなきゃならないし、それをパウチ加工しなきゃならない。パウチ作業は何故か高校にあって使ったことのある機械だから助かった。
次に塩ビ素材の印刷も恐る恐る取り掛かる。どうやら同じプリンターで出来るらしい。柔らかい素材だから気を遣ったがそれでもなんとか印刷することは出来た。
それが終わって俺は悩んだ。問題はプレートだ。恐らくプリンターの隣にあるこの機械で出来るんだろう。だが使い方が分からない。仕方なく全ての引き出しを漁る。奥のほうに押し込んであった説明書らしきものを見つける。機械系はそんなに暗いほうじゃない。取説さえあれば何とかなるだろう。俺はそれから何時間か機械と格闘していた。
業務用の機械はコツさえ掴んでしまえば、そんなに難しいものではなかった。プレート用の印刷機もそれ用の機械みたいで思ったより早く印刷できた。見本と比べてみる。うん、これなら合格だろう。しかし手軽にできたとはいえ、こういうのを作るならもっと大きな機械でやったほうが効率が良いのではないだろうか? 今は大きくて場所をとったり、高額な機械がなくても手軽にいろんなものが作れるって聞いてはいたけど。ここもそうなのだろうか?
どうやらうたた寝していたらしい。カシャンと扉が閉まる音で目が覚めた。
「お! もしかして終わってる? すげえな。さすが俺が見込んだだけのことはある」
石川は開口一番そう言った。そして持っていたコンビニのビニール袋からコーヒーを取り出して投げて寄越した。俺は頭を下げてありがたく頂戴することにした。石川は出来上がったパウチの証書を見て「おー」と感嘆の声を上げ、印刷された塩ビ素材を手に取って「うわ! マジ綺麗じゃん」と驚いて、最後プレートの出来を見て「凄えな」と呟いた。そこまで喜ばれるとなんだかくすぐったい。
「俺さ、あんまり説明してなかっただろ? だから電話くると思ってたんだけど、よく考えたら番号教えてねえし知らねえなって。だからパウチ加工くらいしかやってねえだろうなって思っててよ」
ああ、説明不足の自覚はあったんだ? というか確かに俺も番号知らないな。これは聞いておくべきなんだろうと思う。
「俺、LINEとかやらねえから電話番号でいいか? 繋がんない時は番号にメッセージ送ってくれよ」
そう言われて俺は頷いた。大丈夫だ、俺もLINEはやってない。そもそも連絡する相手がいない。そして俺は石川と番号を交換した。
「でも思ってた以上だったなあ。いや手先は器用そうな気はしてたのよ、けどこんなに最初から出来がいいとか。俺期待しちゃうなあ」石川はプレートを手に取って大事そうに眺めながら言った。それから俺を見てにこりと笑った。
なんというか石川って褒め上手だよな。そう言われたら俺だって嬉しい。
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