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「なあ、あそこのコンビニで働いてるってことはこの辺に住んでる?」気がついたら石川は机にもたれて目の前に居た。
「ああ。でもちょっと離れるかも久保山のほうだから。あっちのほうが安いし」
「だったらここに住んじゃえば? そうしたら移動しなくて楽じゃん」
はい? いきなり何を言い出すのかと思えば。俺の住んでるところは安いアパートだし、ここはいくら古いっていったってマンションだ。
「だってここって家賃高いだろ? コンビニの給料だって下がるのに。この仕事だって幾ら貰えるのか聞いてないし」
「え? まだコンビニ続ける気でいるの?」石川は驚いたように言った。それから「そっか、説明してなかったか」と言って苦笑した。
「いま月に幾ら貰ってんの? ついでに家賃は幾ら?」
「多くて十五万くらいかな。シフト減らされたら十万ちょっとになるかもしれない。家賃は五万」
「ずいぶん安いとこ住んでンなあ。ここは八万五千円なんだ。うーん、じゃあ試用期間ってことで二十万。慣れてきたら三十万でどう? それでコンビニ辞めちゃえよ」
二十万? マジで? 最初の会社でもそんな手取りじゃなかった。額面はそんなかんじだったかもしれないけど。
「ホントに?」俺は恐る恐る石川に確認する。
「おう。なんなら契約書でも交わすか?」石川はパソコンの契約書ってフォルダを開いて適当なものを選んで数字や期限を修正して、プリントアウトした。そして「ちゃんと読んで署名してくれよ」と二枚渡してきた。丹念に読む。こういうのはちゃんとしておかないと後で揉めるからな。金額も合ってるし、一応試用期間は三ヶ月って書いてあった。
「試用期間中は家賃の差額は俺が払う。それだって俺はかなり安くなるわけだから得だろ?」
そう言われればそうかもしれない。石川だって旨味がなければここに住めなんて言わないだろう。俺は契約書二枚にサインした。明日にでもコンビニには辞めるって言おう。
帰り際、俺は気になったことを聞いてみる。
「なあ、俺も石川のこと“カシラ“って呼んだほうがいいのか?」
水を飲んでいた石川は吹き出しそうになって咽せていた。
「ええっと、ここにいる時は別に名前で構わねえけど……アイツらの前ではそう呼んでくれるとありがたいっていうか」
俺は分かったと返事をした。よく考えたら“カシラ“って変な呼び名だな。焼き鳥みたいだ。