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「未央?」
「なんか、急に恥ずかしくなった……顔、見ないで……」
「いまさらでしょ。あのさ、僕のこと名前で読んでくれる?」
昨日からお願いされてばっかりだ。
「りょ……亮介?」
「はい」
「慣れるまで、時間……ください」
「早く慣れてくださいね」
亮介に軽くキスされる。幸せすぎてどうにかなりそうだった。部屋に戻ってシャワーを浴びる。あちこちキスマークだらけだ。ファンデーションで全部隠せるのかな? 仕事のときは見えないところにつけてもらわなくちゃ。
シャワーを浴びたあと、あしたの試食会に備えて試作をはじめた。
郡司くんはフードひとつって言ってたけど、奈緒のレシピでとりあえず予定していたものを作ってみる。
museさんで使ってもらえなくても、スタジオ限定メニューの候補になれそう。これを世に出さないのはもったいなさすぎる。
未央はガスオーブンに予熱を入れ始めた。ここの部屋のうれしい誤算は、ガスオーブンがついていたこと。電気でももちろんいいのだが、ガスオーブンの火力はやっぱり魅力的。
カボチャのキャラメルチーズケーキ、スイートポテトマフィンを焼きあげると、もうお昼になっていた。
お昼がわりに食べてみよう。ちゃぶ台に座ったところでピンポンが鳴る。
のぞき穴からのぞくと、亮介が見えた。
「はーい」
ニコニコとドアを開ける、亮介もにっと笑っていた。なんか幸せ。
「いまから、仕事いきます。体調どうですか?」
「ありがとう、大丈夫だよ」
「ならよかった、無理させちゃってごめんなさい」「ありがとう、仕事気をつけていってきてね。そうだ、いま試作つくってたんだ。よかったら一個持ってく?」
未央はスイートポテトマフィンをラップに包み、紙袋に入れて渡した。
「お昼まだだったので、うれしいです。きょう遅くなるので、練習なしでお願いします。練習っていうのかお話というのか……」
亮介顔を赤くしてあわあわしている。
そっか、練習。あれって、実際のところどうなの? もう必要ない? 毎回ちゃんと元に戻れてる様子だし……。
未央は聞きたかったが、亮介も急いでいる様子なので、またにすることにした。
バタンとドアを閉めると、亮介に対する疑問がいくつか浮かんでくる。
museの仕事はバイトなのかな? 大学院出たって言ってたけど、いま何歳? どうしてあんなに上手なの……?
いくつか疑問が浮かんでは消えた。また聞いてみなくちゃ。そうだ! 新田先生にもmuseさんとの話し合いについて聞かないと。……亮介に聞いたって言わない方がいいよね。下手に言うと魚雷を撃ち込まれそうだ。
いやいや!! このたび正式に彼女になったんだから、新田先生にも、聞かれたらちゃんと答えなきゃ!!
あれこれうんうん考えながら、マフィンとチーズケーキを食べる。──っ!! なにこれ、めっちゃ美味しい。
あまりの衝撃で、新田先生に興奮気味にメールした。
8.あなたみたいになりたい
──新田先生のレシピ、すごく美味しい!! カボチャのキャラメルチーズケーキも、スイートポテトマフィンも最高だったよ。またあとでスタジオで話そう!!
未央はそう連絡をすると、片付けをしてスタジオに向かう。先に出勤しているであろう奈緒と早く話がしたかった。
話すことは盛りだくさんだ。空前の大ヒットになるかも!! 高揚した気持ちが風にのって空の向こうまで飛んでいくようだった。
いつもなら、museに寄ってから出勤するが、さすがにきょうは亮介と顔を合わせるのが恥ずかしくて、やめておいた。
スタジオに入ると、奈緒はレッスン中だった。玲奈は休憩室で、ほかの先生と談笑していたが、未央に気がついて声をかけてきた。
「未央、早いのね。きょうは4時からでしょ?」
「うん、新田先生とコラボの件で話があって。あした試食会なのは聞いた?」
「うん、急だったけど、新田先生みんなにちゃんと話してたよ。休みの先生も都合つけられる人は来るって」
「あしたが楽しみ。めっちゃおいしいんだよ新田先生のレシピ。びっくりした」
「あれだけ言われたにしては怒ってないのね? ……なんかあった?」