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「ほの病院なあ、昔穴空いとったとこに建っとるのよ。〝あ《は》の世の穴〟」
「えっ? あ、ああ、〝あの世の穴〟ですか?」
ほうほう、と頷く定一。
「はの世に通じとる、いううでなあ、ほがいにおおけな穴でもないに。肝試しなんかもしたなあ。中には入っとらあんでえ……ほでなあ、あの、それがちょおうど、霊安室のあるとこよ」
「な、何がですか?」
「穴がな。ほでなあ、死人やんかあ、死霊やんやらがあの部屋からたんまにへえ出てくるんじゃあで。ほういうような話よ。おおよそが」
「え、ええ……それは本当なんですか?」
ひゃはひゃひゃひゃひゃはっはっ、と、老人の哄笑が周囲の空気を圧した。裏庭にまで響いたかもしれない。
「んんなわけがないわい。ぼうは怖いんかい?」
昭雄は少し怯んだ。が、一応は男としての矜持のようなものはあった
「いえ。しかし……いやうん。でも気味は悪いですよ。そういう話を聞いてしまったら
おんやあ、なんせえ! 定一は派手に驚いてみせた。凸凹の入れ歯が口腔から覗く。
「あれやあなあ、なんもうない時にもがっちゃがっちゃ鳴る時はあろうがなあ、仏さんのある時によう鳴りよるゆう話よ。やあから言いよるのよ。お医者のせんせえじゃろう? ほれいいよるの?」
「ええ、まあ。僕は院長先生に言われましたよ。初日に」
定一はゲタゲタゲタ、とまた大口を開ける。
「ほれよ、な? 仏さんのおる時の音はなあ、仏さんが黄泉返って鳴らしよえるんじゃと。お医者はなあ、ほいやから開けるなあ、いうのよ」
「どういう意味です?」
「自分らあがなあ、死んどお言うたもんが生きとったあいうたら始末に困ろうがい。ほれよ」
「いやいやそんな……日上さん、それ名誉棄損かなにかになりますよ」
昭雄は一応、笑っている定一を窘めた。