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グリルタ
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日曜日になり、正午少し前に見せに着く時刻を計算して、晶子は電車で秋葉原へ向かった。
電車の中でスマホのネット検索機能を使ってメイドカフェに関するあれこれを調べてみた。調べれば調べるほど、晶子の表情は渋柿を口いっぱいに頬張ったかのようになっていった。
様々な色と形のカラフルなミニスカートの制服に身を包んだ、セクシーな女性の姿ばかりが目に入って来たからだ。
電車が秋葉原駅に着くまでの間、晶子の頭の中ではカンナが肌も露わな姿で年上の男性の横に座って……という光景がどんどん膨らんでいた。
スマホの地図ナビを見ながら駅から数分歩くと、そのビルがあった。一階は電気製品の量販店になっていて、その上の階にカンナが働いているメイドカフェがあるらしい。
そこへたどり着くまでに、大通りのあちこちでビラ配りをしているメイドカフェの制服姿の年上の若い女性たちの姿を数えきれないほど見た。晶子の緊張感はますます高まり、良く晴れた初夏のすがすがしい陽気の下にも関わらず。晶子の顔にはうっすらと汗が浮かび、そのくせ背筋には寒気がしていた。
その店の入り口らしき場所を見つけたものの、晶子はそこで足がすくんで動けなくなってしまった。晶子は震える手でポシェットからスマホを取り出し、カンナに通話をかけた。
十数回呼び出し音が鳴ったところでカンナの声がした。
「晶子、どうした、迷子になったのか?」
晶子が自分の今の位置を伝えると、カンナは呆れた口調で告げる。
「だったら、そのドアから入ってくりゃいいんだよ」
「だってカンナ……」
晶子の声は半ば泣き声になっていた。
「あ、あたし、こんな所来るの初めてだし、なんか怖いし」
「しょうがねえなあ。今迎えに行ってやるから、そこ動くなよ」
数分後、店のドアが開いてカンナが出て来た。カンナが着ていたのは長そで、くるぶしまである長いスカートの黒いワンピースの上に真っ白なエプロンを重ねた服。
昔のヨーロッパ特に英国で貴族の館に仕えていた家政婦としてのメイドの服に似た物だった。カンナはドアを出てキョロキョロとあたりを見回しながら晶子の側に近づいて来る。が、いつまで経っても晶子に気づかない。
「カンナ……」
蚊の鳴くようなか細い声で呼びかけた晶子に目を向けて、カンナは「ワッ!」と驚いた声を上げた。
「晶子か?」
カンナが顔を近づけて、晶子の姿をまじまじと見つめる。晶子は普段着のブラウスと長いパンツ、カーディガンを羽織るという、まあ普通の服装だったが、大判の白いマスクとサングラスですっぽり顔を隠していた。
「おい、何だよ、その格好は? 強盗に入る気か?」
呆れてそう言うカンナに、晶子は相変わらず震える声で応える。
「だって、こんな店に入るとこ、誰かに見られたら大変じゃない!」
カンナは一瞬きょとんとして、それからプッと噴き出して笑った。そして晶子の手を取り、ドアの方へ引っ張って行く。
「ま、百聞は一見にしかずだ。とにかく来いよ」
カンナに手を引かれながらドアを二人でくぐると、晶子の予想とは全く異なる風景があった。
床にはワインレッドのカーペットが敷かれ、壁には落ち着いた色合いの花の模様が描かれた壁紙、窓には白いふわりとしたカーテン。テーブルや椅子は高級そうな、カーブを多用した木製の物で、店内にはクラシック音楽のBGMが流れている。
「え? これがメイドカフェ?」
呆気に取られている晶子の顔からカンナがサングラスとマスクを取り去る。
「そうだよ。その怪しい格好のまま入るな」
そしてカンナは入り口のレジ机の上の10センチほどの高さのベルを振った。チリリンと澄んだ音が響く。カンナがやや緊張した口調で声を張り上げる。
「一名様、ご来店です!」
近くにいた二十歳ぐらいの店員が駆け寄って来た。カンナと同じクラシックなメイド服を着ている。他の3人いた店員もみんな同じ服装だった。
先輩のメイドさんはスカートの裾を両手でつまんで持ち上げ、そのまま少し姿勢を低くしてあいさつした。
「いらっしゃいませ。奥へどうぞ」
カンナと先輩のメイドさんに案内され、晶子は窓際のテーブルに座る。先輩のメイドさんはメニューを取り上げカンナに手渡した。
「じゃあ、カンナさん。お客様へのご案内、教えた通りにやってみて」
「は、はい!」
カンナは表情をきりっとさせ、少したどたどしく、晶子に向かって説明を始めた。
「本日はよ、よ、ようこそいらっしゃいませ。こちらが、ええと、その、あ、本日のランチメニューでございます」
あちこち言い間違えながら、一通り説明が終わったところで、狐に化かされたような顔をしていた晶子はあわてて、言葉を返した。
「あ、それじゃ、この紅茶とピラフのセットを下さい」
「か、か、かしこまりました」
カンナは伝票に注文をボールペンで記入し、スカートを少し持ち上げて体を低くし、最後に「少々お待ち下さい」と告げて、大きく息をついた。
「あの、これで良かったですか?」
カンナが先輩のメイドさんに尋ねる。先輩のメイドさんはにっこり笑ってカンナに言った。
「初めてならこんなものでしょ。まあ合格という事にしましょう」
先輩のメイドさんがキッチンの方へ優雅な姿勢で歩き去る。カンナはもう一度ハアッと大きく息を吐いた。
「いや、緊張したあ! 結構難しいもんだな」
晶子は今一度、カンナの服装を見つめながら不思議そうな口調で訊いた。
「ほんとにメイドさんなんだね。でも秋葉原のメイドカフェってこんな感じだっけ?」
「そこは後で詳しく教えてやるよ。あたし今日までは体験入店なんで、1時で上がりなんだ。一緒に出ようぜ」
キッチンの方からさっきの先輩のメイドさんがカンナを呼んだ。
「カンナさん、紅茶のポットとカップをそちらへお持ちして」
「あ、はあい!」
長いスカートに慣れていないカンナがややギクシャクした動きで歩いて行く後ろ姿を見ながら、晶子はまだ首をひねっていた。
コメント
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そうか、これがカンナの働くメイドカフェ……! 晶子があんなに緊張してサングラス&マスクで完全防備してたのに、実際の店内はクラシックで落ち着いた空間で、拍子抜けというかホッとしました。カンナがたどたどしくも「ようこそいらっしゃいませ」って練習してる姿にほっこり。先輩メイドさんも優しくて良い職場ですね。まだまだ謎もありそうな、続きが気になる回でした🌷