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6、茜→クスリの恐怖
最近、つまらない。
今日もクラブで踊りながらぼやく。
クラブは休み前は賑わって楽しいけど、平日はいつも同じ顔。 そのメンツの中でもまぁまぁな男とはヤッちゃってるし、茜が遊んでる女ってバレてるから最近あんまり相手にされないし・・・。
こんな堕落した生活を始めてすでに一ヵ月半が経っていた。 茜はクスリで体重がかなり落ちて体はガリガリ。 昔の茜の姿は見る影もなくなってしまった。
『おー。茜!』
健吾が近づいてくる。 健吾とは初めて会った日以来、週の半分位は一緒に過ごしていた。 彼氏ではないけど会えばセックスをしている。 つまり、セックスフレンドの関係だった。
「ねぇ、ケン。
最近つまんなくない?」
健吾に尋ねる。
『そりゃあ、つまんなくなるだろ。
毎日クラブばっかり来てるなんて暇人だなぁ。
友達と遊び行ったりしないの?』
友達・・・。
そんなの、もぅとっくに居ない。 みんな茜にあきれて離れていった。 毎日のように絵里から心配するメールは届くけど、あんな女はもう友達じゃない。
「いないよ。そんなの。
しいて言えば、サヤカやクラブ来てる人たちくらいじゃない?」
『あー、ジャンキー集団ね。』
健吾が淋しそうに笑う。
哀れに思われた気がして、むなしかった。
最近近くにいる人間はジャンキーばかりだ。 茜がそうだから仕方ないけど、会えばクラブかクスリの話題。
「前は楽しかったなぁ。
飲みに行ったりドライブしたり。
クラブより楽しかったかも・・・」
昔を思いだし、いきなり涙が溢れた。
健吾も驚いていたけど、それ以上に自分自身にビックリした。
最近、涙なんて忘れてた。
『おまえさぁ、クスリとかやめねーの?
俺が勧めたから言える立場じゃないけどさ。
最近の茜、おかしいぞ。』
健吾が茜の頭をなでる。
『俺もクスリやめるつもり。
元々クラブ行く日だけしかしなかったけど。 ほとんど週末だけ。
平日は仕事あるし友達と飲みに行ったり、メリハリつけてるつもりだったけどさぁ、もう止める。
茜もそうしろよ。』
驚いた。 健吾が止めるなんて・・・
そして、少しうらやましく、かっこよく見えた。
いつもサヤカの友達のプッシャー(売人)から安くクスリを買っているけど、そろそろ貯金もなくなってきた。
毎日セックスするのも、一人でいたくないって理由もあるが、クスリをタダでもらえるからって理由もある。
茜はクスリ中心の生活。 そんなすさんだ生活に嫌気がないといったら嘘になる。
まともにバイトでもして普通に遊んで、まともな生活に戻りたいとゆう気持ちもある。
でも、もう引き返せないとゆう諦めの気持ちも強い。
『俺、バーで働いてるじゃん?
茜もうちで働かないか?
人手たりないんだよ』
「やってみたいかも」
茜は速答した。
変われるキッカケがあるなら、変わってみたかった。
昔の自分が恋しかった。
その日はそのままクラブを出て、健吾の働くバーに遊びに行くことにした。
バーはクラブから歩いて5分くらいの距離にあり、《ティアラ》という名前だった。
『おつかれさまでーす』
健吾がそう言いながらドアを開ける。
中は十畳ほどのスペースで、カウンターにいる30歳くらいの若造りな男がカクテルを作っていた。
茜たちは空いているカウンター席に座り、ドリンクを頼む。
『祥さん、この子面接してくださいよー』
健吾がカウンターの男に話す。 祥と呼ばれた男がこの店の店長らしい。
『人手たりないから大歓迎だよ!
でも、いくつなの?』
祥は茜の顔をじっくり見て言った。 さっき健吾に『深夜は18歳未満の勤務はムリだから、歳ごまかせよ』と言われたので、18歳ですと嘘をつく。
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それから簡単な質問をされ、あっとゆうまに採用になった。
履歴書を書き、平日の夜のシフトを希望する。 健吾と同じシフトだ。
『じゃあ、明日からね』
祥にそう言われ、健吾とティアラを出る。
「あっとゆうまにプーからフリーターに昇格したよ!」
笑いながら健吾に言うと、健吾も喜んでくれた。
バイトが決まり、思っていた以上に茜自身も喜んだ。
そして健吾の一人暮らしのマンションに向かい、コンビニで買った弁当と、就職祝いのケーキを食べる。
「抜けてきちゃったなぁ。今、入れたら明日仕事キツイよね?
どうしよ・・・」
茜はバッグからタマを出す。 クスリが抜けてくるとだるくなり、またしたくなる。
でも、せっかくバイトも決まったし、変わろうと決意したばかりだ。
『やめろよ!
寝れなくなるし、寝ないと明日キツイぞ。
ジャンキーだとろくに働けないし、頑張れよ!』
健吾は茜の手からタマを取り上げる。
「あっ・・・」
取り返したくなった。
でも我慢する。
今日、健吾のお陰で変われる機会がきた。 今を逃したらまた同じ生活・・・。 クラブ漬けの生活なんて長くできないことはわかっている。 茜はそこまでバカじゃなかった。
しかし、体は敏感に反応した。 手足に汗がにじむ。 体が震える。
あぁ、クスリが欲しい・・・
健吾と話しても、弁当食べていても、頭の中ではクスリでいっぱいだ。
『・・・おい?茜?
聞いてるの?』
健吾に指摘される。
「ダメなの・・・。
クスリ、欲しい。
さっきのタマ、返して」
健吾は黙っていた。
そして、健吾は弁当を食べるのを止め、箸を置いた。
そして、意外な名前を出した。
『茜、サヤカと知り合いだよな?
最近連絡取れないだろ?』
「??」
そう言えば、サヤカとはここ一週間会ってなかった。 でも、なんでそんな話?
『茜がショック受けると思うから言えなかったけど、サヤカ死んだって。』
「はぁ?!嘘でしょ?」
ビックリして持っていた箸を落とした。
嘘、嘘、ぜったい嘘!
サヤカは一週間前は普通に元気そうだった。
一緒にタマ入れて、一緒に踊った。 そして、いつものようにクラブ前のコンビニで別れた。
『信じられないだろ?
俺もだよ。 サヤカとはよくクラブで話したし。
サヤカの彼氏、ティアラの常連で、おととい来たんだ。
すげえ落ちてて・・・。
サヤカが死んだって言ったんだ。
葬式行って、火葬場まで行って、骨拾おうとしたら・・・』
そこまで言って、健吾はうつむいて黙る。
そしてタバコに火をつけ、ふぅーっと煙を吐いた。
茜はあまりの衝撃に、固まってしまって声も出ない・・・。
まさか・・・あんなに元気だったサヤカが・・・
『骨、なかったって。
てゆーか、拾えなかったみたい。』
「・・・どーゆうことなの?」
『骨がスカスカになってて、焼いたら骨も灰になってたって・・・。
サヤカ、昔からシンナーやクスリやってただろ?』
確かにサヤカの地元の子から、聞いたことがあった。
中学からガスやシンナーに手を出して、すごかったって・・・。
「サヤカ、何で死んだの・・・」
手がプルプル震える。
『あいつキマってて・・・訳わかんなくなって、車道に飛び出したんだって。
それで車にひかれて・・・。
即死だったらしい。』
「そんな・・・」
頭がパニックになって、喉がビュービュー鳴った。 咳が止まらない。
苦しい・・・
息ができない・・・
「ゲホッ。
ゲホッ・・・オエッ」
吐き気と咳と涙と鼻水が一気に襲ってきた。
「苦し・・・ゲホッ」
『だ、大丈夫か?!
過呼吸だろ?!』
健吾は弁当を買った時のコンビニ袋を茜に渡し、これを口にあてて袋の空気を吸えといった。
しばらくして呼吸が整ってくる。
『大丈夫か?
精神的に不安定な時や鬱病だったりすると、ショックな事起きたら過呼吸になるらしいぞ。
もしかして茜、精神的な病気あるのか??
だからあんなにクスリにはまって抜けれないのか?』
健吾が心配そうに茜を見る。
そして、涙と鼻水でボロボロの茜の顔をティッシュで拭ってくれる。
「あたし・・・。
骨なくなったり、死ぬの嫌っ! 恐い・・・。
ケン、茜にあぶるならシャブも体に悪くないって言ったじゃん!
嘘だったの?!」
パニックになった茜は健吾を責めた。
そして、何も知らずにクスリを常用した自分の無知にくやしくなり、健吾にやつあたりをする。
『ごめん・・・』
「ひどい!!」
健吾の頬を叩いた。
茜は号泣しながら健吾を責め続ける。
恐かった。 誰かのせいにしないと死の恐怖に自分までのまれていきそうで・・・。
その間、健吾はひたすら茜に謝った。
そして、健吾は言った。
『最初はただのバカ女だと思って、クスリとか色々やらせて都合いい女にしてた。
それは、ほんとごめん。
でも、茜が毎晩クラブでクスリして変わっていく姿見て、罪悪感わいたんだ。
サヤカが死んだ話聞いて、他人事じゃないと思って・・・。
茜が死んだらどうしようと思った。
茜、本気で一緒にクスリ止めないか??』
茜は何も答えなかった。
そして健吾に背を向け、ベッドに入る。
布団を頭までかぶり、必死にクスリをやりたい気持ちを押さえる。
そして、そのまま茜は眠りについた・・・
翌朝目が覚めると、隣に健吾はいなかった。 カーテンを開けると朝のまぶしい日差しが暗い部屋に差し込む。
「まぶしっ・・・」
思わず顔をしかめた。
でも、嫌じゃなかった。
いつもクラブで遊んで夜を明かし、外に出ると朝日が昇っていた。 あの日差しは夢から現実へ戻されたようで、すごく嫌だった。
でも久々に夜に寝て、朝日をあびて起きて、今日はすがすがしい。
寝起きのタバコを一服し、部屋の鏡で自分の顔を見る。
鏡の中には、青白く痩せこけ、ボロボロのメイクをした女がいた。
メイクを落とし、きれいにメイクをし直す。 最初よくしていた厚化粧ではなくて、薄くファンデを塗ってナチュラルメイクをする。
一通りメイクが終わると携帯が鳴った。 健吾だ。
昨日の記憶がよみがえり、少し気まずくなった。
「・・・もしもし?」
『起きたか?
俺さぁ、今仲間とスーパーいるんだよ!』
「は??スーパー??」
健吾にスーパーは似合わなかった。
『これから真冬のバーベキューだから!気分転換になるだろ? 用意しとけよ!!』
「・・・はい」
よくわからないまま返事をして電話を切る。 そして、このバーベキューも健吾が茜の為に考えてくれだって気付いて、胸がポカポカ暖かくなる・・・。
携帯のディスプレイには、新着メールの表示がでていた。 きっと絵里だ。
絵里は毎朝必ずメールをしてきた。
『おはよう。最近体調はどう?無理してないかな?
茜に会って話したい。絵里は茜とこれからも友達でいたいよ。
裏切ったくせに勝手だって思うだろうけど、本音なの。連絡まってます。』
そうメールで入っている。
複雑な気持ちだった。 一ヵ月以上、毎日メールを送ってくれる絵里の気持ちもわかる。 でも、茜はそれですぐ許せる程、心が広くなかった。
メールを閉じ、髪をセットする。 クラブ以外に遊びに行くのは久々だった。 用意が終わってくるにつれ、次第に心が弾む。
そして健吾が迎えにくる頃には待ちくたびれていた。
バーベキューは楽しかった。 茜と健吾と健吾の友人カップル二組の計六人で、車で一時間くらいの河原へ行った。 寒いから豚汁を作り、鉄板焼をする。
料理なんてした事がなかったから、茜の切った野菜は不揃いで不恰好だった。でも、健吾や友人たちのカップルはおいしいと喜んでくれた。 茜も素直に嬉しく思えた。
河原にいる時、茜はクスリを忘れる時間が長かった。 健吾が考えてくれた計画に、感謝した。
そして健吾と茜のバイトの時間が近付き、二人で先に帰る。 車内には健吾の好きなR&Bの曲が流れている。
『茜、気まずくなかった?楽しめた?』
健吾が先に口を開いた。
「うん、ありがと」
茜は自然に触れて、素直になれている気がした。
「昨日はごめんね。
パニックになって・・・。
クスリのキッカケはケンでも、はまったのは茜が弱かったからなのに。
ケンのせいにしてごめん。
つらかったよね・・・」
『てゆーか、俺が悪いから。ほんとごめんな。
罪滅ぼしにはならないかもしれないけど、茜が立ち直るまで一緒に頑張りたいから。』
健吾は優しい人だった。 昨日の夜まで、健吾はヤリチンで顔だけの男だと思っていた。
でも違った。 クスリは人格まで変えていたんだ。
帰り道はすいていて、あと少しで駅前に着く。 ティアラまで、あと少し。
「あっ・・・」
赤信号で止まった時、見覚えのある車が横に並んで止まった・・・