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春を感じさせる風は、頬を撫で髪の間をサラリと通り過ぎていった。
それがあまりに心地よくて、立ち止まって空を見上げた。
「どした?」
空よりも深い色の彼が、単調な声で言葉を放つ。
なんでもない、と応えようと顔を向けると、彼はとんでもない化け物を見たような顔で
「えぇ…?」
と帰ってきた。
俺の顔に何か付いているのだろうか。
は?何?と返してみる。
「なんか急にニヤニヤするやん」
「きっ….シュ」
辛辣すぎん?
「一緒に歩いてるのが恥ずいんだけど」
マ?そんな酷い顔してる?
「フッw 冗談ですやん!w」
はぁ〜?
だんだんキレそうになる俺をお構いなしに、彼はどんどん進んでいく。
冷たくなってきた指先にほぅ、と息を吹きかけ、早朝の澄んだ空気の中桜並木の中を散歩する。
満開の桜に包まれて、2人、しばらく黙って見入っていた。
お前と2人で見られるとは、思っていなかったな。
人生何があるか分からないものだ。
「な〜にジジイみたいなこと言ってんの?」
最期だし、ジジイとほぼ一緒だろ
「…たしかに」
おい、納得すんな!
彼が笑うと同時に風が吹き、花弁がふわっと空へ舞い上がった。
朝、部屋に姿がなくて慌てて探しに出ると、まだ蕾が開ききっていない桜の木の下に、車椅子にのった彼が居た。
どのようにしてここまで来たのかは分からないが、
とても、穏やかな表情で眠っていた。