テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
386
#長編
#ファンタジー
ドラゴンの露草色の双眸に憎悪の色はない。目をキラキラさせて期待している。数秒後には尻尾がへにゃりと、床に垂れ下がって「駄目?」と目を潤ませてなんだか捨てられた子猫のよう。いやドラゴンだけれど。
だから思わず即答してしまった。
「おい、ちょっと待て! お前、人外と絆を結ぶって意味分かっているのか!?」
アルベルト様は片手で私の頬を掴み、にぎにぎする。軽率だったとは思う。でもあんな顔されたら絆されてしまうではないか。
「まったく? でも仲良くしたいというのはわかったし、敵意もないし良いかなーと」
「軽っ。先ほども少し話したが、人外と絆を結ぶ時は慎重になれと言っただろう!」
「う……。ならもう少し様子見してから本契約するとかは可能ですか? こうお試し期間的な?」
「それなら可能だ。だがまず絆の種類について話しておく。おいベルナール、お前もコイツへの説明が終わってから改めて絆を結ぶ旨を伝えろ。あと何か茶を出せ」
(ちゃっかりお茶を要求した!?)
「うん! わかったよラフェド」
「今の俺はアルベルトだ」
「わかった、ラフェド!」
「……」
アルベルト様は何も言わず頭を抱え、竜王と呼ばれるベルナール様はウキウキでキッチンへと消えていった。今ので二人の関係性がわかった気がする。アルベルト様って意外と苦労人かもしれない。
ふと珈琲独特の香りが漂い始めた。しかしなんだか匂いが薄い。
(カフェオレとか?)
「話を戻すぞ。教会でもしばらくは座学やこの国について学ぶ授業があるが、お前は特にあの鎖国的な国に居たので、常識から教えていく。まず人外は人と似通っているが思考回路や価値観が異なる。だからこそ気軽に約束などはするな、絆も同じだ」
「おお……教師っぽい」
「聖職者だ、一応」
「一応って……」
真剣なアルベルト様は思ったよりも律儀に返答する。
「人間の倫理感も道徳も意味をなさない。人外は『人でなし』と覚えてけ。付き合っていくつもりなら、距離感とその都度摺り合わせもすることだ。執着も人外によって異なるから注意も必要だ。貰う物、渡す物も意味がある場合もあればないこともある」
(教えるは結構上手かも)
過保護な親戚のお兄さんという感じが増した。懐かしくもあり、本当に私のことを覚えていないのだとちょっと悲しくもあるのは内緒だ。
「最後に絆について。結ぶ場合は契約となるが、解除も条件をつければ可能だ。それと人間は何人でも人外と絆を結べるが、人外は絆を結べるのは一人だけだ」
「それは何故に? あ。もしかして人間を奴隷にして感情の蒐集をしていた?」
「まあ、そんなところだ」
言葉を濁したが正解なのだろう。あくまで契約の主導権は人間に譲ってくれているのは、彼らなりの譲歩ということなのかもしれない。
「絆には幾つものカテゴリーがあり、ざっとこんな感じだ」
アルベルト様は何もないところから一枚の羊皮紙を取り出して、見せてくれた。私とは違うけれどアイテムボックスのような物なのだろう。
書かれている内容を纏めるとこうだ。
友人=仲良し。対等。
親友=とっても大事。守りたい。家族や庇護対象。
盟友=一緒に居ることを認めるにあたう力を示した者。友人枠に近い。
相棒=同格と認めている。信頼感、仕事としてベストパートナー。
知己=親友に近いがこの言い方をする奴はヤンデレ傾向にある。
魂友=運命的な繋がりを感じる。ナルシスト傾向あり。
仲間=同じ種族、同胞という括り。庇護対象。
(友と言うだけでもこれだけのレパートリーがあるのね。そして微妙に使う言葉でカテゴリー分けしている……それによって他に人外にどういう関係なのかを分かりやすくしているってこと??)
ちなみに友人以外はざっくりしていた。
家族=一緒に住む大事な人たち。友人の上位互換。
同居人=一緒に居る。危害を加えない。
恋人=友人以上遊びの関係。
愛人=肉体関係のみ。
婚約者=結婚前提。ほぼ解消はない。
伴侶=生涯でただ一人だけ。溺愛。重愛。
花嫁=生贄。
使い魔=ビジネスパートナー。好きとか嫌いとか関係ない。契約上の関係。
隷属使い魔=無理矢理従えている。低級の人外のみ。
ペット・飼い主=愛玩対象。可愛がりたい。飼いたいor飼われたい。
「へー、って花嫁だけ可笑しくない!?」
「ん? あー、遙か昔に人間が【花嫁】を捧げることで願いを叶えようとしたのが流行ったせいで、人外界隈ではそうなっている」
「界隈って……正しなさいよ。乙女の憧れ的な名称になんたることを! これ絶対勘違いする女性多いわよ」
「そうだろうな」
しゅぼっと、再び煙草に火を付けたアルベルト様は事もなげに答えた。「大司教なのに煙草を吸うな。クリーンなイメージを保て」と思ったが、話を遮るのでとりあえず黙った。
「訂正しないのは人外の中には生贄、身を捧げる女を求める屑もいるからな。だから下手に訂正させると混乱させるので、少なくともこの国に住む住人には説明している」
「なるほど……」
「まあ、この国は人外は多いが人間と仲良くなりたい、友や伴侶、家族を持ちたいという奴らを集めて作った国だ。基本的にはそういう相手を見つけるために、聖女候補者を集めているのもある」
「お見合い的な?」
「……そんなところだ。得てして運命に抗う者たちは人間にしては頑強だからな」
(褒められているのか、貶されているのか……)
どうやら本当に生き残りを賭けた殺し合いではなく、お見合い的な場所らしい。遊戯という意味はどこに掛かっているのか。
(それとも人間との関係が彼らにとっては遊戯だとしたら?)
かつて自分が友人以上恋人未満だったことを思い出し、胸が軋むような音を立てた。
(友人以上恋人未満……つまりは仲良しかつ遊び相手だったということ)
「おい」
ふと耳元で声が聞こえ視線を上げた瞬間、すぐ傍にアルベルト様のご尊顔があった。ヴィオレ色の瞳が私を貫く。
「!?」
「なんでお前は、時々そんな悲しそうな顔をするんだ?」
「……それは……っ」
貴方が私を覚えていないから。そう口に出来たらどんなに良いだろう。
でも、それすら伝えて覚えていなかったら、更に凹む。
頬に触れる大きな手が温かい。グッと距離を縮めて鼻先が触れるほどの距離に困惑してしまう。それはかつてラフェドと時折芽衣李の距離だ。
シルヴィアとして生きていた頃とは違う。それなのに無自覚なのかあるいは誰にでもするのか、アルベルト様は距離を詰めてくる。
「何が不安だ? なにが悲しい?」
「どうして……そんなこと……聞くのですか?」
もう他人で、前世の私を思い出しもしないのに。
「さあ。……よく分からないが、気になるのだからしょうがないだろう」
めちゃくちゃな理由だ。
合言葉は通じなかった。けれどもし前世の名前を言えば、何か気付くだろうか。喉がごくりと鳴った。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!